虎の傷跡
栄一、亮介、ユキの三人は公園にて悪魔と対面していた。周りには数人の人がいたが彼らの状況には気づいていない様子であった。
「ううっ!」
栄一はその場にしゃがみ込んだ。
「相当痛む。どうやら物理的にやられた」
「傷は浅いみたいだが……」
と、亮介が栄一の手の甲を覗いたときだ。
再び、悪魔の二度目の攻撃が飛んできたのだ。
蹴りだった。
全身を黒いモヤに覆われたその悪魔は、格闘家さながら亮介に襲い掛かった。
悪魔の直撃を食らった亮介は数メートル先に転がされる。
「痛ってぇ!口に公園の砂が入りやがった」
「大丈夫か、亮介!」
その間、ユキはずっとすすり泣いていた。滲み出した血で染まったポロシャツを抑えながら悪魔を睨んでいる。
「くそったれぇえええええ!!!!」
栄一は鬼気迫る表情で、再び悪魔に殴り掛かった。右の拳は悪魔の顔面に直撃した。奴は一瞬仰け反る。が、しかし次の瞬間彼は自分と悪魔との力の差に絶望する。
傷口から出血が始まったのだ。それは悪魔の呪いの力などではなく、拳が衝撃に耐えられなかった結果である。
「うわぁあああ!!」
栄一が悲鳴を上げた。瞬間、彼らは直感した。「…………殺される」と。
一体、なぜ自分たちがこのような異常な事態に巻き込まれているのか想像がつかなかった。しかし、取り敢えずは命の危機に瀕している事態が把握できたので、恐れおののいた。
その時だった。
「あ…………」
ユキが囁いた。
「遠ざかる」
その言葉を聞いて栄一は反応した。
「遠ざかるって、何が?」
「悪魔が去って行く」
その言葉通りだった。悪魔はまるで線香の煙が立ち上って消えていくように、スウッと去って行ってしまったのである。
三人ともいささかの安堵感を覚えた。これで、この一瞬は殺されずに済むという安心感である。
栄一は地べたに座り込んだ。
「…………一体、何が起こったんだ?」
亮介はまるで魂が抜けたかのように脱力して言う。
「ほんとだよ。現実が理解できねぇ。ユキちゃん、何かしっているかい?」
栄一が問いかける。
「わかんないよ。私も」
「なんか、悪魔を召喚するような儀式とか………」
亮介の問いかけも半ば
「する訳ないじゃなん!!そんな気味の悪いこと」