第1章・影から見守る兄(4)
目の前には膨れたかえでが腕を組んでこっちを軽く睨む。
「楓お姉ちゃんが来るならそう言ってよね」
ご機嫌斜めの原因は、楓とかえでの部屋に行き驚かせてやったためだ。
さすがにノックなしで開け放ったのだから余計だろう。
ちなみに楓はキッチンへ既に行って夕食の準備をしている。
俺とかえで、誠はリビングで談笑中だ。
「僕も一緒でよかったんですか?」
誠には今日、夕食を食べていけということで残ってもらった。
何せ、僕は帰りますとか言って帰ろうとするんだからな。
「誠とも話したかったし、将来弟になるかもしれないんだ。今のうちに、な?」
「な、な、な」
「秀二さん、ちょっと話が飛躍しすぎです!」
かえでは真っ赤になって「な、な」しか言えず、誠は同じく真っ赤になって抗議をして来た。
「あー、でも結婚する気がないとは言わないんだな」
俺がさらに意地悪く言ってやると、かえではもう真っ赤になってうつむいてしまう。
「け、結婚する気があるかないか以前の問題ですよ」
真っ赤になって何も言えないかえでに代わって誠が抗議する。
まあこちらも赤くなりながらだから迫力に欠けるが。
「あははは、そうだったな。悪い悪い」
俺は笑いながら謝る。
正直、この二人をからかうのは面白い。
かえではどうやら誠のことが好きなようだし、誠も満更ではなさそうなのだ。
これで俺と楓が結婚して、誠とかえでが結婚したら非常に面白いんだが。
この二人を恋沙汰でからかうと今のようなリアクションをしてくれる。
それがなんとも初々しくて可愛らしい。
「で、二人っきりで何をしてたんだ?」
分かりきっていることだが、聞いてみる。
毎回、いろいろとネタが用意されているため聞くのが楽しいのだ。
「えっと、今日はあれよ」
「あれって?」
「えーと、そう! 文化祭の打ち合わせ!」
今考えましたってのがバレバレのしかもベタな理由だった。
心の中で腹を抱えながら笑う。
文化祭ってこの前終わったばかりなんだからな。
「そうだったのか? で、誠、文化祭っていつだったけ?」
「先週の土曜日でした…っ!」
誠は結構純粋な方だ。俺の質問にも普通に答えてしまう
そのせいで、いつもこういう誘導には引っかかってしまうのだ。
せっかくのひらめきが台無しになったためにかえでが、誠を睨み付けていた。
と言うか、お粗末過ぎる言い訳を言うわが妹には苦笑しか出来ない。
「まあ、いいさ。俺はちょっと楓の様子を見てくるわ」
これ以上からかうとキレてもおかしくない。
俺は席を立ち、楓が調理する台所へと向かった。
今日はすき焼きのようだ。
楓がスプーンでただいま味見中である。
「そういや、すき焼きは大好物だったな」
「秀君、ちょうど良かった」
スプーンを受け皿に置くと俺の方を向く。
「味見してもらえる? わたしの感覚だともしかすると濃いかも」
「分かった」
スプーンで汁をすくう。
少し冷ましてから味見する。あまり熱いと味がわからないんだ。
「うん。悪くないな。濃さは大丈夫。あと強いて言うならもう大さじ一杯分の砂糖を加えると更にいい」
楓の作ったすき焼きの汁は悪くなかったが、ちょっとばかし甘さが足りなかった。
醤油が多い方が好きな人には今のがちょうど良かったが、我が家では甘さがあった方がいい。
「そう?」
楓はそう言いながら砂糖を大さじ一杯分汁に加える。
再び、味見をする楓。
「ホントだ。まだ料理の腕は秀君に適わないかー」
「かなり上達はしてるけどな」
俺はそう言いながら楓の頭をポンポンと叩いてやる。
身長差が思わず、こういうことをさせてしまう。まるっきり子供扱いだ。
「わたしは子供じゃないんだけどねー」
俺がしょっちゅう子供扱いをするせいで半ば、諦めてしまう楓でもあったが。
味も決まりすき焼きが食卓へと運ばれる。
すき焼きは全員に好評で、七人分があっと言う間になくなってしまった。
七人分あったのは楓と誠の分を多くしてある関係だ。
先に述べたとおりPWMMにいる楓達の代謝が半端ではないためだ。
驚くべきことだが、今日の食事のために買ってきた食材が全てなくなったことをここに追記しておく。
…恐るべき二人の食欲。
食事を終えると、俺と楓の二人でかえでと誠をからかいまくる。
からかわれる度に真っ赤になるかえで達は、それはもう最高に楽しい酒の肴のようなものだった。




