#16 五芒星
銘:秋津時雨
白い柄に吸い込まれそうな程澄み切った刀身。無銘である”行光”は憑代であり、式神の真名を受けて銘刀として生まれ変わる。
《お前は全力で振りぬけ、後は俺がやる》
「だ、だけど……」
《巴を護らなくていいのか!》
左手を喪った憑依した者が、巴に短剣を振り下ろそうしていた。
「くそーー!」
望は叫び、全力で刀を水平に薙ぎ払った。
ドン
重い感触が刀を通じて望に伝わる。憑依した者の頸が断ち切られ、ボールの様に草むらに転がった。
「はぁ、はぁ、今度こそやったのか?」
精も根も尽き果てた望はその場にしゃがみ込む。ハクは刀の姿から少年の姿に戻り、憑依した者の死を確認する為に近づいた。
「ああ、今度こそ仕留めたぜ……これは……」
ハクはうつ伏せに倒れた男の首と肩の間に刻まれた五芒星を見つけて絶句した。
「どうした、ハク?」
「そんな……どうして……」
茫然自失とするハク。周囲に殺気が立ち込める。望が周囲を見渡すと、無数の人影が望達を囲んでいた。
「憑依した者……くそ、ハク戻れ!」
しかし、自失したハクは望の声が聞えていない様だった。
パチ・パチ・パチ
ゆっくりと拍手をしながら、人影の中から一人の男が進みでる。
「まさか憑依した者を倒すとは。驚きです」
男は狩衣(注1)を纏い、明らかに他の者とは見た目も存在感も別格であった。
「お前も憑依した者か!」
ハクの縮地や刀化で大量に気を吸われた望は消耗しきっていたが、それでも巴とハクを護る為に立ち上がろうとした。しかし望には目もくれず、狩衣をまとった男はハクに近づいた。
「久しぶりですね、ハク」
「播磨守殿……」
「ふふ、随分と古い事を覚えてくれていたのですね」
ハクは播磨守と呼んだ男に臣下の礼として肩膝をついた。
「ハク、いえ西守護後五金神白虎よ。主として命じます。選家 巴を殺しなさい」
注1、狩衣=平安時代の着物