開始された物語
栄一はそこで今度は本当に目を覚ましたのである。
部屋の壁に張り付いてる時計に目を向けると時刻は午後五時をまわったところだった。
四月、桜がすべて散り爽やかな緑が芽吹き始める季節であった。中学二年生の新学期でクラス替えはあったものの交友関係の広い栄一はさほど新顔も見受ける事がなかった。
ただ、教科書に名前を書いたりする作業やクラスのみんなの騒々しさにうんざりして、家に帰るとすぐにベッドに突っ伏して眠り込んでしまった訳である。
そんなわけで見た悪夢というのが先ほどの夢で、気分を紛らわせようと散歩に出かける事にした。
栄一はアパートの三階に住んでいたので、ドカドカと急ぎ足で階段を下り、クラスのみんながよくたまり場にしている公園へと出かけていったのである。
小学生からの仲間たちがたむろしている公園まで差し掛かると栄一は、ムーンォークを始めた。
栄一のそれを見た仲間たちは爆笑を始める。
「おい見ろよ!長谷川がまたなんかヘンなことを始めているぜ」
栄一はマイケルジャクソンのファンだったので、いつもクラスではダンスを披露していた。
だが、彼の踊りは独特のキレがあって見るものを魅了して、クラスから笑い声が溢れるのだ。
それは決して下手だった訳ではない。どちらかと言えば物凄く上手なのだろう。
しかし、栄一が躍るとなるとなぜかクラスは和やかな雰囲気になるそんな感じだったのだ。
今日この公園でもそういう理由で歓声の声が響き渡った。
「栄一、お前の頭イカれてるんじゃねぇの?」
「ううん? それは誉め言葉ですかぁ?」
「誉め言葉に決まってんだろ!」
さっそく声をかけてきたのは亮介というクラスメイトだった。