ふ、ふへへへへ
薄気味笑い、別にそれは自分の意思じゃなく、拭い難い癖や習性なんだろう。
「川中、一緒に帰ろー。ファミレス寄ってさ」
「いいよー。御子柴」
自分にもそんな時代があったなぁ、まぁ、あんな風に友達と一緒に遊びに行ったりすることはなかったけれどさ。
ふ、ふへへへへ
「なに気味悪い顔してるの?あ、元からだったけ?」
「酷い!友ちゃん!」
そんな僕ではあるが、今。全然、これっぽちも、トキメキがやってこない女性とのお出かけをしているところだ。荷物持ちとして僕は駆り出され、友ちゃんと付き合っている。
「気分転換に思いなさい、瀬戸」
「……それは友ちゃんが僕とデートすることで気分転換できると?」
「デートとか気持ち悪い事言うな。あんたみたいな、引きこもりは太陽の有難さや風の心地よさ、雨の切なさも感じられないんでしょーけど」
今、仕事でちょっと息詰まっている。締め切りを守るだけなら、多少の妥協を許せばそれで終わりなんだが、それがどうしてもできない。かといってまだ打開策もなく、時間を使って考えている。
「確かに太陽なら日焼けの痕、風ならスカートめくり、雨ながら透けブラと、友ちゃんは言いたいんだね」
「まったくこれっぽちも合ってないんだけど。お前の頭、ホントに煩悩だらけね。さっきの気味悪い顔も煩悩ね、はー」
ため息をつかれた。友ちゃんのため息、全然可愛くない。
もっと僕としては、ゴミだわー。みたいな強く蔑んだ瞳とトーンで、僕を見ながらしてほしかった。まったく相手にしていないため息はほとんどイラッと来る。
それがトリガーにもなって、先ほど見かけた今時な女子高生達の方を向いた。今、僕は社会人。夢叶ってイラストレイター兼グラフィックデザイナーだ。それでも未だに
「女子高生って良いなぁ」
「隣に女がいるのに、そーいう発言。止めてくんない?」
行き詰まりの大半は何か色々、詰まっていたストレスや、仮面被って常識っぽく気取るせいで、異質なことを邪悪と認識するところにもあるんだろう。友ちゃんとは仕事仲間だ。でも、今は”仲間”って思ってはっちゃけて、面白くしてやろうって
「不思議だよね。小学生の頃から女子高生が好きで、二十歳過ぎても僕、女子高生が好きなんだ」
「不思議ね。キモイ以外何も浮かばない」
「これって魅力があるからなのかな?結局、僕は高校生の時は何もできなかったけど。イジメられても、女子ならそんなに嫌悪感は抱かなかった。っていうか、あまりしてくれなかったな」
「どMの女好きの男とか、虐めたくないんだけど……」
「それは友ちゃんの感性がオカシイだけ」
「瀬戸に言われたくないわよ!!あんたが異常なだけ!!」
………こーいう会話。なんか違う。仲間だからか、女性と喋ってる感じがしない。なにより友ちゃんが胸がスレンダーで僕よりちょっと大きいくらいで、性格が勝ち気で男勝りで、意地っ張りで、我儘で、ツッコミが上手なところがダメなんだよね。
彼氏、いないもんね。
「………あ」
「なによ、今度は」
「いや、今の僕はどーいう顔をしてるかな?」
自分で頬を抓ってみる。
目と目を合わせて話すこと、ないし。よく分からないが、友ちゃんはそんな僕に対しても顔を見て、真実を言ってくれる。
「普通よ。別に、熱あるわけでもないし」
「……そーか」
「?」
「友ちゃんが言うなら、僕も自信持てる」
「は?」
さっき言われたこと。振り返ることはあまりないが、スケベなこと考えてたりしてたりすると、妙にニタつくとか、『ふへへへへ』ってみたいな気味悪い顔。自然と作られるみたいだが、友ちゃんと喋っているとまったく起きない。これっぽちも起きていない。
そーだ。こんな、気味悪いって言われても僕は笑っている。それが足りていないこと、妄想がまだまだ甘いことだ。なにか行き詰まりから抜け出せる、基準を思い出した。
「友ちゃんのおかげで、友ちゃん見てて、ありがとうって言えるよ」
「はぁ!?何言ってんの!気分転換、済んだのなら良いけど!」
「うん!ありがとう!」
目、合わせていなかった。けれど、友ちゃんはちょっと笑っていたと思う。
口元がちょっと緩んでいた。
「そっか、なら良かった」
ホッとしてくれるような声が、ちょっと元気になれた
「…………!ちょっと待ちなさい、瀬戸」
「?……!!」
しかし、友ちゃんは鋭く、何より自分が吹っ切れかけた理由を突き詰めてしまう。原因、
「今、あたしのこと。女じゃないって、思ったでしょ……?」
「え、えーっ……えーっ……」
「あたしはあんたの事、大嫌いだけど!女として見ていなかった目、向けてくる方がもっと、さらに大嫌いだーーー!!」
行き詰まりからの脱出のきっかけ。
友ちゃんに怒られようにしようと思いました。