表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

#14 恐怖、孤独、希望

 巴は走る。あてもないままに。ただ生き延びる為に。その瞳から涙がこぼれる。


 恐怖、孤独、不安


 膝が震えてまともに走れない。


 ズサッ!


 もう何度目になるだろう、転ぶのは。巴の膝と腕は擦り傷だらけで血が滲む。


「死にたくない」


 立ち上がろうとするが、足に力が入らない。いつの間にかランニングシューズの右足が脱げて無くなっている。靴下は擦り切れ、かかとと指先がむき出しで親指の爪も剥がれかかっている。肩で息をする巴の背筋に悪寒がはしる。振り返るが誰もいない。見えない力に突き動かされる様に、巴は気力を振り絞って立ち上がる。


「はぁ、はぁ、死にたくない!」


 再び巴は走り出す。いやもう走るというより足を引きずりよろめいてる、というのが客観的な表現であろう。


 ズン!


 不意に背中に激痛がはしる。


「う……」


 巴は前に突っ伏した。


「あ……う……」


 激痛で息ができない。倒れた巴の横にこぶし大の石が転がる。背中にぶつけられたようだ。


「イヤ、死にたく……ない……」


 巴は手を伸ばし前へ進もうと這いずる。

その手を黒い影が踏みにじった。初夏の頃であるにも関わらず、黒いマフラーをした影を見上げる、巴の顔は涙と汗と泥にまみれ、瞳は生気を失いかけていた。

黒い影は巴の手から足を上げ、変わりに腹部を強かに蹴り上げる。

その勢いで三メートル程吹き飛ばされた巴の口から血泡が吹き飛ぶ。

ゆっくりと巴に近づく黒い影。

激痛と恐怖で意識が混濁した巴の脳裏に、過去が走馬灯の様に過ぎる。

権藤さん、彩加、未来ちゃん、ハク、見届ける者……



『せっかくお見舞いに来られたのに、患者さんと会わずに帰るなんて一体何しに来たんですか!!』

『逃げるの? いつまで自分の殻に閉じこもっているつもりなの? 今のあなたを未来ちゃんが望んでいると思うの?』

『お願い……お願い……望さん、還ってきて!』


 廻る走馬灯。


『巴さんありがとう、こんな俺を見捨てずにいてくれて』

 巴の脳裏で望が微笑みかける。



「望さ……すけて……望さん、助けてー!!」

 最後の力を振り絞り巴が叫ぶ。



《お前の選択を見届けよう》



 脳裏に聞える見届ける者の声。

 

 刹那


「ハクーー!」


望が叫ぶ。


「グルァーーー!」


 咆哮と供に、白い閃光が影の喉元に飛びかかる。

飛び散る血飛沫。食いちぎられた黒いマフラーが地面にずり落ちる


「グ……ハ……」


 白虎に喉を食い破られ、ひざまづく影。


 ”行光いくみつ”を抜き胸の高さで逆手に構える望。

その刀身は月光を浴び輝く。

望は全体重をかけ、行光で影の心臓を一突きにする。勢いのあまり影の心臓を貫いた刀身が背中に突き出る。影はそのままゆっくり仰向けに倒れ、返り血を浴びた望がそれを見下ろす。


「巴さん!!」


 影を倒した望は巴の元にかけよる。


「ううっ、うわーん、望さん、怖かった」


 望にしがみつき嗚咽をあげて泣く巴。


「ごめん巴さん、怖い思いをさせて」


 震える手でしがみつく巴に、望はただそれだけしか言葉が出なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ