一期一会
栄一と亮介は、しばらくの間教員の愚痴や他愛のない話をしていたのであった。
亮介という旧友は学力も運動もある程度優秀で、まあ人気者の部類に入るがその気取った態度を苦手に思い離れて行くものも多々あった。
そんな彼と、栄一の仲が良くなったのは、音楽の授業が原因だった。
時は数か月前、ドラムの練習という事でそれぞれエイトビートを練習する授業だったが、己の音楽の才能を見せつけたい亮介は教員の演奏する『オーラ・リー』という曲にオリジナルフィルインをつけて演奏した。
その場は見事に盛り上がり、クラスメイトからは亮介に喝采が送られた。
ただ、それにジェラシーを感じた栄一は、教員に伴奏を頼むと16ビートで対抗した。
ますますの盛り上がりを見せた二人のドラムはヒートアップし、ついにはギターとベース、女子のボーカルも登場し授業がライブハウス状態になると教員では収集がつかなくなり、校長が飛んできたという事実があったからだ。
そうして、二人の仲が良くなりたまり場である公園でよくロノウェの悪魔の音楽というのはいかなる音色かという話をしているくらいだった。
と、その時だった。
一瞬亮介が遠くのほうを指さして
「見てよ、あの子可愛くないか?」
と言う。
彼が指さす方向に目を向けると確かに自分らと同い年くらいの女の子がいるのが確認できた。
その子は長い黒髪に色白の肌。そしておおらかな出で立ちだが、その目つきは何かに怯える目つきであった。
彼らがその女の子を意識したとき、彼女もこちらに気づいたようでスタスタと二人の方向へ足を進めてきた。
「えっ、ちょっとコッチにきたんですけど」
亮介が言った。
「まあ、逃げずに待とうぜ。何見てんだよ気持ち悪いとか言われちゃったりして」
栄一は冗談っぽく言ったが、彼女が話かけてきた言葉は思いもしないものだった。
「…………助けてください!追われているんです!」
その尋常ではない雰囲気と焦りに満ちた目つきから、ただ事ではないという事実を二人は察する事ができたのである。