#13 三つ目の選択
「お前はもうすぐ死ぬ」
そう巴に告げると見届ける者は、カーテンの隙間から満月を見上げた。
「……そう、死ぬんだ。私」
「死は選択肢の一つだ。このまま死を受け入れるか、ある者に助けてもらうかを選べ」
見届ける者は淡々と問う。
「ある者って望さん?」
「それを教える訳にはいかない。お前の選択に迷いが生じる」
「ふふ、優しいのね。見届ける者さん」
巴は自分を助ける者が、望であると確信した。だが、だからこそ望に助けてもらう訳にはいかなかった。
「私が助けてもらう道を選べば望さんを危険な目にあわせるわ。それは絶対にダメ」
「未来は変えられるが、選択は変えられないぞ」
「そうね、だったら私は三つ目の選択肢を選ぶわ」
「三つ目?」
見届ける者が巴に視線を移す。
「自分で自分を守る。私は絶対に死なない!」
「選家 巴、三つ目の選択肢など存在しない。このままだとお前は必ず死ぬ」
「そうかも知れない。でも死ぬ運命だからといって、抗っていけない訳ではないでしょう?」
「武器も持たぬお前がどう抗うというのだ」
「逃げるわ。こう見えても私、結構足が速いのよ」
巴は見届ける者に笑顔で答えた。
「ふ、やはり抗うか」
「ええ、あなたが言ったのよ。未来は変えられるって」
巴は荷物を部屋に置き、身軽になるとランニングシューズに履き替えた。
「私は抗ってみせる。でも……もしもの時は望さんに伝えて。未来ちゃんが目を覚ましたら、私が”お帰り”って言ってたって」
「……それがお前の選択か?」
「もしもの時よ!」
そう言って巴は玄関をあけ夜空へ駆け出した。あてもないままに。
◇ ◇ ◇
バン!
勢い良く玄関の扉が開く。
「巴さん!!」
望が叫ぶ。
「一足遅かったな、望」
「きさま、見届ける者! またしてもお前か! 巴さんはどこだ!」
「運命に抗うのが選家 巴の選択だ」
「巴さんは必ず俺が護る! だが、だが万が一巴さんに……巴さんにもしもの事があったら見届ける者……」
望の瞳に危険な炎が燃え上がる。
「必ずお前を殺す」
そう言い残すと望は夜空へ飛び出した。巴を護る為に。