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第3章 宣戦布告(7)

 自宅に戻ると、俺は部屋に戻り着替える。

 かえでも今、部屋で着替え中だ。

 もう少しあの色っぽさを堪能しても良かったが妹にそんな目を向けるわけにも行かない。

 バカなことを考えるのをやめると通信端末を取り出して楓に連絡を入れる。

『秀君?』

「ああ。回収の方はどうだ?」

『あ…。うん、何人かに地球に行ってもらって連れてきたよ。今は全員、隔離してる』

 心なし少し疲れ気味に見える。

 ルークが現れてから展開が早いからな。

 知り合いが寝返っていたのもショックだろうし、精神的に参っているのかも知れない。

「ところで、襲われたのは俺達だけか?」

『ううん。他の人たちもやられたみたい…』

「そうか…」

 ルークが俺に対して恨みを持っているにしても、わざわざ俺にだけ手の込んだ嫌がらせをするとは思えなかった。

 頭の回る奴で無意味なことをするような奴ではない。

 恐らくこれはルークが本格的に地球を侵攻するぞと言うメッセージだ。

『あとね、ルークからPWMMに宣戦布告があったよ』

 全く予想通りだった。

 正直、そんな予想は当たってほしくないのだが。

「今回の襲撃はそれか?」

『そうみたい』

 しかし平日に襲撃は勘弁して欲しいものだ。

 最もそんな希望を受け入れて本当に休日だけ襲撃されたらそれはそれで休日が潰れるから困るが。

 週末魔法使いって職業でもあるまいし。

 まあ馬鹿なことをしないで貰いたいというのが一番の感想だ。

『ルークは地球を支配するつもりみたい』

「“アース”が駄目なら地球でってか?」

『たぶん、そうだね。

 PWMMがいる限りどこにいても同じなんだけど。

 それでも平行世界への介入はしにくいのが現状だから、そこを突かれたのかも知れないよ』

 地球の人間は“アース”と関わりのある人間以外、平行世界があるなんて誰も知らない。

 地球の国連も当然、そんなことは知らないだろう。

 いきなり“アース”の人間が現れて、こっちの犯罪者に世界が狙われていますと伝えたところで何人の人間が信じるか?

 信じたところでこれ幸いとルークを取り込もうとする国がないとも限らない。

 そうなれば地球と“アース”が敵対することになる可能性すらある。

 そんな事態になれば“アース”史上最悪な出来事となるだろう。

 すでに進むべき道が分かれている地球と“アース”。

 どちらが消滅したところでどちらかの歴史が消えるだけにしかならないのだから。

「PWMMとしての方針は?」

『まだ上層部で揉めているのが現状かな…。一応、わたし達がやることは変わらないけど』

 どの世界、組織でも上層部が足かせになるのは皮肉だな。

「誠は?」

『情報収集でPWMM内を動いてる。わたしに秀君との窓口になるようにだって』

「らしくなって来たな」

 指揮官は常に情報を収集する必要がある。

 もちろん収集する人間がいればその人間に任せるのがいいだろう。

 しかし、急激な変化のある時は自ら動かないとならないことだってあるのだ。

 誠はそれを実践している。わずか十五歳の少年としては上等だ。

「じゃあ、誠に伝言な。俺達は待機しているから指示が出せるなら出しておけって」

『わかった。って仕事は?』

「たぶん、それどころじゃなくなるんじゃないか?

 ルークが地球をどうこうしようってなら。だいたいみんなの前で俺が消えたことになってるからな」

 そういうと後での言い訳もどう言えばいいのやら。

 向こうは心配しているだけだろうから無事だというのが分かればあまりお咎めはなさそうだけど。

 そういうことを言うとかえでもか。

「とりあえず、指示を家で待ってるさ。あ、必要なら誠の訓練をつけてやるって伝えておいてくれ」

『わかった。じゃあ、こんなところかな?』

「ああ。それじゃ」

『それじゃあね』

 通信終了と。

 俺は通信端末を机の上に置くとベッドの端に座る。

 それと同時にかえでが部屋に入って来た。

 たぶん通信が終わるのを外で待っていたのだろう。

 ペンギンイラストが描かれたピンクのトレーナに水色のスカートと言う格好だ。

 部屋着である。

「どうした?」

「なんとなく来ちゃった。ダメかな?」

「構わないが…、面白いもんなんかないぞ?」

「知ってるよ」

 そういうとかえでは俺の隣に座る。

 ベッドの軋む音が聞こえた。

 隣に座ったかえでだが、黙ったままだ。

 下を俯いて何かを思いつめているようにも見える。

「わたしって弱いかな?」

 俯いていた顔が俺に向けられる。

 その顔は泣き笑いのような辛そうな顔だ。

「どうした急に?」

「だって、さっきも助けてもらったし…。この前も」

 そういうと口を摘むんでしまう。

 言いたいことが分からないわけじゃない。

 約三ヶ月前に魔法使いとしてそれなりにキメラと戦ってきた。

 三ヶ月の間は俺達も当然介入していない。まあ、二人で十分に対応出来るのがわかっていたのもある。

 しかしだ。

「いきなり展開が変わって自分の力に疑問が出たってところか」

「うん」

 そこに思いつくだろう。

 かえでとて決して弱いわけじゃない。

 ルークの登場さえなければ、多少危なっかしいところがあるにしても二人で解決していただろう。

 ところが状況は一変した。

 十年前に必死の思いで逮捕することの出来た最悪な犯罪者ルークが現れた。

 同時に、今まではせいぜい百頭程度が限度だったキメラも一気に一万を超す軍勢として現れるようになったのだ。

 対応が今までと全然違うものになっている。

 その変化の激しさにかえでは対応しきれていないのだろう。

「お前、さっきの戦いでキメラを何体倒した?」

「え? えーと百くらい?」

「お前、ざっと見ただけでも数百を超えるキメラを倒していたんだぞ?

 ちゃんと数えればだが千から二千頭くらいのキメラを倒していたはずだ。」

「そうなの?」

「そうだ」

 少しキョトンとした感じである。

 自分がどれだけ凄いことをしたのか分かっていないらしい。

 もしかしたら俺を基準に考えているからかも知れない。

「誠は比較的優秀な部類になるんだ。

 キメラ換算だとおおよそ三千から四千と言う所か。

 一般のPWMMの人間だと五百頭くらいがいいところ。

 これが何を意味するか分かるか?」

「えーと…。わたしって凄い?」

「なぜに疑問系だ…」

 がっくりと頭を落としながら言う。

 俺達を基準にしたら弱いと思うかもしれないが、かえでだって十分に強い。

「まあ、ともかくそういうことだ。少しは自信を持って」

「あ…。うん!」

 ようやくかえでに笑顔が戻った。

 あまり落ち込んでばかりでは今後が辛いからな。

 すでに落ち込んでいられる状況じゃ無くなって来ている。

 自分の無力さに泣く事だってあるかも知れないんだ。

「誠を鍛えるって話をこの前したんだが、お前も参加するか?」

「え? …うん!」

 やる気は十分。

 かえでも鍛えてやれば今以上の戦力になる。

 誠もそうだが、キメラごとき簡単に払いのけることが出来るようになるだろう。

 俺はそう踏んでいた。

「そうなると必要なものがあるな…」

 そういうと俺は再び楓に連絡を取る事にした。

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