表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

第5章 突然の変化(7)

 黒い玉は人が一人、入れる程だ。

 人が入れる?

 無言で俺はルークを睨み付けると、不敵な笑みを浮かべていた。

 俺の予想が間違っていなければ……。

 黒い玉が幻の様に消え失せるのと、中に入っていた人物が現れるのは同時だった。

 露出度の高い黒い服を着た女性、楓だ。

「まさか、向こうからこうも簡単に呼び寄せるとはな!」

「何、戦いは常に刺激がないとならないと思わないか?」

 楽しそうだ。

 心の底から楽しいと言うものをルークから感じられた。

 冗談じゃない。

 これじゃ前提条件が一気に崩れる。

 俺達は楓が”アース”にいるから今がチャンスだと思ったのだ。

 だが、これでは……。

 上を見上げる。

 誠とかえでは俺と楓のクローンとまだ戦っている。

 互角ではあるが、こちらに応援に来れる余裕は無さそうだ。

「楓を出すなんてな。さすが卑怯な手が得意だな」

「使える手は全て使うのが俺の主義だが、忘れたのか?」

 忘れるものか。

 使える手段は全て使うのがルークという男だ。

「さて、自分の愛する人が敵にいると言うのはどういう感覚だ?」

「反吐が出る」

 俺の言葉に満足したように、ルークは笑った。

 愉快だと言う様に。

 目の前の楓に視線を移す。わずかに俺を見て思い出すとかそんな淡い期待は皆無だった。

 楓からは感情が感じられない。

 恐らくこちらからの呼びかけても何ら反応を示さないだろうな。

 最悪の状況を想定するしかない。

「俺はこれで一度、失礼させてもらおうか。君の相手は彼女がしてくれる」

「途中退場とは随分じゃないか」

「何、余興を楽しんでもらうには邪魔者はいなくならないとな」

 厭らしい笑みだけを残して、ルークはこの場から消える。

 油断はしていたか?と言われれば微塵もしていない。

 だが、このような状況までは想定しきれて居なかったのは確かだ。

 考えが甘かった。

 ルークが消えて、俺は楓と対峙する。

「楓! 目を覚ませ!」

 これで目を覚まさないのは分かっている。

 そう簡単に目を覚ますようにはルークはしていないはずだ。

 予想通り全く反応がなかった。

 自然な動作で楓が構えを取る。

 俺の知っている楓の構えそのままだった。

「やるしかないな」

 こちらも構える。

 こうなれば楓を無力化するしかない。

 楓が地を蹴るのと俺が地を蹴るのは同時だった。

 一瞬で間が詰まるとすれ違いざまにレーザーショットを至近距離で撃ってくる。

 シールドで力のベクトルだけを変えて防ぐとダウンバーストを起こす。

 自然現象の通りだが、楓だけを対象とした超局地的な下降気流だ。

 楓を地面に叩き付ける。

 わずかに呻く声が聞こえるが、無言で体制を直す。

 目を覚ませるには恐らく捕らえるのが一番早いのだがそう簡単には行かない。

「もう立て直したか」

 地面に叩き付けた直後と言うにも関わらず、楓は俺から距離を取っていた。

 俺との戦い方は楓が一番知っている。

 操られている状態でも情報として引き出されていると考えるべきだ。

「くらいな!」

 俺は構わず、特大のレーザーショットを楓に放つ。

 通常のレーザーショットの五倍は威力あるものだ。

 青白い光が一瞬で楓を捕らえる。

 人間どころか、キメラさえ飲み込むだけのものだ。

 完全に楓を捕らえたはずだ。

 爆発が起きる。

 空気を震わせて、振動が俺にも伝わって来た。

 爆発で出た煙が立ちこもる。

 生死は分からないが、死ぬことはない。

 俺には当たる瞬間にシールドが張られていたのが分かったからだ。

 楓は俺以上に防御は強いんだ。

 それを裏付けるように、俺の頭上から魔力を感じた。

 上を見ることなく、シールドを張りつつ飛ぶ。

 炎が頭上から降り注いでいた。

「やりにくいな……」

 思わずぼやいてしまう。

 楓の戦い方は最初の一撃のような正面からの攻撃は無い。

 むしろ死角などからの攻撃が得意なのだ。

 何せ、俺のサポート役立ったんだ。

 支援の本領は攻撃のサポート。

 死角からの攻撃など、まさにそれだ。

「逆を返せば、その時にどこにいるかも検討は付くんだがな!」

 俺はそう叫びながら、後ろに向けてアトミックバーストを放つ。

 威力は抑え目だ。

 相手の意表が付けれればそれでいい。

 振り向くと、予想通りにシールドで身を守る楓を見つける。

 思ったとおりの行動だ。

 俺は高速移動で、楓に突撃する。

 楓のシールドの強度は凄まじく硬いのは分かっていた。

 強度を知っていると言う事はどの程度の威力で突破出来るかも知っているに等しい。

 向こうが俺の戦い方を知っているように、俺だって知っている。

 手の内を知っていると言う事は小細工は利かないのだ。

 右手に凄まじい魔力を一点に集中させる。

 光が俺の手に集まり拳大くらいの光球に作り上げると楓に向かって矢の如くの速さで突撃。

 シールドに光球が触れると触れた場所に罅が入る。

 一気にぶち破るつもりが、一瞬止まってしまった。

「うおおおお!」

 だが更に魔力を込めると一気にシールドを打ち破る。

 シールドはガラスのように割れて飛散した魔力はガラスの破片のように舞う中、俺は勢いをそのままに楓の腹に蹴りを入れた。

「っ!」

 蹴りの衝撃に楓の体は吹き飛ぶ。

 手応えあった。クリーンヒットだ。

 実の彼女に対してこんな事するのは正直、気が進まないが仕方ない。

 地面に倒れた楓が腹を押さえてよろめきながら立ち上がろうとする。

「すまない」

 一言、そう言うと俺は一気に楓の元に飛ぶと首筋に手刀を入れようと手を振り上げる。

 しかし次の瞬間、背後に殺気を感じて俺は瞬間的に身を翻した。

 身を翻すのと、光の筋が俺のいたところを掠めるのはほぼ同時。

 光の先を見る。

 悪い予想が的中した。

「かえで、誠……」

 目の前にいるのは俺のクローン。

 隣に楓のクローンが項垂れたかえでと誠を抱えていた。

 殺されることは無かったようだが……状況は悪すぎる。

「計算が甘すぎたか」

 三対一だ。

 楓に、俺と楓のクローン。

 一人でこれだけの相手は出来ない。

 誠とかえでがやられたのだ。二人がどれだけレベルアップしているかは分かっているつもりである。

 少なくとも早々やられる二人じゃない。

 無言の三人が、俺を見据えていた。

 この状態から何としてでも抜け出さなければならない。

 両手を楓、クローン側に向けた。

 一か八かだ。

「くらえ!」

 手加減抜きのレーザーショットだ。 

 光が空気を震わせて三人へ襲い掛かる。

 楓はシールドで防ぎ、クローンの二人がレーザーショットを避ける。

 俺はこの行動を想定して、狙いを楓のクローンに定めていた。

 この状況を乗り切るには誠とかえでを取り返さないとならない。

 二人を巻き添いにすることなんて出来ないのだから。

 楓のクローンとは言え、同じ人物ではない。

 潜在的な力は例え同じとは言え育った環境は違う。

 楓に近いが同じじゃない!

「悪いな」

 避けた場所に俺が現れて一瞬、驚きの表情を浮かべる楓のクローン。

 俺はためらう事なく、クローンの楓の腹に魔力を高圧縮した拳を打ち込んだ。

「っ!」

 声にならない声が楓のクローンの口から零れる。

 崩れ落ちる瞬間に彼女は俺を見ると意識を手放した。

 楓の手から誠とかえでが離れる。楓のクローンも一緒になって落下を始めた。

 落下する楓のクローン、誠、かえでをドーム状のバリアーで包むとゆっくりと降下し始める。

 俺は続けざまに、クローンの俺に視線を向けると牽制でレーザーショットを数発。

 クローンはそれを避けると警戒した面持ちで俺達を見ていた。

 背後に気配を感じてるが、今の俺は妙に心が静かだった。

 冷静にシールドを背後に張ると、後ろで爆発が起きた。

 至近距離で楓が魔法を放ったらしい。

 俺はそれには構う事なく、クローンに向かって行く。

 妙なもんだ。

 目の前に俺がいるのだから。

「しかし所詮はコピーだ!」

 普通なら自分を攻撃するのは躊躇うものだ。

 ただし戦いの場では一瞬の躊躇いは負けに、そして死に繋がる。

 誠達がやられたのもきっと一瞬の躊躇いがあったに違いない。

 レーザーショットをクローンに向かって、撃ち放った。

 青白い光がクローンに直撃する。

 俺は相手を倒せたかを確認する事なく、楓の方を振り向いた。

「楓……」

「……」

 楓は何も言わずに俺をただ見据える。

 次の瞬間、楓はすっと俺の目の前から消えた。

 撃墜したクローンの方を見るが、そこには人の姿は一切ない。逃げたようだ。

 さらに視線を誠達を見る。

 俺の作ったバリアに、誠、かえで、楓のクローンが横たわっている。

「楓のクローンを捕まえただけ……か」

 終わらせるつもりで攻め入って、これはあまりに結果が悪かった。

 誰もいなくなった戦場。

 ただ虚しさだけが残る戦いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ