第2章 動き出す黒い影(1)
前述通り、俺達は秋葉原の駅まで来ていた。
地元から電車を使って約一時間半で最新テクノロジーと最新ゲーム、アニメが待つここに来れる。
学生の頃なんかは良くパーツを買いに遊びに来たもんだ。
電気街からゲーム、アニメの街といわれるようになるところまで知っている…つもりではある。
「やっぱり雰囲気は全然違うんだね」
秋葉原の駅についた楓が一言そういった。
楓もPWMMの一員として最新の魔法科学の見によく向こうの秋葉原に行っていた。
だからどれだけ違うのか確かめたかったらしい。
何せ、”アース”の秋葉原は大手研究所で開発されたばかりのパーツが流通するところなのだ。こちらも最新パーツを手に入れるという意味では同じだが、主導している層が違いすぎる。
”アース”は主に研究者や個人での魔法工学を学ぶ人間が来る場所で、こちらは家電やPCからアニメ、ゲーム、それらのグッズを求める人間とその層は幅が広い。
「だから言っただろう?」
「うん。でも、これはこれで楽しめそう」
そういうと秋葉原駅前のマンガショップに入ってしまう。
ああ、言い忘れていたが楓はこっちのアニメが好きらしい。
何せ、こちらの世界では魔法などは空想科学、もしくはファンタジーなどの分類になりアニメや映画でも良く題材として取り上げられる。
しかし、”アース”は魔法自体が当たり前だし、空想科学なんてものはそれこそタイムマシーンとかのレベルで無いと空想にはならないのだ。
そのせいであまり”アース”のアニメはこちらと比べると夢がないと。
逆に向こうは実写ドラマの方が進んでいて、高いレベルでのアクション物が多いらしい。
そりゃ実際に魔法が使える上に、普通に車は空飛んだりするからレベルは高いだろう。
俺は楓を主導で秋葉原を回ることにする。
「あ、これってこの前のアニメの同人誌だよ」
などと言いながら十八歳未満禁止マークがあるのに気が付かずその本を手に取って喜んでいた。
俺は苦笑しつつマークの存在を教えてやると真っ赤にしながら本を戻していく。
楓は言うまでも無くこちらの世界に馴染んでいるが、まだ同人誌などの知識には疎い。
それだけについ純粋に楽しんでしまうのだろうが、中身を見れば顔を真っ赤にしてしまう。
俺の友人の中にはやはりこちら方面に非常に強い人間がいて、頼めばなかなか手に入らないレアグッズなども手に入れてしまう。
同人誌も同様に頼めば、こちらのリクエストした内容でかつ質の高い同人誌を購入してきてくれるのだ。
まあ、俺もたまにそういうのを読みたいことがある。
その時は友人に頼むってわけだ。
「ねえねえ、このコーナーって一八歳未満禁止の本ばっかり?」
「今頃気が付いたのか? ってか表紙で気が付けよ」
表紙はあからさまな絵が描かれた本が多いのだ。
少しくらい気が付いて欲しいものである。
「……それも、そうだね」
楓は顔を赤くしながらも他のコーナーに移動をしようとして足を止める。
「こ、これは…」
そう言いながら手に取ったのはいわゆるボーイズラブ系(以下BL)の作品だ。
楓が喉を鳴らすのが分かる。
以前、かえでにBLものを見せてもらって以来、興味を持ったらしい。
俺も少し見せてもらったが…。
男と女では性の描写がかなり違う。
前者はリアルに、後者は綺麗に描かれているのだ。
「ね、ねえ。ちょっと買ってきてもいいかな?」
やや上気した楓が遠慮気味に俺に聞いてくる。
「わざわざ俺に許可取る必要は無いって」
俺がそういうと、「そ、そうだね」と、どもりつつも目的のもを買いに行った。
戻って来た楓の満足そうな笑顔に買ったものはともかく連れて来て良かったと思う。
店内を大雑把にだが見終わる店を後にすると通りを渡って反対側へ行く。
こちら側の路地こそ、秋葉原の真骨頂とも言うべきエリアだ。
駅側はどちらかというとアニメ、ゲーム関連が多い。
通りを渡った反対側は路地に老舗のパーツ店などもありPC関連の最新パーツはここでほとんど揃う。
他にも小さい店や露店で掘り出し物を売ってくれている店や、ジャンクと言えど貴重なPCを売っている店もある。
企業によっては八十年代後半から九十年代前半で出回っていたPCを業務で使用しているところも多く。中古とは言えそれらの時代のPCが購入出来るのは非常に貴重なのだ。
当然、PC関連以外にも同人誌関連での掘り出し物がある店もある。
プレミアは付いてしまうのは仕方ないが現在では解散してしまったサークルの人気同人誌やゲーム等、普通では手に入らないものさえ手に入れられるのがここの良いところだろう。
「こっちは何か落ち着くね」
路地の店舗を見ながら、かえでは言う。
もしかしたらこっちの雰囲気の方が”アース”の秋葉原と被るのかも知れない。
「あ、会社で使ってるノートパソコン」
「そうだな」
露店に並ぶPCから会社で使っているノートパソコンを発見した。
モデルとしては二、三年前のものになるが会社では現役だ。
メモリを増設したりする事で何とか持ち応えている。
こちらに並んでいるPCはどうやらジャンクらしい。
値札を読むとHDD欠品、CPU無しと書かれている。
なるほど、HDDとCPUだけ抜き取ったか。
「こういうのって何かパーツ足して復活させたくなるね」
「楓ってそういうの好きだもんな」
PWMMでは一通りの知識を学ぶ。
楓はその中でも技術的な分野に少々強くなっていて、技術屋っぽい発想があるのだ。
「あ、こういう小さい端末も好きだな」
そう言いながら一昔前のPDAなんか手に取る。
もう一部の人間にしか需要はない代物だ。
数年前までは携帯電話が主流だったが、ここ二年くらいでスマートフォン等が主流になっている。
PDAなんて代物がある時代はITリテラシーが高い人かビジネスマンで無い限りこの手の端末に手を出す人はいなかった。
「これ買っちゃおう」
「マジ?」
「うん、おじさん、これ下さい」
そう言いながらジャンクのPDAを購入してしまう楓。
たぶん、家に帰ってから弄くるつもりなのだろう。
場合によっては”アース”の技術でとんでもない代物に変わるかもしれない。
以前、俺が使っていたラジオをあげたところとんでもないものに生まれ変わっていた。地球上にある全ての電波をハック出来てしまい暗号化通信さえも解読してしまう。軍事機密も楓の前では駄々漏れであった。
少し改良すれば世界の軍事基地を遠隔で操作出来るよととんでもない事を言っていた。
某国の軍に話したら喉から手が出るほど欲しい代物だろう。
楓は、露店のおじさんにお金を支払うと、嬉しそうに端末をカバンの中に入れていった。
「秀君はいいの?」
「俺はいいよ」
エンジニアに違いないが、俺はPCを弄るよりもソフトを弄る方だ。
ハードの修理の知識があっても部品を買い揃えて復活させるまではやらない。
「次はどんなのがあるかな」
楽しそうに品物を見る楓に俺は今度はどんなものに手を出すのか見守るのだった。




