#17 選ばれし因果
真名を呼ばれたハクは白虎の姿に変化する。
《ぐ、に、逃げろ巴……》
「ハクちゃん、どうしたの?」
播磨守に命を受けた白虎は、抵抗しがたい力で少しずつ巴ににじり寄る。
「止めろ、ハク!」
立つ事すら出来ないほど疲労した望は、巴を護ろうと懸命に這い寄る。必死に呪縛を解こうと足搔くハク。
「およしなさいハク、真名をもって命じたのです。これ以上抵抗すると消滅しますよ」
口から泡をふき痙攣を起こす白虎。逆らいがたい力で一歩進む度に肩口の傷から血が吹き出る。巴の前まで来た白虎の目は自意識を失い、もはや殺気しか残っていなかった。
「ハク、おやりなさい」
播磨守が静かに命ずると白虎が巴に飛び掛った。
「よせーハクーー!」
「キャーー!」
「禁ノ参 如律魂浄以白虎」
禁術が唱えられると白いモヤの様なものが白虎から抜け出る。同時にその場に昏倒した白虎は少年の姿に戻っていた。望が振り返ると見届ける者が印をきっている。
「正直五分の賭けだったが、どうやら効いたようだな」
「見届ける者……きさま、ハクに何をしたんだ!」
望が叫ぶ。
「真名の”縛り”を退けた。完全ではないがな。ハクは気絶しているだけだ。」
見届ける者は望にそう言うと播磨守に向き直った。
「どういうおつもりですかな?」
微笑とともに播磨守が見届ける者に問う。
「選家 巴の選択を見届ける。奴は生を選択した」
「理に背くと? 明敏なあなたらしくも無い選択ですね」
「違うな播磨守。巴の生こそが選ばれし事象の因果だ。生きる意志を整合させる事が理であり、その逆では無い」
その時山陰の向こうより陽光が空を金色に染め始める。
「どうやらこれ以上あなたと話す時間は無さそうですね。今回は引いておきます。しかし理があなた達の選択を赦す事は決して無いでしょう」
そう言うと播磨守は未だ陽光の差さぬ闇の領域へ姿を消し、望達を囲む憑依した者達もそれに倣う。朝陽が見渡す限りの全てに光彩を与えたのはその直後であった。