「我思う、故に我在り」
自分は疑いたくないのだ。
谷地と会った帰り道で、間宮は少し考え込んだ。
あの目は自分に向けてはいなかった、なら誰に向いていたのだろう?と
後ろを向いても何もいなかったし、谷地はほんの一瞬そんな目をしただけで後はいつもと変わらない。
自分のみ間違えだったのかと思わざるを得なかった。
谷地との会話が長く辛かったからか、だいぶ体が重い。
今日早めに帰らないと神父としての仕事も山のようにある、雨だからと言って休みなどないのだ。
「すみません、紙を落としましたよ」
間宮はうっかりしていたのか、地図を落としてしまった様だ。
しかも、それを拾ったのは男子高校生。
光景を見て間宮の背中には冷たいものを感じた。
手には木製の数珠、まだ疑いをかけるのは早い。
そう思い、間宮はにこやかに礼を告げ、立ち去ろうとした瞬間だった。
男子高校生の口から思いもよらない言葉が出たのだ。
「絹見寺に行かれるのなら、ご一緒致しますよ。神父様。」
見据えた目の先には真実ではなく虚偽を語る。
高校生は間宮の事を知っているようだが、今日は礼服ではないし当てずっぽうである可能性があった。
間宮は慎重さから手の平を返し、剽軽者を演じるが高校生は動じず微笑んでいる。
よほど肝が据わっているのだろう。
「回りくどい言い方はしません。一度、腹を割って話しませんか?」
「何言いたいんだ…」
高校生は顔をしかめて間宮をにらみつけた。
「僕の仕事を邪魔しないでいただきたい。はっきり言って迷惑です。
宗教だか何だか知りませんが、勝手に僕の獲物を先々で成仏させて。
何がしたいんですか?あなた方は転生や払い専門でしょう。殺生な事はしないで頂きたい。
第一、あなた方には関係無い事でしょう。教えが違うのですから。」
間宮は高校生が言いたい事が分からない。
完全に勘繰りを入れられているからだ。
「言っておくぞ、生意気な男子高校生。俺には「魂」は払えない。」
すると、高校生は鼻で笑い飛ばし。
嘲る様に間宮にこう言い放った。
「…馬鹿を仰らないでください。あなた間宮の血筋なのでしょうに。」
「……俺は、間宮の血筋じゃない。先代は俺の義父だ。」
高校生は外れた事に驚いていた。
なぜだろうと頭を交錯させているが、当然答えなどどこにもない。
すべて自分が正しいのだと思い込んでおり、それを疑う自分が怖いのだ。
「じゃあ、どうして。間宮の神父なのです?
血筋じゃないと、後継ぎは出来ない筈です。」
高校生は正気に戻った顔をする。
己を疑った己を肯定する事が出来たからではなく、新たな疑問が生まれたからだ。
それは、自分と同じ立場の間宮がどのような行動をとったのか知りたい、好奇心からでもあった。
「先代の子をこの手で殺したからだ。」
高校生は顔が真っ青になった。
きっとそれが真実なのか、それとも冗談なのか今の高校生の彼には分らないことだった。
本当に、ありがとうございました。
投稿にだいぶ時間が空きましたが、2日に一度は出したいと思っています。
すみません。
コメントいただけると、ありがたいです。
(例:セリフが多くで読みにくい。/セリフをもっと出してほしい)
(例:解説がほしい/話をもっと具体的に)
我儘で、すみません。