第5章 突然の変化(1)
“アース”に来てからもう一週間になる。
地球では最初のデモストレーション以降、特に大きな動きは無いらしい。
依然として各国が非常事態宣言を出しているものの、何も起きていないのが現状だ。
PWMMとしても全力でルークの手掛かりを調査しているようだが、良い収穫もない。
あれだけ派手にやって置いて何も動きがないのは正直気持ちが悪いと思った。
まるで嵐の前の静けさのようにも感じる。
「まあ、訓練が出来るからいいんだが……」
決して楽観状況出来るじゃ無いんだが、かえでと誠の連携攻撃を受けながら呟いていた。
ルークなどの上位魔法使い相手を想定してかえで、誠には連携に関しての訓練をしているのである。
「くうぅ!」
「全然歯が立たない!」
二人がうめき声やら悲鳴を上げている。
先ほどからレーザーショットやファイアレーザー、ファイアショットと攻撃が激しいのだが、シールドで受け流し、避け、隙あらば攻撃を入れているのだ。
強敵相手となればに連携は重要だ。
場合によっては撤退時にどちらかが囮役になって片方を逃がすなども必要である。
楓には録画を頼んで俺達の戦いを記録してもらっていた。
これも後で戦闘を振り返って指摘するためだ。
「ん?」
誠がレーザーショットを放ちながら大きく距離を取って行く。
代わりに、かえでが接近して仕掛けてくる。
「お兄ちゃん、これを受けれるかな!」
かえでが魔力光弾を無数に放ってくる。
だが、どうも様子がおかしい……。
光弾は俺の横を通り過ぎていくのだ。
「おいおい、どこ狙って……って、これは!」
周りを見ると俺を通り過ぎて行った光弾は俺の周りを包囲するように浮かんでいるのだ。
「いっけぇ!」
かえでが一際大きな声を上げると俺の周りを包囲していた光弾が一気に俺目掛けて飛んでくる。
光弾による集中砲火だ。
「考えたな!」
シールドを球状にするフィールドガードを周囲に展開する。
光弾がシールドに当たって衝撃がわずかに伝わってくるが、防げないものじゃない。
周りは光弾の光と、シールドに当たって爆発した煙で見えない。
少しすると光弾が止んだ。
「なかなか、いい攻撃だったぞ」
「全部防がれていると、嫌味にしか聞こえないんだけど!」
悔しそうな顔で抗議するかえで。
「はああああ!」
突然、誠の大きい声が聞こえて来た。
声のする方を向くとレーザーショットの強化版キャノン・レーザーの用意を整えていたようだ。
レーザーショットを十本まとめたくらいの規模の魔法だ。
俺がルークとの決着で使ったのもこの技だ。ただしレーザーショット百本分くらいだが。
レーザー砲が俺に向かって放たれた。
青白い凶暴な光の束が俺にぶつかる瞬間、俺はシールドを張った。
ただし斜めに。
「え!」
かえでの驚きを無視しながら俺は誠のキャノン・レーザーを防いでいく。
「シールドの使い方は何も正面から防ぐだけじゃないんだ。テストに出るから覚えて置けよ~」
やや茶化したように言いながらかえでに向かって一気に距離を詰めた。
「ちょ、ちょっと待っ…」
かえでは何の準備も無く俺に詰め寄られて、動揺する。
恐らくこれで決める算段だったのだろう。
「訓練とは言えど、戦闘中に動きを止めないこと。これもテストに出すぞ」
右手をかえでの腹の辺りに当てて、小さい爆発を起こした。
余裕は与えたから、しっかりと防げたはずだ。
「!」
しかし、俺はそれを確認することなくその場を離れることになる。
レーザーショットが上から打ち込まれたのだ。
瞬間的に察知したから良かったが、正直今のは危なかったかも知れない。
俺も油断したらもうやられるくらいには育ってきたって事だな。
「やるな」
上を見上げて誠を見る。
「戦闘中に動きは止めない。そう聞いたばかりですからね」
誠はそう言いながらも、やや悔しそうな顔をしていた。
それもそのはず、今の俺は完全にかえでに意識を向けていたのだ。
わずかに出来た隙を狙ったわけだが、俺はまんまとそれを避けて見せた。
「かえで、大丈夫?」
「うん、何とか」
煙が収まりつつあるところを、誠がかえでの側に来る。
やっぱり、かえでは無事だったようだ。
この数日の訓練で、驚異的な防御力を身につけたかえでは、ちょっとやそっとの攻撃じゃ効かなくなっている。
「ちゃんと防いだな」
「ひどいよ。人が驚いているときにあんなの…」
かえでが、むくれながら俺を見る。
もっとも、むくれるだけの余裕があるから大したものだ。
「ばーか。戦闘中に気を取られる方が悪いんだ」
そうは言うものの、二人の成長ぶりに俺は嬉しいものを感じている。
特に、誠は冷静な判断が出来る。
かえでが攻撃されている所に、俺に対して攻撃を入れて来たのだ。
仲間を信用しつつ、戦闘に集中するという戦うものに最も必要なことが出来ている証拠だ。
「三人とも、時間だよ!」
楓の声に、俺達は緊張を緩めた。
第二フィールドの休憩室にて。
誠と、かえでは録画された映像を見ている。
「はあー、お兄ちゃんには隙ってないのかな?」
「ホントだね。隙がある様に見えても、全部防がれちゃうし…」
先程までの映像を見ながらそうため息を付く。
何度か良いところはあった。
いいチャンスだったのだが、俺がそれを全部防いでしまうからため息の一つや二つは出て来てしまう。
「まあ、そう簡単に一本取らせるわけには行かないからな」
「そうだけど……」
かえでが納得行かなと言うような表情だ。
「まあまあ、秀君だから仕方ないよ」
そんな二人に楓がフォローを入れてくる。
まあ、俺自身が昔と違って魔法に対する知識も戦闘に関する経験も豊富だ。
とりわけ、ルークのような強者との戦いで技術を一気に向上させている。
「それでもかなり二人とも強くなったんだぞ?」
本当に強くなって来たわけだが、俺の言葉に二人は不満そうだ。
「一発も入れられないのに?」
「僕の最高の魔法さえ簡単に防がれたんですが?」
言いたい事は分かる。
かえでの手数は多くなったし、誠も一瞬の隙を突いた攻撃が出来るようになった。
ましては威力こそ、まだ俺には及ばないもののキャノン・レーザーのような強力な対個人用の魔法も放って来たのだ。
それだけ出来て、なお俺と言う壁が厚いのだから強くなった実感がないのだろう。
「少なくとも、俺は二人が相当強いと思うんだけどな? 楓の目から見てどうだ?」
「そうだね」
楓は俺よりは弱いが、それでもPWMMの中では上位の魔法使いだ。
強いからこそ、相手の強さも分かる。
「中堅のPWMM員よりは、はるかに強いよ。そろそろ上位クラスに届くんじゃないかな?」
「姉さん、それホント!」
「それって凄いの?」
若干一名、上位クラスの魔法使いの凄さが判らないのがいるようだ。
「上位のPWMM員は、わたしもそうだったんだけど、単独での調査が可能なんだよ」
「かえで、普通のPWMM員はどうしてるか分かる?」
「え? 誠君みたいに二人で一組じゃないの?」
そう、俺と楓の時や、かえでと誠は二人で一組になっている。
だけど、実際は違う。
「下位のPWMM員はだいたい五人で一チームなの。中堅クラスで、三人なし二人で組めるけどね? 下位のPWMM員ってキメラと戦うのも結構大変なのよ」
「そういうことだ。前にかえでに言った事あるけど、一人でキメラを二千頭相手に出来るのは、下位のPWMM員が三チームくらい必要になるんだ」
「それって、結構凄い?」
かえでの問いに、俺達三人が大きく頷く。
「あははは……。わたし、強さの感覚がずれてるかも…」
「まあ、それは仕方ないと思うよ」
ため息交じりで誠がいう。
「だってさ、秀二兄さんと姉さんが相手だよ?」
「あ、それもそうか…」
「まあ、そういうことだ。俺達と比較するなって。これでも十年魔法使いをやってた訳だし。それだけの修羅場を潜ってる。見た目じゃ分からないが相当な実力だ」
何せ見た目は中学生みたいなやつだからな。楓は。
「ねえ、それってどういう意味?」
そんな事を考えたからだろう。
ちょっとばかしトーンを落とした意味を問うて来た。
俺は背中に若干の冷や汗を感じながら何でもないように言う。
「本当に強いからこそ、強さを滲ませないってことさ」
「……。なんか誤魔化された感じだけど、いいよ。それで許してあげる」
何か、とてもイケナイ地雷を踏んでしまったかも知れない。
顔が怖いんだ…。
「わかってっくれればいいんだ」
ポーカーフェイスを決め込んだが、それでも久しぶりに楓が怖いと感じた。
やはり外見に触れるのはよそう…。
いくら中学生みたいだと言っても。
「それより、誠とかえでは今まで二人での連携ってあまりやってなかったのか?」
「そうだよね。二人の戦い方ってどちらかと言うと個人プレーが多かった感じだし…」
楓も感じたらしい。
訓練を積んだ今だからこそ二人とも連携した戦いが出来ている。
だが、今一歩と言う所を感じるのだ。
前衛と後衛で分けてあるならまだいい。
どちらかと言えば二人ともフォワード的な役割なのだ。
「それは、今までキメラとかばかり相手してたから、役割とか決めてなかったんですよ」
誠は、PWMMとして訓練を受けてきている以上、戦い方に関しては知っているはずだ。
だけど、かえではまだ僅かの間しか魔法使いやっていない。
「誠、一応かえでに前衛と後衛の話はしておてくれ」
「あ、わかりました」
「ちなみに、誠はどっちが前衛をして、どっちが後衛をしたらいいかわかるか?」
今までの戦い方からして、そこには十分気が付いていると思うが確認も含めて聞いてみる。
「僕が後衛でしょうね。かえでも今となっては防御も出来ますが、仲間を守りながらとなるとまだ粗があると思います。だったら攻撃に専念してもらえる方がいいでしょう」
「その通りだな」
防御と言う点では、実は攻撃より難しい。
良く、攻撃は最大の防御と言うが、下手な防御をするよりは攻撃した方が余程いいのだ。
まして自分を守りつつ他者も守るとなると、攻撃に関して様々な知識がないと対処しきれない。
そういう点で言うと、誠が防御、かえでが攻撃に回った方がいいのだ。
誠なら後衛でかえでを守りながら支援攻撃も可能だろう。
「わたし、あまり良く分からないんだけど?」
かえでが手を上げながら言う。
俺が教えてもいいのだが。
「誠に教えてもらえ。その方がこれから連携を取る上でも必要だ」
「わかった」
「じゃあ、ミーティングも終わりにしよう。後は各自、自由行動で」
「はーい」
「わかりました」
誠とかえではそう言うと立ち上がる。
早速、前衛と後衛についてかえでが誠に尋ねて、それを誠が答えながらミーティングルームを去っていく。
「わたし達は?」
「たまにはのんびりと部屋で一緒にいるか?」
最近、二人っきりの時間も少なかった。
かえでと誠が一緒なら俺達は部屋でゆっくりするのもいい。
「え…。うん、それもいいね」
わずかに頬を赤くしながら楓は頷くと俺の腕に自分の腕を絡ませる。
「楓?」
「最近、二人ばっかり構ってたからたまには恋人らしく。ね?」
上目遣いで見てくる楓に、俺もそうだなと返してやるのだった。




