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#10 理(ことわり)

 穏やかに流れる阿良川に満月が映える。


 ちゃぷん


 その光を捉える様に一匹の魚が飛び跳ねた。


「二又瀬 望、お前は少しばかりこの世のことわりから踏み外しすぎた」

「この世の理?」

「本来であればお前は既に死んでいる存在だ」


 そう言うと、見届ける者はタバコを取り出し火をつけた。


「俺が……死んでいる?」

「そうだ、事象の因果はお前に死を与えた」

「あなたは何を言っているの? 望さんは生きているじゃない。変な事を言わないで」


 巴が横から口を挟んだ。


「待ってくれ、さっぱりわからない。俺が死ぬべき運命なら何故お前は俺を助けた」

「俺が助けたのでは無い。助けたのは”消す者”だ」

「消す者?」

「俺よりも遠い未来さきを視る者だ。選択肢を消す能力……いや力を持っている」


 この時望は初めて消す物の存在を、見届ける者から告げられる。


「事象の因果がお前に死を与え、消す者がお前の死の選択肢を消した。本来ならこの様な事は起こるはずがないのだが」

「それが、俺がこの世の理を踏み外したという事か? この世の理の為に俺は死ななければならないと言う事か!」


「事象の因果とは特定の人、物では無い。あらゆるものがあらゆる選択をする事で相互に因果関係を持つ。謂わば、主体無きあらゆるものの総意、これが事象の因果だ。そして相互の因果関係は微小の矛盾も無く完全に整合されねばならない。俺がお前を殺せば、明日お前は存在しない様にな。これが理だ。その完全に整合されていた因果の中お前は死ぬべき運命を消す者によって救われた。そして理が矛盾の存在に気づいたのだ。存在してはならない存在、死なねばならぬ二又瀬 望の存在に」


 タバコの紫煙を燻らせながら、見届ける者が冷徹な事実を突きつける。


「だからお前が俺を殺すのか?」


 望は悔しかった。自分の知らぬところで自分の運命が決まり、自分がそれに従わねばならぬ事が。


「皮肉な結果だが、俺がお前に選択肢を与えた為に理がお前の存在に気付いた。存在するはずのない選択だからな。だから俺も選択せねばならない。お前を殺し事象の因果を整合させるか、それとも……」


「絶対にそんな事させない!」

 巴が望の前に立ちはだかり両手を広げる。


「あなたは悪い人じゃないわ。だってさっきは助けてくれたもの。でも……それでも望さんを殺すというなら私があなたを殺します」

「巴さん……」


「ふ、その選択肢は視えるぞ、選家 巴。いやあらがう者よ」


 見届ける者は懐から短刀を取り出し望に投げ渡した。


「これは?」

「無銘”行光いくみつ”。己と己が護りたい者があるならそれを使え」


 それは刃渡り三十cmにも満たない短刀で、古めかしい柄と手垢にまみれた様な鞘でつがっていた。



《忘れるな、二又瀬 望。お前の相手は万物の意思。事象を司るもの。死に魅入られた者は己ばかりでは無く近しい者をも巻き込む。だが生きる意志こそが死を打ち破るだろう。お前の選択を見届けさせてもらうぞ》


 そう脳裏に語りかけ、見届ける者は姿を消した。

 残された望と巴と一匹の白い虎。


「ト! と! とら? 虎? トラー!」望

《うるせ~な~、騒ぐなよ》虎

「しゃべったー!」巴


《言い忘れたが式神を託す。お前の意思次第では大きな助けとなるだろう》


 そう脳裏に見届ける者が語りかけ、今度こそ気配を消した。


「早く言え! あほー!」


 望は虎から後ずさりしながら、見えない見届ける者に叫んだ。


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