第3章 宣戦布告(6)
転移した場所はかえでが通う学校から数キロはなれた場所だった。
大雑把だとは言っていたが空間分離の範囲が相当広い。
何せ周囲で戦っている気配はしないのだ。
上空へと上がると周囲が見渡せるくらいの高度まで上昇する。
俺がいる地点から約十キロくらい離れた場所で戦闘をしているのか光が見えた。
「一体、どのくらいの範囲を空間分離したんだ?」
学校を中心にした割には広い。
分離した空間が広ければその分、影響も少ないからいいのだが。
俺は戦闘をしているだろう場所を目指して飛んで行く事にした。
近くまで来て、戦いは激しいようだと言うのが分かった。
すでに何人かの魔法使いが地面に倒れている。
映像で見たときより魔法使いの数が多いのだ。
増援をしたようだがそれでもかえでを捕えるには至らなかったようだ。
更に驚きなのは夥しい量のキメラの死体。
ざっと見て数百は下らない。
先に進むとようやく見えてくる。
「お兄ちゃん!」
かえでが俺を確認すると救援に安堵の声が聞こえた。
「よく耐えたな」
側まで行くと俺は労いの言葉を掛けてやった。
かえでは着ていた制服が戦闘のためか衣服としての機能を失っていた。
ブレザーもスカートも原型をあまり留めておらず下着が露になっている。
ブラジャーに至っては肩紐が切れていて片手が塞がっていた。
たぶんブラジャーが落ちないように抑えながら戦っていたのだろう。
機用な奴というか、女の意地と言うか。
「藤原秀二…」
ルークの手下たちが忌々しげに俺の名前を呟く。
昔、一緒に戦ったことのあるものもいる。
ルークの手下に気を取られていると。
「ガアアアア!」
キメラの雄たけびが辺りに響いた。
いつの間にかキメラの大群が俺たちを囲むようにしているのだ。
キメラをいくら大量に導入しようと全く意味がない。
周囲にいるキメラはざっと見て千から二千頭と言うところだろう。
魔力探査をして認識出来るキメラを片っ端からロックオンする。
「全く甘いんだよ」
ため息交じりにつぶやくと、一気にレーザーショットをぶっ放した。
青白い光が上空からキメラたちを貫いていく。
かなりの数のキメラだったがために光が雨のように降り注いだ。
光が収まると、今度は魔法使い達がレーザーショットを放ってくる。
予想は十分できていた。
それ以前にかえでのところに来た時点でシールドを周囲に張ってあったのだ。
ルークの手下達のレーザーショットは簡単にシールドによって阻まれた。
はっきり言って防いだという感覚すらない。
「攻撃ってのはこうやるんだ」
今度は俺がレーザーショットをお見舞いする。
ロックしている状態で放つレーザーショットは正確無比だ。
ルークの手下達は慌てて防御、回避をする。
連携も取れずにバラバラに避ける手下達。
正直、エリサに比べれば格段に弱い相手だ。
「お兄ちゃん…」
助けられたという感じの声だ。
かえでの方を向くと、改めてその格好にため息が出る。
何で助けに入るたびに下着姿を晒してんだか。
妹じゃなければテンションが上がるんだがな。
「なあ、助けに来るたびになんでそんな格好なんだ? 俺を高血圧にしたいのか?」
「す、好きでこんな格好してるんじゃないもん!」
お兄ちゃんのばかぁ!と俺の腹に蹴りを入れるかえで。
俺はそれを甘んじて受けてやると、スーツの上着を脱いで渡してやる。
「これを着てろ。あと俺のシールドから出るなよ」
そういうと視線を敵に向ける。
レーザーショットから逃れた手下が俺は睨み付けていた。
明らかに下っ端のPWMMの調査員だったのだろう。
歯軋りしながら俺を見ている。
「やれやれか…」
あまり気が進まないがある魔法を使う事にする。
まず奴らを中心に風を起こした。
「風なんかで俺達を足止めしたつもりか!」
吼える手下ども。
風を起こした意図が分かっていないらしい。
経験値が少ないのだろう。
修羅場を潜った事のある奴なら警戒していたに違いない。
起こした風の勢いは時間が経つにつれて増して行き竜巻となる。
竜巻の威力に身動きが出来ない手下達。
「なあ、これが単なる足止めだと思うのか?」
「何だと?」
意味が分からないという感じで聞き返してくる。
「これに炎を入れてやったらどうなる?」
「…! 貴様!」
手下共が急に慌てだした。
それもそうだろう。
この風の中で炎を放ってやったらどうなるか?
そんなの分かりきっていることなのだから。
俺がやろうとしている事はキメラを万単位で相手にしたことがあればだいたい思いつく攻撃だ。
つまりこいつらは大した任務を振られていない。
だから分からなかったのだろう。
「燃えろ」
竜巻の発生源に向けて炎を放つ。
火炎放射だ。
竜巻に炎が触れると風によって巻き上げられ、火柱となる。
竜巻の中からは叫び声が響き渡っていた。
正直、男の叫び声ほど聞きたくないが、今は仕方ない。
もっとも女ならこんな残酷なことはしたくない。
炎が治まってくると、地面にはルークの手下共が倒れていた。
肉が焦げる匂いがする。
決して良い気分はしない。
「お、お兄ちゃん…。殺しちゃったの?」
恐る恐ると言うように尋ねてくるかえで。
正直、いくら敵でも俺だって殺しはしたくはない。
「大丈夫だ。体の表面組織だけを焦がしただけで、死んではいないさ。
むしろ死んだ方が苦痛を味合わずに済んだかも知れないけどな」
俺はそういうと手下共のところまで行く。
降り立って、手下共にエリザのように治療魔法を掛けようとした時だった。
転移魔法の気配を感じ、周りを見回す。
周りには再び数千のキメラたちが現れていたのだ。
全く持ってご苦労な事である。
「俺にキメラは無意味だってわからないのか!」
俺はそう叫びつつ、目の前のキメラたちにレーザーショットを放った。
レーザーショットはキメラたちを貫きながら直進していく。
それから逃れられたものたちが俺達をめがけて突進してくる。
鉤爪で凪いでくるが、俺は既にシールドを張っていた。
キメラの鉤爪がシールドに阻まれて折れていくのが分かる。
「ガアアアア!」
痛みがあるのだろう。
叫びながら地面でのたうち回るキメラたち。
「無意味だろう?」
かえでの方を確認するとやはりキメラが群がっていた。
しかし俺が張っておいたシールドに阻まれて傷一つ付けることが出来ないでいる。
俺は一気に片づけるため先ほどと同じく竜巻を起こした。
今度は手下どもを巻き込むわけには行かないため、彼らにもシールドを張っておく。
凶暴な風はキメラたちを切り刻んでいく。
俺の張ったシールドにキメラの体液がいくつかぶつかって広がった。
「まとめて灰にしてやる」
業火と言えばいいだろうか?
炎を放ってやると先ほどとは比べ物にならない勢いでキメラを焼き尽くしていく。
人間じゃない以上、手加減など一切無用なのだ。
肉の焦げた嫌な臭いと言う表現を通り越して、妙な匂いが広がる。
炎が治まった時、目の前には花びらが舞うようにキメラたちだった灰が宙を舞っていた。
「全く……面倒だ」
シールドで保護していた手下共を見ると治療を再開してやる。
楓に連絡をつなげると楓の元に手下共を転移させて、そのままPWMMに送ってもらうことにした。
「もう大丈夫だぞ」
そう言いながら俺はかえでの周りに張っていたシールドを解除する。
かえでは俺の渡した上着着て、前をしっかり押さえていた。
「うん。また助けられちゃった」
「まあ、お前はまだ日が浅いからな……。
とは言えだ。ちょっと防御弱すぎないか?
なんでそんなにボロボロになるんだよ」
少々呆れながら、かえでを見た。
俺なんか埃くらいしかついていないってのにかえではセミヌードに近い格好だ。
ある意味こういう方が興奮するのだが、妹に興奮はするのは正直避けたい。
「そんなこと言ったって…」
上手く出来ないのはある意味仕方が無い。
しかし防御も魔法の力によるものだ。
魔法の力に比例して防御力は相当高くなる。
かえでの今までの戦いを見ても、ここまで追い詰められる要素はないはずなのだ。
防御が弱いせいで、結果的に衣服がボロボロになる。
ブラの肩紐が切れてそんなものを気にしながら戦うとなれば余計に苦戦を強いられるのだ。
「お前だって、そんな格好にさえなってなければ苦戦なんかしないはずなんだよなー」
「もう……ジロジロみないでよ。スケベ」
下着を隠し切れないせいで顔は真っ赤だ。
しかしここ最近、こういうイベントが多いせいか俺の方が慣れてしまっている。
「へいへい。見られたくなかったら見せるような格好すんな」
「むー!」
剥れて抗議するかえで。
無事だったからこその余裕なのだが。
「とりあえず空間分離されている内に戻るぞ。掴まれ」
「うん」
かえでが俺に掴まるのを確認すると、転移魔法で一旦自宅に戻ることにした。




