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#20 支える者

 午前中の晴天が嘘の様にうす黒い雲が陽光を遮り始める。


「ところで、お前には聞きたい事が山ほどある」


 先まで笑っていた望は、真剣な眼差しで見届ける者に向き直る。


「憑依した者」


 見届ける者が発した単語に望がピクリと反応する。


「奴らは死者だ」

「死者?」

「生ある者は事象の因果より逃れる事は出来ない。だが死者は別だ。奴らに選択肢は無く理の外の存在だ」

「どういう事だ?」


 小雨が降り始め、巴が病室の窓を閉める。


「死者にあるのは過去だけだ。未来は無い。お前の様に理を外れた存在を抹消するのに、生ある者が関われば矛盾がより拡大するだけだ。故に死者がただお前を殺すためだけに蘇る」

「そんな……あんな奴らが無限に? 俺はいずれ殺されるしかない」


 常軌を逸した殺意に満ちたあの目を望は忘れる事が出来ない。あの殺意の前ではただ絶望しかない。


「死者が生き返る。それが理なのか? 死んだ者が望む訳でもなく、ただ殺す為だけに蘇らせられる。そんな当たり前の様に口にする事なのか? 俺は絶対に、絶対に認めない!」

「望さん……」


 望の中で抑えきれない感情が爆発する。


「選択、事象の因果、理、一体なんなんだ! 俺が何をしたって言うんだ! なんで俺が生きてちゃいけないんだ! 俺はただ……」


 望の瞳から涙がこぼれる。悔しくて怖くて、ただ自分でも理解出来ない涙がこぼれる。つい一年前までは普通に笑って、泣いて、怒って、恋をして。

そんな当たり前の様に人生を歩んできたの自分が、なぜこんな事に巻き込まれなければならないのか?


「そんな事認めない!」


 涙と鼻水を垂らしながら嗚咽する望が、声の方に振り返る。


「望さんが生きてちゃいけないなんて、そんな事絶対認めない!」

「巴さん……鼻水が……」


 巴も歯をくいしばって泣いていた。涙と鼻水を垂らしながら。


「汚いな~二人とも」


ハクがティッシュを二、三枚とって二人に渡す。


「ハクちゃん、ありがと。ぐしゅ」

「ぐわ! 鼻水がついたーー!」


「……そろそろいいか、お前ら」

「……うん」


 鼻をかむ二人を見ながら見届ける者が続ける。


「二又瀬 望。お前が生き残るには理を整合させるしかない。どれだけお前が不条理だと思っても手をこまねいていては未来は掴めない」

「でも、どうやって?」


 小雨が降る窓の外は益々暗さの度合いを増し、正午になったばかりだというのにまるで夕刻の様な錯覚に陥らせる。


播磨守はりまのかみ。奴を斃す」


 ガタッ


 ハクが椅子から転げ落ちる。


「見ちゃん、正気っすか? 播磨守を斃すとか」


 見ちゃんと呼ばれた見届ける者はジロリとハクを一瞥する。


「播磨守って誰だよ、そんなにすごい奴なのか?」


 望の問いに病室が静まりかえる。


安倍朝臣晴明あべあそんはるあき

理の代行者にしてこのくにの歴史と理を支える者だ」



 雨はいつしか風雨に変わり、横なぐりの雨が窓を叩き続けていた。





生きるとは選ぶ事


選ぶとは選ばない事


選ばない為に選ぶ


生きるとは死を選ばない事




                第2章 黎明編 完


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