#8 雪解け
望達が逃げたのを確認し、見届ける者は印を解いた。印が解かれ動ける様になった男は、望を追う為に見届ける者に背を向けた。見届ける者はゆっくり懐から短刀を取り出す。
なんの装飾もない古ぼけた短刀。
「哀れな躯よ、冥界に還れ」
そう言うと見届ける者は背後から男の首を刺しそのまま横に引き裂いた。鋭い裂傷音と供に男の頸が跳ね飛ばされ地面に転がる。頸を失った胴体も一瞬遅れてその場に崩れ堕ちた。
「借り物だからな、穢したらまずい」
そう言って、見届ける者は短刀の血糊をふきあげた。
◇ ◇ ◇
「まったく、どこ行ったのよあの二人」
望と巴を探して双葉公園まで来た彩加は異臭に気がついた。
「何このにおい?」
公園の中に視線を向けると、電球の寿命が近いであろう不規則に点滅する外灯が、倒れた男を照らす。不審に思った彩加が近づいた。
「大丈夫で……キャー!!」
それは頸を切り落とされた死体であった。
◇ ◇ ◇
当ても無くひたすら三号線を逃げ続ける望と巴。
「望さん待って……もう走れない」
巴は望の手を離し、その場にしゃがみこむ。望もそのまま路肩から阿良川へつながる河川敷の草むらに、仰向けに倒れこんだ。
満天の星空に輝く大きな満月
「綺麗な満月……」
巴も河川敷の草むらに倒れこみ、望と同じものを見ていた。
「未来の声が聞えたんだ」
あれは錯覚なんかじゃない。そう自分に言い聞かせる様に望は言った。
「未来ちゃんが助けてくれたんだね」
「巴さんありがとう、こんな俺を見捨てずにいてくれて」
「ううん、私は自分がしたい様にしているだけ」
「巴さんのいう通りだよね。俺がこんな有様じゃ未来が目を覚ました時になんて言われるやら」
「”お兄ちゃん、しっかりして!”ってね。ふふ」
「巴さん、未来の真似うまい! あはは」
二人の雪解けを満月が見守っていた。