#6 もの言わぬ殺意
二十三時
メイプル前の国道三号線を走る車は疎らであり、周りに人影も無い。
「望さん、待って!」
望を追ってメイプルを出た巴が叫ぶ。望は無言で歩き続け、歩みを止める事は無い。
「逃げるの? いつまで自分の殻に閉じこもってるつもりなの? 今のあなたを未来ちゃんが望んでると思うの?」
追いついた巴は望の前方に周り、今まで黙っていた想いをぶつけた。
「望さんとは比べるべくも無いけど……だけど私だって未来ちゃんが好きなの! 何か出来る事がしたいの!」
望は生気の欠けた目で無言のまま立ちつくす。
「お願い……お願い……望さん、還ってきて!」
巴は両手で顔を覆いその場にしゃがみ込み泣きじゃくった。
《……お兄ちゃん、……気をつけて……》
突如、望の脳裏に未来の声が流れる。
「未来!?」
《……黒い手袋に……気をつ……》
望の背中に強い悪寒がはしると同時に、辺りに言い難い悪臭が漂う。
ーーあの時と……花火大会のあの時と同じだ。強烈な殺意を感じる。
「どこだ! どこにいる!」
望は周囲を見渡した。
「望さん、危ない!!」
巴の叫び声で望は直感的に横に飛びのいた。その瞬間今まで望がいた空間に金属バットが全力で振り下ろされた。
ガキーーン!
地面に叩きつけられた金属バットが、鈍い強烈な金属音を当たりに響き渡らせる。
脳裏に聞えた未来の言葉通り、黒い手袋をした男。そして眼光から放たれる常軌を逸した殺意。
「巴さん、逃げろ!!」
横に飛んだ望は崩れた体勢のまま巴に叫んだ。しかし男は目の前にいる巴には目もくれず、望の方に向き直りゆっくり歩み寄る。その手に握られた金属バットはあまりにも強烈にアスファルトに叩きつけられた為、への字に変形している。
「望さん、逃げて!!」
先程とは主語が入れ替わった叫び声をあげて、巴は男を止めようと必死に腰へしがみつく。だが男は造作も無く巴を振り払い、やはり巴には目もくれず望の前に立ちはだかる。
そして大きく金属バットをふりあげた。