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弾ける情念


 その少女をみた瞬間、栄一の心は躍った。彼女は新学期に合わせて彼のクラスに転入してきた白上ユキ(しらがみゆき)という少女であった。

 自己紹介の際に彼は直感したのだ


「あ、彼女タイプだ」

 と。それと同時にどこか瞳の奥に重たいものを抱えたような印象がすごく彼にとって興味深かったのだ。

 何をきっかけに話しかけようか、俺は君にすごく興味があるんだと伝えたい。

 そう感じたのを覚えている。

 だが、結局のところ別に焦る必要はないなと感じて、とくにアプローチを仕掛けなかった訳である。


 そんな彼女が、今目の前にいて「助けてください!」と、助けを求めてきているではないか。


「まあ、落ち着いて」

 栄一は言う。

「どうしたんだい?」

と、亮介。


「追われているんです!!」

 彼女の切羽詰まった怒涛の表情は、栄一を混乱させた。

「誰に?」

「悪魔です」


 栄一と亮介は顔を見合わせた。彼女の口から出た言葉が以外だったからである。

 事によったら彼女は統合失調症患者ではなかろうかと疑わざるを得ない発言だ。


「いや、悪魔に追われているって、そんな馬鹿な事が……」

 亮介が覚めた目つきで言ったときだった。


「いやぁあああああ!!!!!!」

 物凄い形相でユキは叫んだ。そして腕まくりをしたのだ。

 その異常なまでに興奮した声により二人は唖然とした。

「ど……どうした?」


 栄一が心配そうに語りかけたその一瞬だった。彼女の腕の血管が妙に張っているのだ。そのユキの青々とした美しい血管が今にも張り裂けそうな表情を浮かべている。


 その後、ゆっくりと血液が染みだして、ユキの白いポロシャツが徐々に赤く染まっていくのだ。その異常な光景にまたもや、二人は愕然とした。


「…………バカな」

 栄一は口をあんぐりと開けて彼女の血液を眺めた。悪魔に追われているという彼女の話を信じざるを得なくなったからである。


 次の瞬間、栄一の脳裏に先ほどの夢がフラッシュバックしてきたのだ。

 怪物の異常な異臭。怪物の恐ろしい佇まい。


「助けてください…………」

 助けてあげたかった。だが、栄一は何からどう助けてあげたら良いか分からなかった。


「…………悪いが、今の俺には……どうする事もできないよ」

 栄一は下を向き、残念な表情を浮かべながらそう答えた。


「…………待てよ」

 その時、亮介が静かにつぶやいた。


「女の子が真剣に助けを求めているのに、そりゃないだろ栄一。それでも男かぁ?」

 亮介はニイッっと笑みを浮かべながら栄一に問いかけた。


「助けて、あげたいさ。そりゃもちろん。でも駄目なんだよ。俺たちの力じゃ、この超怪異現象に太刀打ちできない」


「そう思っている原因はなんだ? たぶん、その悪魔からユキちゃんへの攻撃はできても俺たちから悪魔に対して物理的攻撃を与える事ができないと…………心の中でそう思っているんじゃないか?」


「ん?」

 栄一はハッとしたように気づいた。俺たちから悪魔の姿は見えない、けれども悪魔からは俺たちが見えている……考えてみれば理不尽な事だと思った。


 悪魔から、ユキちゃんへ危害を加える事ができても、ユキちゃんは悪魔に反撃をすることが許されない……非常に、不公平だとも感じた。と、同時に怒りが込みあがってきたのだ。


「…………姿を、みせろよ」

 怒りの目つきで彼はそうつぶやいた。


 数秒後、栄一は現実を疑う事になる。

 ユキの後側に白い、モヤのような影が見えるのである。


「……まさか、俺は見えているのか?悪魔が」

 そう言って彼は大きく目を見開いた。


「いるぞ!!栄一!」


 亮介の叫び声で栄一は自分が何をすべきか理解できた。

 悪魔に目を向けた瞬間、彼はその姿をはっきりと捉えた。白上ユキは依然として地面にしゃがみ込み、泣きじゃくっていたが、その後ろ側に傲慢な態度を浮かべた人型のナニカが悠々と立っているではないか。


 彼は、その姿に見覚えがあった。

 夢に出現していた、あの悪魔の姿そのものだった。


「捉えた!!しゃぁああああっ!」

 栄一は悪魔に殴り掛かった。


「危険だ!」

 亮介の静止も無視して、悪魔に拳を叩き込む。


 鈍い音がした。栄一の拳は悪魔によって止められた。追い打ちをかけるかのように、ガリィッと嫌な音が公園に響いて、地面の砂に赤黒い液体がポタポタ垂れ始めた。


 彼は、自分の手を抑えた。

 「手の肉を抉りやがった…」


 栄一の手の甲の部分にはハッキリと五本の爪の傷跡が残されていた。

「………本物だ」


 亮介は、再度困惑した。このようにありえない状況が目の前で繰り広げられているその凄惨さが、二人の心に深刻なダメージを与えた。


「………助けてください、追われているんです」

 ユキの震える声が響く。


 が、しかし栄一はここである一つの重要な点に気付いた。

 彼女を悪魔の手から守ってあげられるかもしれない、ただ一つの明確な事実。


「やったじゃねぇか!亮介、俺のこの手の傷だが、殴った瞬間に確かな手ごたえを感じた。つまるところ奴に物理的な攻撃を与える事ができるってわけよお」


「進歩だな。栄一、けれどもその前に早く傷の手当てをしないと」



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