「合縁奇縁(※間宮視点)」
失恋は滲むように、儚かった。
京子さんの姿をみて、悲しくなる。
こんな年になってまで、どこかで母親と重ね合わせているんだろうか。
初めて会ったのは、俺が9歳の時。
最初、京子さんを大学のボランティアで孤児院に通い詰めていた人という認識だけで、
あまり気にかけてはいなかったが、最終的には初恋の相手になるほど親しくなったし、
たった5年間だったけど、思い出のなかった日々も京子さんのお陰で埋まっていった。
孤児院を卒業しても、何度か教会に足を運んでは先代と俺にご飯を作ってくれて、俺の高校まで見学に来た。
そんなことを考えながら、これから言う言葉に重みを感じる。
「…貴方は、この男性を
健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も
愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか。」
「…はい、誓います。」
返答を返される。
これは儀式と一緒で、決まっているんだ。と自分に言い聞かせる。
手が震える、足が震える、唇が震える。
「この結婚は、神によるお導き。
死が二人を別つ事があろうとも魂は結びつき、また転生せん事を。」
新郎新婦は、指輪をはめて。
京子さんは嬉しそうに、こちらを見つめる。
人の気も知らないで、全く暢気なものだと自分の胸をなでおろした。
「では、誓いの…キスを。」
行き詰ってしまったが、何とか言えた。
2人は誓いをここに立て、栄えて夫婦となったんだ。
式はそのまま何時間か続いた。
鳴りやまなかった、自分の鼓動が静かになり緊張が解れると、煙草が吸いたくなり裏庭に逃げ込む。
何か可笑しい、風も吹いていないのに煙草に火が付かない。
寝不足だろうか煙草に火が付かないどころか、視界が狭いし見えずらい。
それに、胸が苦しい、ニコチンがないからイライラもする。
雨が降ってるわけでもないのに、指が濡れるし声も漏れ始める。
「うっ……」
情けなかった。
失恋したくらいで、こんなに悲しい気持ちになるなんて。
歳をとっても、彼女は綺麗で美しい。
恋は甘く苦いと聞くけれど、シグマの教えでは「恋心、死に走らん」と言う教えがある。
きっとそれは、禁忌と同様に何か意味があるのだろうが、今ならその理由を答えられないくらいに
頭がいっぱいだ。
後ろから歩み寄る足音に気づけなかったのもその為だろうか。
「間宮さん、今日は祝いの儀ですよ。しっかりしてください。」
クソ天使、こんな所まで顔を出すなんて。
けど何故だか、その声は泣いて居る様に思えるのだ。
「京子さん綺麗だなぁ…流石、晴子さんのお姉さんだ…。」
「晴子って、お前の子を…身ごもった。」
「僕の初恋ですよ」
「意外と歳食ってるんだな。」
「失礼な。京子さんと晴子さんはもっと若かったですし。
それと、間宮さんと初恋相手の顔が似てるのは嫌ですけどね。」
晴子さんはどうやら京子さんの双子の妹で、一卵性双生児だったそうだ。
エルは京子さんを見て、晴子さんを思い出したのだろう。
性格は真反対で、晴子さんは大人しい人だったらしく、性格では好みは似ていないらしい。
「つか、お前顔酷いぞ。」
「間宮さんこそ、顔が不細工ですよ。」
「俺は基が良いから。エルは煙草屋の看板何だろ。そんな顔で帰ったら
おばちゃんになんて言われるか知れたもんじゃない。…顔冷やして帰れ。」
「蒸しタオルの方が良いらしいですよ。」
「そっか。礼拝はその後な。」
足を進めた先に、京子さんの姿が見えた。
逃げようと足を下げようとしたら目線があってしまったので、仕方なく神父として一言入れに行く。
「あ!間宮君!」
「…加賀様へ。素晴らしき日々に、素晴らしき人生に、素晴らしき今日に、
素晴らしき夫婦に、素晴らしき……貴女に。神のご加護があらんことを。
追伸、いい加減にガサツ癖を直さないと、夫様に愛想付かされちゃうかもですよ?」
捨て台詞を履いて、そそくさと教会に逃げる。
振り返ったとき京子さんは、愚痴垂れる様に声を発していたが
それは、やっぱり俺の好きな「先生」だった。
間宮の恋編みたいになってしまいましたが。
ありがとうございました!
次からは、本筋に入ると思います。
本当にありがとうございました。