強制力
思いつきのネタを思いつくままに書いた、ある種リハビリを兼ねた作品ですので、さらっと読んで頂けると嬉しく思います。
自分が前世で大好きだった乙女ゲーの世界だと気づいて早数年。
転生したのがその乙女ゲーでカマセなライバルキャラで、その末路の悲惨さに怯えて文字通り必死に努力し続けて来たのだけど。
「どうしてこうなっちゃったのかなぁ」
寮の自室に戻ってそう零す。
少なくともこの学園に入るまでは良好な状態を築けた筈だった。
記憶が戻って、で、ゲームの時の設定のようにわがまま放題だった私は態度を改め、習い事や教養等に全力で取り組み、対人関係も気を配って生活をしてきた結果だと思っていたのだけど。
でも、乙女ゲーに酷似している世界なのに現実の世界だと思いすぎたのがいけなかったのかもしれない。
それは結果論なのだけど。
結局原作通り婚約者になってしまった王太子様とは、原作と違い友情は育めて居たと思ったのだけど、学園に入ってからは急に冷たく当たられるようになってしまったし。
困惑する私を置いてきぼりに周囲の皆も徐々に原作での私に対するかのような扱いに変わっていった。
勿論だからと言って私が原作のあの高慢ちきなライバルキャラの子のような事をした訳ではないのだけど、でもそんな事は一切関係がなかったみたい。
主人公キャラの子が転校してくる頃には、私が望んでいないしそうならないように行動していたにも関わらず、すっかり周囲の対応はまるで原作のようで。
私の実家にしても温かい家庭を築けていたはずなのに、お父様とお母様も急に不仲になるし、使用人達ともギクシャクしてしまうし。
学園に入るまで仲良くしていた皆様には距離を置かれ、何故か私が距離を意識して置いていた筈の原作での取り巻きだった皆様が周りに寄ってくるようになった。
他の攻略キャラの皆様にしてもそう。
ある人とは良好な関係を築き、ある人とは殆ど接点も無かった筈なのに皆様原作時における感情を抱いていらっしゃる模様。
ああ、でも唯一違うと言えば主人公キャラのあの子かしら。
あの子は天真爛漫で心根の優しい少女だった筈なのに、まるで原作ゲームを知っているような感じだし、私に対して凄く冷たく当たってくるし。
でも、虐めがあまりに酷すぎて私が何度か助けたり庇ったりするうちに彼女だけは私と仲良くしてくれたのだっけ。
最近ではずっと謝らてしまうし……私を助けてくれようとしてくれていて……。
彼女もどうやら私と同じようにこのゲームが好きだった転生者だったらしくて、ただ、違うのが彼女がそれだと気付いたのがゲームスタートとなる転校してきた当日だったらしく。
そして、ゲームとまるで同じ状況だった為ゲームの世界に生まれ変わったのだと思ったらしくて。
なら、逆ハーエンドでモテモテになってみたいって思ったらしく、そういう風に原作の事を思い出しながら行動してみると実際原作の通りの展開になったからますます調子に乗っちゃったとは彼女の弁。
唯一違う行動を示したのが私だけで、でも、原作では虐めがあったとか軽く文章で触れられていたのがあんなに辛い事だとは全然分からなくて。
だけど、毎回助けてくれるのは本当にギリギリの限界になった時に現れる攻略キャラ達だと思った時の絶望。
なのに、心から助けを呼んでいると助けてくれたのは私で。
数回目から疑問に思ったらしく私に会いに来てくれて、彼女は分かってくれたし何度も助けたり庇ったりしているうちに好意を抱いてくれて居た様で良い意味で心変わりをしてくれたのだけど。
それから色々2人で頑張ってきたのだけど、全部空回りで寧ろ状況はドンドン悪くなってしまって。
私の事が絡むと途端に話を聞いてくれなくなる攻略キャラ達に、いつの間にか不満を貯めた彼女も今では逆ハーどころか誰とも結ばれたくないって言っているのだけど、何故か国王様まで絡んで皆と結ばれそうで。
現実世界の筈なのにそれが思い違いでゲームの世界かもと思ってしまう。
不幸中の幸いと言うか、ゲームでは一切出てこなかった皆様は態度は変わらず、寧ろ少しでもゲームで登場した皆様が激変した事に戸惑われていらっしゃる様子から何とかやっぱり現実世界かもと思っていられている。
と、色々考えを巡らせていると控えめなノックの音が響き、気遣わしげな声が聞こえてくる。
「マリアンヌ様。リリーです。開けて下さいませんか?」
どうやら原作主人公の子が心配して来てくれたようだ。
それが嬉しくて、急いで扉を開けに行く。
「ありがとうございます。リリアンヌ様」
「ああ、そんな言葉を私に言わないで下さい。
私が力が足りないせいでずっとマリアンヌ様にご迷惑ばかり……はっ、入れて下さいませんか?」
そう言えば、名前が酷似しているのも原作ゲーの時の私が虐める理由の1つになっていたのだったっけと場違いな事を思いつつ。
この状況を誰かに見られると面倒な事になるのは分かるので、慌てるリリアンヌ様を部屋に上げる。
「いえいえ、リリアンヌ様は私の為に心を割いて下さっていますし、だからこそお礼を言わせて下さい」
「だって! ……でも、結局こうやってマリアンヌ様は学園を追放されてしまうじゃないですか!
皆おかしいです!
最初は調子に乗って全く気付いていませんでしたけど、異常ですよ!」
泣くに泣けなかった私に変わって涙を零してくれる優しい子。
その姿を見て、嬉しさのあまりにふと逆に涙が溢れてしまう。
「ほら、マリアンヌ様は涙を零していらっしゃるじゃないですか……。
寧ろ私は私に怒っているんです。
なんで最初から気付いてあげられなかったのかと。
一貫してマリアンヌ様は態度を変えていらっしゃらないのに……」
声を荒げるリリアンヌ様を優しく抱きしめる。
「いえ、貴方様のお心が嬉しくて泣いているのです。
学園追放は確かに悲しいですが……最悪の処刑エンドではないのですし。
ああ、でも今後も私と仲良くして下さいますか?」
そう問いかけると、何度も頷いて下さるリリアンヌ様。
今度こそ笑みが顔に広がるのを自覚しながら思いを零す。
「もう、仕方がないと思います。
原作ゲームに沿うような強制力等が働いたと思うのですが……いえ、でも過ぎた事を言い募っても仕方ありません。
幸いもし万が一学園追放が原因で家を追い出されてもおじ様が匿って下さる話は付いておりますし、お気になさらずに。
寧ろ私は今後の貴方様の方が不安です」
「いえ、私は自業自得ですから、それは受け入れます。
……願わくば、原作ゲームの期間が終わったら本来の姿に戻ってくれる事ですが……。
でも、……」
言わんとする事は分かります。
その時に皆様が元に戻られたとしても、もう現状は元に戻りませんから。
ですから願います、仲良くして下さいと言いましたがもうリリアンヌ様とお会いする事は非常に困難でしょう。
原作ゲー的にこの後ほどなく実家も追い出される私が、元の貴族の世界に戻れるほどこの世界は甘くないですし。
本当におじ様の所に匿って頂ける事は不幸中の幸いですわ。
……強制力が働いてもしかすると娼婦に身を落とす可能性もありますが……、でも、だからと言って絶望に染まらず頑張れる希望も残っていますから。
ゲーム期間の1年さえ過ぎてしまえば、もしかすると元に戻るかもしれませんし。
それに、その後を書かれていないならそこでおじ様からの助けを望めるでしょうから。
「またリリーにちょっかいを出しているのか!」
と、聞きなれた王太子殿下の声が響きます。
リリアンヌ様と話すのに夢中になりすぎて、生徒会の皆様が踏み込まれた事に気付かなかったようです。
「ちょっと! 別にマリアンヌ様は何もしてないよ!
なんでそうやって決め付けるし、私の言う事何も聞いてくれないの?」
不機嫌を爆発させてリリアンヌ様が私を庇うように前に出てくれます。
婚約者……いえ、今日付けで元婚約者でしてね、そう言えば。
その元婚約者の王太子殿下は困ったようにリリアンヌ様へ微笑みます。
「リリーは優しすぎるよ。
その女を庇っても何もならないよ」
いつものようなやり取り。
いけません、ここままではまたリリアンヌ様が癇癪を起こすだけですし、それに、今更もうどうしようもありません。
また口を開いたリリアンヌ様の腕を引いいて、もう大丈夫ですとだけ口にして王太子殿下と向き合って深く頭を下げる。
「……今までお世話になりました」
思えば、学園に入るまでは過剰と思えるほど大事にして下さった方です。
きっと正気に戻られたらリリアンヌ様も大切にして下さるでしょう。
他の方々は……まだ私と違って他のライバルキャラの方々と別れたと言う話は聞きません。
そこまでイベントの進んでしまった私と違い、何とかそのイベントは回避出来たようですし。
だからか、他の方々は一応王太子殿下と違い1歩引いいてらっしゃいますしね。
……個人的に、今のように露骨にリリアンヌ様ばかりチヤホヤしていて、その後正常になった後がほんの少しだけ気にはなりますけど……なんとなく大丈夫な気がします。
手遅れなのは多分私だけと……ただのカンですので、当てにはならないのですけど。
「ふん、最後まで白々しい奴だな」
いけません、他の人の事を考えている場合ではありませんね。
不機嫌そうな王太子殿下に……自然に微笑んでいました。
ああ、本当に今更なのですけど、私って実は彼の事が好きだったのですね。
本当に今更というか……いえ、寧ろ今まで気付かなくて良かったです。
もし入る前に自覚していたら、多分私は耐えられてないでしょうから。
後ろでリリアンヌ様が憤慨なさっている事は容易に想像が付きますので、顔を向けて首を横に振っておきます。
口をつぐんで下さったので、意図は気付いて頂けたようです。
さぁ、それじゃぁ幕引き。ですね。
無言でそのまま王太子殿下の横を通り抜け――ようとしたら、何故か力強く腕を掴まれてしまいます。
不思議で殿下の方を向けば、殿下こそ困惑していらっしゃるようでした。
「……これは、その……何でもない」
離し難そうに、それでも無理やりと言う風に手を離された王太子殿下に再び頭を深く下げて。
そして、そのまま部屋を後にする私。
その後、予想通り家を1人で追い出され、おじ様の屋敷に向かう途中で予想外に盗賊に襲われてしまったのですけど、ギリギリのところでおじ様の息子であるサイファ様に助けて頂いた私。
その際に腕を怪我してしまって……そのせいで左腕が動かなくなってしまったのだけど、でも、命が助かっただけでも良しとしておこう。
そこからは……ゲーム期間が終わってからも俗世と切り離されたと言うか、何と言うかずっと匿われてしまった私なのだけど。
最近よくおじ様やサイファ様が今更云々言っているから、どうやら正常には戻ったみたい。
そう言えば、ゲーム期間中全く寄り付いて来なかった精霊達も皆盛大に謝りながら戻ってきて。
えっと、今度はその前よりもべったりで少し困っていたり。
リリアンヌ様との伝言も頼みたかったのに、少しも離れたくないって聞いてくれないほどだもんね。
むー、本当に外はどうなっているのかしら?
心もだいぶ落ち着いたし、そろそろ出てみようかしら。
楽しんで頂けたのでしたら幸いです。
色んな要素を詰め込んではいますが、短編ですのでなるべくさらっと書いてみました。
連載にしたら凄く長くなってしまいそうですけど、まぁその辺りは需要があれば考えてみます。
予定的に現在の連載を優先しようと思っていますので、基本これでおしまいですかね。
それでは、ご閲覧誠にありがとうございました。