第1章・影から見守る兄(2)
翌日。朝食の支度が出来て、まだ寝ているかえでを起こしに行く。
両親は衣料メーカーでプロジェクトを任されている。
販路拡大のために七年前から海外赴任になって以来、俺は妹二人暮らしだ。
ちなみに日本に残されたり理由は楓と恋人になっていたのがある。
親の都合で俺達が離れ離れになってしまうと言うことを避けたかったらしい。
まだ親の庇護を受けるべきではあるが強く生きてもらいたいと言うこともあり残ることになったのだ。
俺に懐いていたとは言え、幼い妹まで残す必要はなかったとは思っていた。
なお年に数回、二週間くらい帰ってくるから全く顔を合わさないことはない。
かえでの部屋は二階に上がって俺の部屋の隣にある。
少し強めのノックをして朝食が出来た事を告げる。
「おい、朝ごはん出来たぞ!」
いつもならここで返事が返ってくるのだが、今日は静かだ。
「おい、かえで! ご飯出来てるぞ!」
再度、ノックと大声で呼ぶがやはり返事が無い。
昨日、ちゃんと帰って来たのを自室で確認しているのだが…。
どうやらまだ寝ているようだ。
「かえで、入るぞ」
俺は返事がないのを知りつつも断りを入れて部屋に入る。
クリーム系の壁紙に机、家具がありクマのぬいぐるみなどがあった。
女の子らしい部屋である。
ベッドに目を向けると、かえでが子猫のように丸くなって寝ていた。
キメラと戦ったままの格好で寝てしまったらしい。
寝相が悪かったのかスカートが捲くれて、白と黒のストライプが入った下着が惜しげもなくあらわになっている。
……デザインは悪くないな。
いつの間にか色気が出てきてやがる。
馬鹿なことは考えるのを止めると、スカートを直してやり起こすことにする。
「おい! 起きろ! もう朝ごはんは出来てるんだぞ!」
大きく揺さぶりながら耳元で叫ぶ。
かえでは唸りながら徐々に意識を覚醒していった。
「お兄ちゃん…?」
だが、寝ぼけているらしく俺をぼんやりと眺める。
俺は何も言わずにペンギンの目覚まし時計を手渡してやった。
「?」
訳が分からず、かえでは時計を見る。
そして、少しずつ状況が分かって来たらしい。
「時間は何時だ?」
俺が聞いてやると、唸りながら時間を答える。
「七時半だよぉー」
「ああ、そうだ。どうすんだ学校は?」
いつもならすでに起きていて行く準備は整っているのだ。
制服の用意やその日の持ち物など、かえではしっかりと前日に準備するのだが。
「ど、どうしよう…」
今日は少々絶望的らしい。
しかもまだ昨日の疲れが残っているようにも見える。
「何故かは聞かないが、相当疲れてるな?
もし休むんだったら連絡はしてやるが、どうする?」
少し考えると諦めたように答えた。
「…うん。お願いできる?」
「しょうがない奴だ」
俺はそう言いながら起きるか? と尋ねる。
「うん。もう、起きるよ」
「そうか。ところで昨日はどこに行ってたのかな~?」
ジト目でかえでを見てやる。
本当は知っているのだが、まあ妹をいじるのは楽しいもんだ。
「え? ど、どうして?」
「だってお前さ、寝るときにパジャマだった奴が何で朝起きると違う格好をしてるんだ?」
今のかえでの服装を指摘するとあからさまにしまった!と言う顔をした。
「あ…。お、お兄ちゃん、これは、その、えっと、何ていうか……」
必死に言い訳を考えようとするがいい言い訳が思いつかないらしい。
内心、笑いがこみ上げてくるがここは大人の対応をすることにする。
「何も言わないでいいさ。何か事情があったんだろ?」
違法研究所の摘発と言う事情がな。
声には出さずに心の中で呟く。
事情を知らなければ本当に問い詰めているところだが。
「う、うん」
「ま、それなら仕方ないさ」
とは言うものの、あまり追求しないのは少々甘い。
これで、夜遊びなんか覚えた日には「事情が…」なんていい出しすと大変でもある。
だから、あくまで魔法関連の時は追求しないことにしているのだ。
下に下りるため部屋の出口へと歩いていく。
ドアを開けて、出て行くときにちょっとした意地悪をしたくなって顔だけかえでに向けた。
「寝るときはスカートはやめろよ? 白と黒のストライプはなかなか見ものだったけどな」
そういうとかえではスカートを勢い良く押さえながら真っ赤になって俺を見た。
「み、見たの?」
「思いっきり捲くれてたからな」
「エッチ…」
「だったら、スカートはやめろって。
まあ兄貴の目の保養の手助けをしたいってんなら大いに協力するけどな」
「ば、バカ!」
かえでは手元にあった枕を俺に投げつけてくるが、俺はそれより早くドアを閉めるのだった。
枕がドアにぶつかる音が聞こえて、俺は苦笑する。
ああやってからかってはいたが、実はかえでが着替えてなかったことが気になった。
いつもであれば俺にバレないようにと気を遣って、パジャマにしっかりと着替えているのだ。
それが今日は昨日のままだった。
「疲れてるのは確かってことか」
俺はそんなことを考えながら再び一階へと戻っていった。
かえでが一階に下りてきたとき、俺はちょうど学校へ電話を終えたところだった。
「学校に連絡入れておいたぞ」
「ありがとう」
心なしか少し元気が無い。
疲れが取り切れていないのが分かる。
あと俺にバレないように気も使うから疲れるのだろう。
「まあ夜更かしも程ほどにな。俺に出来ることがあるならちゃんと言えよ?」
「うん。大丈夫だよ」
言葉の裏には俺に相談したくとも出来ないと言う意味合いが読み取れた。
もっともかえでに何も告げていないのに出来ることがあるならってのはおかしな話なんだが。
「誠も一緒だったのか?」
俺の言葉にびくっと体を振るわせるかえで。
昔から嘘や隠し事をしていると同じ反応をする。
よって嘘や隠し事はいつもわかってしまうのだ。
「う、うん。一緒だった」
誠との関係は学校の友達と言うことになっていた。
それで一度、家に来ているところを紹介してもらっている。
いや、本当はお互い知っているんだが誠と俺が知り合いだとばれるとサプライズにならないために予め打ち合わせをしておいたのだ。
「何をしているかは聞かない」
知っているからな。
だが俺は真顔で少しからかうことにする。
「だが色々と注意はしろよ? 俺もこの歳でおじさんになるのは早いと思ってる」
「へ?」
一体何のことだろうと、かえで間抜けな顔で意味を考える。
そして次第に真っ赤になり、俺をにらみつけた。
「そういうんじゃないんだから!」
何を想像されたのか分かったのか憤慨しているようだ。
「? 俺はおじさんになるのは早いって言っただけだぞ?」
「実の妹にそういうこと言う? もう、変態だよ! それにふざけたことじゃなくて真剣なことなんだよ!」
ちょっとからかいが過ぎたな。
「悪い悪い。ちょっとした冗談だ。
真剣な事なら、なおさら助けられることがあるなら言ってくれ。
頼りないかもしれないがそれでも力にはなりたい」
最後にこちらも真剣に言う。
「ありがとう。でも、しばらくは大丈夫だよ」
「そうか」
俺はちらっと時計を見る。
そろそろ出勤の時間だ。
「じゃあ、俺は会社に行くから」
「分かった」
「じゃあ洗濯物、干すの頼むな」
「えー!」
実はかえでは家事が苦手である。
出来ないわけじゃないんだが、俺が昔からこなしていた関係で少々苦手なのだ。
……単に面倒臭がっているというのもある。
「お前がすんなり起きてくれれば干す時間くらいはあったんだが?」
しかし自分の下着などまで兄に干させるってのはどういう神経をしてるんだ?
もういい加減年頃なんだ。
自分のものくらいは干してもいいものである。
「うっ……。分かったよう」
うな垂れながらも従うかえで。
もっとも文句は言いながらも俺が出来ないときはきっちりやるんだよな、こいつは。




