第4章 訓練(6)
コツを掴み始めた二人は上達も早かった。
一度に百頭前後くらいキメラを倒せなかったが今では平均で千五百匹から三千匹は下らない。
かえでみたいに残っているキメラを一気に葬ってしまう事もあるが、まあそれはタイミングがいい場合だ。
アトミック・バーストの要領で広範囲に攻撃対象を定められれば訓練の本質は掴んだも同然。
誠にもアトミック・バーストを二回程度やらせてみたところ、一度見ていることもあり問題なくこなして見せた。
これで二人に共通する多数の敵との状況判断は大体クリアになる。
案外、時間が掛からなかったことに内心、嬉しいものだ。
「さて、だいぶ対複数戦も問題なくなったみたいだし今日の訓練はこれくらいにしよう」
そういうと誠とかえでが、ふらっと俺のところにやってくる。
二人とも魔法の連続使用で疲れているらしい。
「大丈夫か?」
「まあ、なんとか…」
「さすがに疲れましたが」
二人はそういうとその場に座り込んだ。
疲れたのは当然だろう。
広範囲に魔法を行使する事自体、大量の魔力が要するのだから。
俺は空間分離を解除すると、通常の空間に戻る。
見た目は何も変わらないが、世界に音が戻ってきた。
少し遠くで車の走る音が聞こえるのだ。
「二人とも、お疲れ」
楓が端末を持ってこちらに来た。
俺は楓から端末を受け取る。ずっと持たせっぱなしは可哀想だからな。
「思ったより二人とも早く出来たね」
「ああ。基礎は出来てるし、センスも悪く無い。思ったより早かったのは確かだけど、出来ないことじゃないとは思ってたさ」
俺は二人の頭に手を載せながらいう。
二人とも子供じゃないと声を上げるが、やはりまだまだ子供だろうと思う。
「さて、休憩したら戻って飯でも食うか」
「わたしと秀君で腕をふるって作るからね!」
「って、作るのかよ?」
「いいじゃない。二人とも頑張ったんだから」
俺はおごろうかと思っていたんだがな……。
二人も頑張ったんだ。
俺たちの作った料理ってのもいいだろう。
「わかった。俺らで何か旨いもんを食わせてやるさ!」
「やったぁ! お兄ちゃんの料理おいしいから嬉しい!」
「秀兄さんの料理はおいしいから楽しみだよ」
「だから、わたしと秀君だってばぁ!」
楓の叫びが訓練場に響き渡った。
翌日。
訓練の指導は順調に進んで行く。
今は俺が、かえでと、楓が誠と、それぞれ訓練中だ。
もう一つの課題はいかに限られた魔力で効率良く魔法を使うかである。
ただかえでにはもう一つ課題がありそれを集中的にやっている。
防御が弱いと言う課題だ。
「ようやくましになったか…」
肩で息するかえでを見ながら俺はそう呟く。
かえでの防御は結構無駄が多かったのだ。
もともとがあまりゲームをやらないし、身を守るもののイメージがあまりないのもある。
そのせいで、かえでの防御は魔力で壁を作って受け止めるのが主だった。
今までキメラ相手だったし、気にしていなかったが気が付いて良かった。
「よ、容赦ないよ。お兄ちゃんは…」
息を整えながらようやく落ち着いて来たかえでが反論する。
短くなったスカートを必死で伸ばしながらその下のものを隠していた。
「優しくやってどうする?」
「そ、そうなんだけど…」
ちなみに俺がかえでに施した訓練は簡単だ。
とにかく俺の攻撃を魔法で防がせることなのだ。
コツは最初に説明して、試しにやらせてそれから実戦形式である。
魔力障壁を作り出して受け止めるだけでなく、一点集中的な防御や受け止めるのではなく受け流すなどだ。
最も兄としては批判を受けそうな訓練方法だった。
俺が使う魔法は風を用いた刃で切り裂くだけである。
上手く防げば問題は無い。
ただし、防げなければ俺の魔法は服を切り裂くってものだ。
最初、かえでは反対した。
誠も俺も男だ。そんな男の前でストリップをやれと言っているのに近い。
ただし楓にはすでに説明をしていたため、かえでは最大の味方だと思った楓によって説得されたのだ。
戦闘中に衣服を失うのを極力防がないと戦いにならないよと言われたためである。
「だけど、ちゃんと防げただろ?」
「必死だもん…」
少し睨みを利かした目で俺を見てくるかえで。
しかし必死さがないと身に付くものも身に付かない。
コツを教えたとは言え、それを上手く操るのはやはり本人次第なのだ。
だから体で覚えさせるのが何よりも大事。
これは技術的な事なら尚更のことなのだ。
「まあ、スカートがそれ以上短くならなくて良かったな」
そう言いながら俺はかえでのスカートを見る。
膝上ではない。
股下十センチくらいまで短くなっていたのだ。
本来は膝上五センチくらいのスカートだったのだが、かえでを本気にさせるには有効だった。
「ブルマなんて古いもの穿かされて恥ずかしかったけど、これが無かったらと思うと顔から火が出そうだよ」
さすがに下着を晒すのは可哀想なため、楓に頼んで用意してもらった。
これのおかげもあってここまで短くなったのもある。
最初のうちは二、三センチくらいずつくらいで裂いていたのだが、余裕があったのかいまいちだったのだ。
一気に十五センチくらい魔法で切り裂くとようやく本腰を挙げたのである。
「穿かない方がもしかしたらもっと早くものに出来たかもな」
「そんなことしたら、わたし怒るから!」
この格好だって恥ずかしいんだよって最後は顔を赤くしながら言うのだった。
こうして訓練は順調に行われた。
訓練が終ると、俺達は第二フィールドの休憩室へ向かった。
休憩室には何組かの人間がそれぞれテーブルを囲んで打ち合わせなどをしている。
主に訓練後の反省や訓練前のミーティングなどここは使われることが多い。
俺達は本来の使い方をしに来たわけだが。
「何か飲みたいものあるか?」
俺の言葉にかえでがコーラーなどと告げてくる。
「あ、僕はスポーツドリンクを」
「OKOK」
俺は自分のカードをかざしてジュースを買う。
それを二人にそれぞれ渡してやった。
「わたしは?」
「楓は自分で買えって。俺らは年長組みだろう?」
「けち」
そんな会話を交わしながら俺と楓もそれぞれ自分のジュースを買う。
ちなみに俺も誠と同じスポーツドリンクだ。
ジュースを買うと空いているテーブルについてジュースを飲む。
「誠もたった二日でかなり良くなったみたいだな」
一口ジュースを飲むと誠にそう言った。
かえでの訓練をしながら横目で見ていたのだが、魔法の制御が格段にあがっていた。
魔法の使用効率をあげるための訓練は誠も基本はかえでと同じである。
誠の場合は、昨日の複数戦の応用が利いているため初めから問題なかったようだ。
「あ、はい。コツを教えてもらっただけでまさかあれだけの力が出せるとは思いませんでした」
「そりゃそうだろう。魔法は結局イメージを具現化するものだからな。イメージしやすくなれば当然、魔力の質も向上するってもんさ」
もっと言うなら魔法の力そのものを信じるのも重要だ。
俺達の世界にも魔力はあるのだ。
俺が魔法を使える時点で十分証明になる。
そして魔法が使えないと言うのはイメージ出来ないか、そもそも魔法の力なんて信じてないかのどっちかだ。
具現化することが出来るのはそう言った精神的なことも重要なのだ。
魔力があって強力な魔法が扱えるのは、それだけ力に対する信用、もしくは自信があるからと言うことになる。
「楓としては誠の成長はどうだ?」
「うん。予想してた通りだったけど、二日であれだけ出来るようになれば十分だと思うよ」
「俺も同じ意見だな。元々資質はあるんだから十分だろうな」
誠はやや照れたように赤くしてスポーツドリンクを飲む。
「わたしは?」
「かえでも誠と同じで資質は悪くなかったからな。あと初心者と言う事を考えるなら格段に上達しただろう。な、楓?」
「そうだね。わたしもかえでちゃんはかなり上達したと思う。まだ魔法を知って三ヶ月だとするならホント凄いよ」
「かえでは確かに凄いよ!」
各々からの評価にかえでは嬉しそうにガッツポーズを取る。
俺ほどじゃなくてもかなりの使い手になるだろうな。
さっさと俺を抜いて欲しいが、俺が扱うレベルの魔法使いがそもそも少ないとなるとまだ時間は掛かる。
今回は訓練とは言え、少々趣味が出てしまったかも知れない。
かえでの格好はピンクのトレーナーに白いスカートだ。
で、俺が訓練でスカートを切り刻んだために股下十センチというマイクロミニになってしまっている。
そんなスカートで椅子に座れば当然、ブルマが惜しげもなく露わになっているのだ。
「なあ、かえで」
「なに?」
「結構、その格好って色っぽいよな」
「な!」
俺の言葉に慌ててスカートを引っ張るが股下一〇センチのスカートではブルマを隠し切ることは出来ない。
その仕草に誠が、かえでのスカートに眼を向けてしまう。
「ま、誠くん、こっちみないで!」
「あ、ご、ごめん」
と謝りながらも完全に視線を外しきれない。
「ははは、誠も男だな」
「か、からかわないで下さいよ!」
「そうだよ、もう、お兄ちゃんのバカ!」
休憩所にはかえでの悲鳴が響き渡ったのだった。




