#15 真名(まな)
丑三つ時
月は陰り人の世を闇が支配する。
ーー俺は人を殺したのか? 巴さんを護る為とはいえ……
望は血にまみれた両手を見つめた。
《後悔しているのか? こうなった事を》
白虎が巴に寄り添いながら望に視線を向ける。
「後悔はしない」
虚空を見上げる望の頬を生暖かい風が撫でる。
《望、油断するな。まだ終わっちゃいない》
低く唸りながら警戒する白虎が望に告げる。望が倒したはずの影がゆっくりと立ち上がる。
「そんな、確かに心臓を貫いたはずなのに!」
驚く望。
《憑依した者。奴らは不死身だ。頸を切り落とすか、完全に焼き払うしか斃す方法はない》
立ち上がった男の胸から行光が抜け落ちる。男の胸にはぽっかりと穴が空き、周囲の肉が焦げている様にも見える。
「不死身だと。本当に人間なのか」
《来るぞ!》
今までの緩慢な動きが嘘の様に、憑依した者が望の目前に一瞬で迫る。
否
望の横を風の様に通り過ぎる。
ーーしまった、こいつの標的は巴さんだった!
望より早くそれに気づいた白虎が憑依した者に飛び掛る。憑依した者は左腕で白虎を防ぐ。白虎が憑依した者の左腕を噛み千切る数瞬の間に、男は隠し持っていた短剣で白虎を突き刺す。肩口をさされた白虎は憑依した者の左腕を道連れに地面に崩れ落ちる。
「ハクー!」
《い、行光を拾え》
「え……」
《早くしろ!》
望はハクに言われるままに草むらから行光を拾い上げる。
《行光に向かって俺の真名を呼べ》
「真名?」
《我名は西守護後五金神白虎》
「な、何いってんだ?」
《呼べ!》
訳もわからず望は行光に向かって白虎の真名を呼ぶ。白虎の姿が消え、短刀である行光が刀身2尺の刀に変化した。
《俺の属性は金。これが俺の本当の姿だ》