表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

第3章 宣戦布告(5)

 翌日、誠から連絡が入って方針が伝えられた。

 しっかりと俺が出した課題に取り組んだのだろう。

 誠からは今まで通りの生活をしつつ、ルークやその他の違法魔法使いへの動きに注意をして欲しいとの事だった。

 俺もかえでも“地球”の人間だ。

 会社や学校をそうそう休むわけには行かないため、その配慮をした形になる。

 もっともサボったらそれはそれで後のフォローが大変だし面倒だ。 

 ルークが動いている以上、常に戦いが起きてもいいように警戒は怠らないのも頷ける。

 俺たちの立場も考えた現段階での最善の指示だと思った。

 指揮系統も楓を窓口にするらしく、誠は情報収集に集中するらしい。

 本当は休みにしたいところだが、“アース”で生活しているわけじゃない以上こればかり仕方なかった。

 一応、PWMMの調査員がルークの本拠地もしくは活動拠点を見つけた場合は一気に攻め込むことになっている。

 また向こうから仕掛けてきた場合、各自で交戦しながら連絡を取ることになった。

 場合によってはその場所を放棄して全員一箇所に集まることも提案された。

「誠、良く考えたな」

 誠からの連絡を聞きながら俺は率直な感想を述べた。

 ちゃんと指揮は取れるだろうと踏んでいたが、アドバイス等をする必要もないのは嬉しい。

『秀二兄さんが考えろって言ったんですよ?』

 少しむくれて言うが、その顔にはわずかながら自信が見えた。

「いや、上等上等。これで、いつでもかえでを任せられそうだ」

『そこで何でかえでが出るんです!』

 頼もしくなったと思う。

 しかし、こうしたからかい甲斐があるのはまだまだ甘い証拠だ。

 二、三の確認を行うと通信を終える。

 後ろではかえでが顔を赤くしながら抗議してきたのはお約束だった。

 

 月曜日、俺達は通常通りに家を出た。

 学校も会社も休みではない以上、こちらの世界の住民としては義務でもある。

 途中までは一緒なため、俺たちは会話をしながら歩いていく。

 話題はいつもからかいの元になる誠とかえでの話であるが。

「もう、お兄ちゃんは誠君とそんなにくっ付けたいの?」

「お前だって満更じゃないだろ?」

「そりゃそうだけどさー」

 もう少しお兄ちゃんらしく「俺の妹を渡すには早い!」とかはないの?と膨れている。

 まあ少しは俺にも構ってもらいたいらしい。可愛いじゃないか。

 俺がずっと面倒を見て来たからある意味当然なのかも知れない。

 そういや親父達はどうしているのやら。

「ねえ」

「ん?」

「どうしてわたしは置いていかれたんだろう?」

「さあな」

 父さん達のことを言っているのだろう。

 俺はともかくこいつは両親と一緒でも良かったと思っていた。

 いくら慣れない海外でも両親と一緒に居た方が何かと良かったとは思う。

 結果としては今の生活に慣れてしまっているわけだが。

「それより、お前はどうなんだ?」

「何が?」

「ずっと俺と一緒だろ? 父さん達のところに行きたいって気はないのか?」

「昔ならあったと思うけど…。わたし英語ダメだし」

 てへへと言う笑いながら言うかえで。

 まあ、今は誠とのこともあるからいいだろう。

 それに今更、両親と一緒に行くと言うわけにも行かない。

「ここでお別れだな。勉強、サボるなよ~」

「お兄ちゃんこそ、仕事サボって怒られないでよ~」

 お互いに注意をすると俺達はそれぞれ会社、学校へと向かうのだった。


 会社では何事も無く時間が過ぎ去っていく。

 同僚にはとうとう愛想を付かされたかーとか下らないことを言いながら俺をからかわれた。

 女子社員は女子社員でわたしなら空いてるだとか逆にアピールされる。

 楓がいたら絶対に大騒ぎになるような感じだ。

 そんな馬鹿な話を同僚達としていた時だった。

 突然、目の前にいた同僚たちが消えたのだ。

 この現象にすぐさま身構えた。

「空間分離だと!?」

 そう。空間が分離されたのだ。

 つまり俺が襲撃対象であると言う事でもある。

「ご名答。すぐに気が付くなんてさすがね」

 目の前に現れたのは顔見知りのPWMMだった。

 俺より三歳ほど年上の人。

 楓とは逆に成熟した感のある大人の女性だ。

 背は高くすらっとした長い足が印象の女性。

 名前は―。

「エリサ…」

「久しぶりっ」

 投げキッスで挨拶をするエリサ。

 この場で空間分離をしていると言う事は彼女は敵と言うのは間違いない。

 本来ならPWMMの一人だったのだが、ルークに寝返ったと考えるのが普通だ。

「そんなに怖い顔しないでよ。わたしね、あなたさえ手に入れば何もいらないから」

 愛しそうに俺を見ながら身を寄せてくる。

 誘惑をしているのだろう。

 エリサの言葉と行動から寝返った事が確信になった。

「俺には楓がいることを知っていると思っているんだが?」

「ええ。あなたが楓を諦めてくれたら面白い情報をあげれるんだけど?」

 普通なら冗談と受け取るのだが、彼女の目は本気だった。

 正気とは思えない。

 正気だったとしてもルークの奴が何か吹き込んだとしか思えなかった。

「断ると言ったら?」

「あなたの妹がひどい目に遭うわよ?」

 そういうと俺の目の前に映像が現れる。

 それは複数の魔法使いと交戦している楓の姿だ。

 相手の中には知っている人間もいる。

 寝返った連中だろう。正直やり切れない思いだ。

 見ている限りだと戸惑いながらも十分互角に戦えているらしい。

 中堅の奴らだが、今のかえでなら対抗出来るレベルだと確信する。

「あんな連中でかえでがどうこう出来るとでも?」

「時間の問題よ」

 やや挑発的に言い放つと、面白くなさそうに映像を閉じた。

 増員を続けていけばかえでを押すかも知れない。

 キメラ相手ではなく人間相手だから加減が出来ずに苦戦は強いられるのは確かだろう。

 ただ俺が目の前の敵を倒して救援に向かう時間は持ちこたえられるのは間違いない。

「どうあってもわたしに気はないの?」

 悲しそうに言うエリサ。

 昔の話だがエリサは確かにアプローチを本当に良くしていた。

 お調子者だけど優しく、思いやりもあった。

 だが二年前にエリサは自ら俺たちの絆を壊すくらいならと自ら身を引いたのだ。

 そういう所は本当に頭が下がる。

 好きだからこそ引くという一番苦しい決断をしたんだからな。

 それだけに今の状況には正直憤りさえ感じる。

「ああ。どうあっても無理だ」

 だから俺は無情にも言い放った。

「あ、そう!」

 最後の希望を砕くと、エリサは俺に手を向けると光が迸る。

 瞬間的な事だったが、俺は半身体をずらして光を避ける。

 レーザーショットだった。

 俺は少し距離を取ると尋ねる。

「どうして寝返った?」

 月並みだが確認しなければならない。

 答えは大体予想出来ているが、もし説得出来るならと思うのだ。

「彼の目指す世界が見てみたいのよ。本当はあなたが手に入ればそれで良かったんだけどね」

 俺を手に入れたい。

 身を引いたエリサがここまではっきり言うのだから俺と言う存在がルークに付け入る隙を与えてしまったんだろう。

 ルークの目指す世界は犯罪者にとっては楽園だ。

 正確には研究者というのがいいだろう。

 倫理観に囚われない自由な研究と言えば聞こえがいい。

 倫理観に囚われないと言う事は、それだけ禁忌も平気で犯すことになる。

 場合によっては人の自由すら奪うことになるのだ。

 奴の世界にエリサが魅力を感じるわけがない。

 しかし倫理観に囚われないからこそクローン等を作り出す技術も解放される。

 もし俺をクローンでもいいから手に入れらたら?

 奴の世界に引き込まれた原因だろう。

「残念だよ。エリサ。君みたいな優秀なPWMMの一人が寝返るのがな」

 レーザーショットを放ちながら牽制しつつエリサとの距離を保つ。

 エリサは俺の攻撃を防ぎながら新たに魔法を撃ってくる。

 二人の攻防が始まった。

 会社内はいくら分離している空間とは言え、戦いにくい。

 俺はエリサに顎で外を指して合図すると外に出る。

「外でのデートも良いわね」

「あまり余裕をかまさない方が身のためだぞ」

 鋭い攻撃が何度と無く襲うが、修羅場を潜ってきた俺には効果は無い。

 エリサとてレベルは低くないが、俺相手では力不足だ。

 攻撃を避けながら徐々に手数を増やすことで押していく。

「さすがね。わたしの攻撃が全然当たらないわ」

「エリサには悪いけど、君じゃ力不足だ」

「その割には一気に来ないのね?」

 出来れば殺したくないからだ。

 エリサでは力不足だが無力化となれば話は違う。

 言いたくないが殺してしまう方が簡単なのだ。

 手加減する必要がないから。

 だが俺はエリサを捕えてPWMMに送り返してやりたい。

 洗脳かどうかまでは分からないが、正気に戻せるはずだ

 正気に戻せない、本当に今の状態が正気であるなら閉じ込めておくしかないが。

「少しくらいは君のデートも楽しまないとって思わないか?」

 冗談を言いながら俺はエリサの攻撃パターンから隙を伺っていた。

「ふふふ。優しいのね」

「そうでもないがな」

 レーザーショットをエリサに放った。

 青白い光が高速でエリサを襲うが、シールド防がれる。

 だが、待っていたのはこの瞬間だった。

「食らいな!」

 シールドで防いでいると言う事は後ろが空いているのだ。

 アトミックバーストの威力を抑えた魔法を放つ。

 光が炸裂すると空気を震わす重い音と、熱を帯びた衝撃が辺りを襲った。

「な…に…?」

 エリサは何事かと後ろを振り向いた。

 だが状況を確認する前に地面へと落ちていく。

 エリサが地面に叩きつける前に、魔法で一旦減速させてやると地面へとうつ伏せで寝かせてやった。

 俺の放った魔法で肉が焼け焦げて爛れているからだ。

「エリサ…。馬鹿だなお前は」

 地上に降り立つとエリサを見て呟いた。

 手を翳して焦げる背中に治療魔法を掛ける。

 応急処置だが、殺菌と皮膚の保護膜を張った。

 こうでもしないと細菌に感染して治療がもっとやり辛くなる。

 応急処置を終えると通信機を取り出して楓に繋いだ。

「楓」

『あ、秀君! 大丈夫なの!』

 結構慌てた様子で俺に尋ねてくる楓。

 通信が妨害されていたのだろう。

「俺は大丈夫だ。すまないがここのポイントを送るからここに寝ている奴をPWMMで回収してもらえるか?」

『うん。いいけど、その人まさか…』

「エリサだ」

『…そうなんだ』

 悲しそうに目を伏せる楓。

 楓とエリサは一時期俺を取り合うライバルだった。

 エリサが身を引いてからは結構仲良くしていたと聞いていた。

 それだけにやるせない気持ちなのだろう。

「ところでかえでの方はどうかわかるか?」

『あ! そうなんだよ! かえでちゃんに連絡が付かなくて』

 ご丁寧に全員通信妨害をしているのだろう。

 エリサとの戦闘はせいぜい五分強だった。

 やられることはないだろうとは思うが、どこで戦っているかは検討は付く。

 かえでの通う学校付近のはずだ。

「誠はいるか?」

 楓に尋ねると少し待ってと言われる。

『代わりました』

 誠の表情は硬かった。

 かえでに通信が通じない以上安否が分からないのだから当然だろう。

 不安が顔に出ているのだ。

「誠、座標ポイントの解析は進んでいるんだろ?」

『さすが、分かってましたか』

 空間分離のポイント、座標のことである。

 かえでが襲われた場所は恐らく学校だ。

 あのポイントを中心に空間分離が行われたのは間違いない。

 分離された空間を調べればいいだけのこと。

「どうだ? ポイントは?」

『大雑把ですよ?』

「構うか。こっちにそのポイントを転送してくれ」

『そう思って転送の用意はしておきました』

 誠の言葉と共に転送先の座標が送られてくる。

 端末に送られてきた座標を頭に入れると俺は転移魔法を展開した。

「じゃあ、かえでの救援に行ってくる」

『お願いします』

 誠の言葉に任せろと言葉を掛けてやった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ