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テロメアー生命の回数券ー  作者: 嵩戸はゆ
理想郷ーテロメアー
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第11話 その先は

 どれほど走っただろうか。保安局の人達が今にも迫って来そうで気が気ではない。もう足も限界だ。とうとうもつれてその場に転がってしまった。

 本当にこんなことをして外という所に行けるのだろうか。何故、ルイスは自分の名前を忘れたなんて言ったんだろう。…クレアは…クレアは大丈夫なんだろうか…。

 折れかかった気持ちは地面に転がったままのセスのまぶたを重くした。最果ての地のそのまた奥地。こんな所で寝てしまったら保安局の人に見つかるよりもタチが悪いのかもしれない。

 でも…もう無理…。

 意識が遠のく手前で聞きなれない音が聞こえた。

 ハッとして音のする方へ急ぐ。そこにはこの世界にあるはずのないトラックが何台も並んでいた。


 セスのいる所から何段か下がった位置にあるその場所はトラックの停留所のようになっていた。トラックから荷物を運び出す人達が忙しなく働いている。

 その近くまでそっと近づいて一番近くにある荷物を降ろし終えたらしいトラックの荷台に忍び込んだ。

 運良く誰にも気付かれることなく潜り込めたセスの元に作業している人達の声が聞こえる。それは耳慣れないものばかりだ。

「今年は暖冬だっただろ?だから野菜が採れすぎちまって。」

「おかしな気候だな。困ったもんだ。」

 リアン先生が言っていた野菜を栽培している施設に行くトラックなんだろうか。絶滅した野菜を復元させて安全かつ効率的に栽培しているという施設。外というのはそのことなのだろうか…。

 バタンと運転席のドアが閉まる音が聞こえ、車が動き出した。

 テロメアから脱出するんだ。そう思うと嬉しい気持ちと不安な気持ちが綯い交ぜになって心がぐちゃぐちゃになる。

 体がガタガタと揺れるのはトラックが悪路を進むせいなのか自分の震えなのか分からないまま自分の腕をぎゅっと抱えた。


 いつの間にか寝ていたらしい。荷台の入口にかかっている布から顔を出すと暗闇だった。まだ眠い目をこすると再びの眠りについた。


「おい!変な奴が荷台に乗ってるぞ!」

 誰かの大声で目を覚ます。

 しまった!見つかった!

 夜のうちにトラックから降りようと思っていたのに寝過ごしてしまったようだ。

 荷台の布から漏れる眩しい光に目が眩んで荷台を覗き込む人の顔は見えない。

 とにかく逃げなければ。

 覗き込む人の脇をひらりとかわしてトラックから飛び降りた。

「おい!こら!待てよ!」

 逃げた方がいいのか分からないまま駆け出した。しかし目の前の光景を見て、呆然とする。そこには…。

「おい!待ってって言ってんだろ?なんでうちの荷台に乗ってたんだよ!」

 セスは手を掴まれても動けずにいた。そこにはかつて遠い昔。今、この世界にはないものだと信じて疑わなかった滅びたはずの光景。

 道には草花が生い茂り、木々は好き勝手に伸びており、その枝には鳥がとまっている。そして花の周りには蝶がヒラヒラと舞っている。

 それは絵本の中や画像でしか見たことのない世界だった。

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