第3章 宣戦布告(2)
かえでは犬のイラストが描かれた白いTシャツにジーンズと言う格好でソファーに座って待っていた。
俺と誠がソファーの前に腰を下ろして、楓が、かえでの隣に座る。
かえで一人が俺のわがままで蚊帳の外だったためにまずは俺の説明から入ることにする。
「まあ、さっきのことでわかったと思うが、俺は魔法使いだ」
「みたいだね。で、可愛い妹をピンチの時に救いたいからって今まで見てたんだ?」
半分呆れ顔で俺を見る、かえで。
どうやら少し楓から聞いたようだ。
「そういうことだ。あとは誠の初任務だ。
出来れば俺のようなベテランの手ではなく少しくらい修羅場をくぐった方がいいと言う理由から見守ってたというのもある」
もっともかえでを驚かすのが俺の中で最優先事項ではあったがな。
「一応、考えはあったんだ」
「当然だ。それでな、さっき戦った魔法使いがルーク・レーガン。
俺が十年前に必死の思いで捕まえて牢獄にぶち込んでやったはずの魔法使いだ」
買収されたとか言う看守はどこにいるか分からないが、本当に馬鹿なことしてくれた。
とは言え、ルークなら人の心の隙を付くくらい容易なのかも知れない。
「そう言えば、あの魔法使い、お兄ちゃんに“俺に奪われた左手と両足”って言ってたけど…」
かえでがそう言って俺の手と足を見る。
今はしっかりと義手と義足がついているだけにとてもそんなことがあったとは思えないだろう。
「秀君の左手と両足は、ルークが言っていたとおりなの」
かえでが申し訳なさそうに俺を見る。
ずっと引きずっているみたいだからな。
「まあ、その通りだ。俺の左手と両足は義手に義足だよ。俺が一年に一回三日くらい家を空けたときがあっただろう?」
十二歳から十八歳くらいまでの間、成長に合わせて義手と義足を交換していた時期が合った。
俺の遺伝子を解析して貰って成長速度を予想し、ナノテクノロジーを使ってある程度成長してもそれに合わせられるものを作って貰っていた。
それでもせいぜい一年の成長が精一杯だったのだが。
「あ…。うん。代わりに楓お姉ちゃんがいてくれたけど…」
人差し指を顎の下に当てながら思い出したようだ。
「そういうこった」
俺はあっけらかんと言うが、空気はちょっと重い。
「その…、今更だけど大丈夫なの?」
心配そうに俺の左手と両足を見てくる。
確かに今更だが、たった今真実を知ったかえでにとっては心配するのは無理もない。
「大丈夫だ。日常生活には差し支えないし、魔力が完全に切れでもしない限りは停止することもないんだ」
左手を出すと袖を巻くって、動かして見せる。
普通に拳を握ったり開いたり、Vサインを作ってみたりと色々やってみせる。
聴診器でも当てて聞けばわずかな機械音が聞こえるかも知れないだろうが、本当に違和感なく動くのだ。
本当の腕だといっても分からないくらいに違和感が無い。
ちなみに俺の細胞から神経と皮膚組織を複製しているおかげで刺激の類は本物の手や足と遜色のないレベルで脳へと伝わる。
その神経伝達の中継と成長分に関してはナノテクノロジーを使い補っている。
「“アース”の技術は伊達じゃないってところだ。な、誠?」
「え? あ、はい」
急に話を降られて慌てる誠。
まさか振られるとは思わなかったのだろう。
「そうなんだ…」
かえでは、そういうと俺の足を叩き出す。
今まで痛がったことがあるんだから、痛いのは分かってるはずなんだが面白そうに叩くのだ。
「俺の足を叩いたりするな。痛いのは伝わるんだぞ」
「へえー」
「だから、つねったりするな!」
かえでは面白がったまま俺の足をつねったりもしてきやがった。
全く、こういうところはまだまだ子供だな。
「で、次に楓なんだが…。転移してから魔法は使えたか?」
「落ち着いてから誠の治療を再開したけど、普通に出来てたよ」
少なくとも分離空間内から逃がしてからは大丈夫だったのだろう。
実際、有効範囲がどのくらいなのか知っておきたかったのだが、分離空間の内と外くらいなら範囲から外れるのかもしれない。
転移させた先は通常空間だったからなおのことだ。
分離していなければ距離にしたらほんのわずかしか離れていないことになる。
空間を隔てた場合は有効ではないのが分かった。
もしかしたらルーク自身が認識出来ないとダメなのかもしれないが。
「とりあえず分離空間の内と外くらいの差があれば大丈夫だろう」
「うん。さっきまで誠の治療も続けてたからね」
今はルークも逃げたあとだ。
もしこれで魔法が封じられているとなるとルークが近くにいる、もしくは影響範囲から抜けていないかのどちらかだったわけだ。
「ここからが本題なんだがな」
俺の言葉に全員の視線が俺に向いた。
「今回の事件、俺も正式に引き受けることにする。
かえでには黙っていたんだが、一番最初に話が来たのは俺のところだったしな」
誠の方を見て言う。
「そうなの?」
かえでの質問は誠に向けてだった。
誠は頷きながら答える。
「あ、そうなんだ。秀二兄さんに最初はお願いしたんだけど、お前のためにならないって断られてね…。
で、ルーク・レーガン脱走の件を昨日引き受けてもらったところだったんだ。
僕たちが追っている奴らと接触するようなら秀二兄さんにも僕らの件を引き受けてもらうつもりでね」
「そうだったんだ…」
初めから自分が声を掛けられていたわけじゃなったのが若干ショックだったようだ。
誠の担当区域は元々楓がいたところでもある。
楓が引退して誠が引き継ぐとなれば必然的に俺に声が掛かるのも頷けた。
もっとも楓が引退したのと同時に俺も引退したのだがな。
「何か、ショックを受けているようだが、かえで。お前が魔法使いの候補に上がって聞いたときにはさすがの俺も驚いたんだぞ?。
これはこれで非常に凄いことなんだ」
「ホント、わたしも驚いたんだ。まさか、かえでちゃんが魔法使いの候補になるなんて思わなかったからね」
「えへへ」
俺と楓がそういうとかえでは少し照れたように笑った。
まあ機嫌が戻せたようで良かった。
何度も言うが俺の場合は特殊だったのだ。
実は魔力が大きくても役に立たない場合もある。
要は魔法ってものを受け入れられて、その魔法の力をどこまで信じられるのか?
これが魔法使いの条件としては非常に重要になってくるのだ。
俺の場合はその質も量も上等だったに過ぎない。
魔法に対する強い憧れがそれを可能にしたと言えるらしいのだ。
「誠には聞いたが、今回のことをかえではどう思った?」
ここで話を変える。
実はかえでが今回の事件をどう思っているかを確認しなければならないのだ。
もし参っているなら無理にやる必要は無い。
兄馬鹿でもあるんだが、かえでがもうやりたくないと言うならそれでもいいと思っている。
「今回のこと…。正直に言うと怖かったよ…。お兄ちゃんが助けてくれたから良かったけど……あのままだったらわたし」
そういうと自分で体を抱きしめるようにしてわずかに体を震わせる。
本人が言うように怖かっただろう。
キメラの触手に捕らわれて、危なく犯されそうになったのだ。
怖くないわけがない。
楓だって受けた心の傷は大きいのだから。
「でも…、わたしには戦う力がある。だったらわたしだって強くなって、戦いたい!」
だから、この発言には驚いた。
実は戦うという事は何か外部の何かとという意味だけではない。
キメラや違法魔法使いと言った明確な敵が存在するが、力だけで戦っているわけではないのだ。
それはあくまで弱い自分との戦いでもある。
どんなに強い力があっても臆病なら戦えない。
逆を言えばどんなに力が弱くても、自分自身の弱さに負けないのなら戦いの臨むことが出来るのだ。
これは学生だろうと社会人だろうと戦うものが変わっても同じことだ。
「かえで…。お前って奴は」
優しい笑みをかえでに向けてやった。
それは兄として、誇らしいからだ。
かえでは骨があると思っていたが、自分の妹が強いなと改めて感じた。
「甘えん坊の子供だと思っていたが、成長しているもんだな」
「な、なにが甘えん坊よ!」
「そのままだろ?」
「あー、それは僕も否定できないかも…」
「誠君まで!」
こいつは実は結構なお兄ちゃん子だったんだ。
普段は減らず口を叩くが、何かとお兄ちゃん、お兄ちゃんってな。
「かえでちゃんは昔から秀君にべったりだったもんね」
「うううぅ。みんながいじめる…」
真っ赤になりながら唸ってもあまり説得力が無かった。
「まあ、冗談は置いておこう。本当はお前がもう嫌だっていうなら身を引いてもらうところだったんだがな」
壮は言ったがルークとの戦いの場で残るといった時点で何となく分かっていた。
だから確認も含めて聞いたわけだが。
最も戦いたいと言った事に対して驚いたのは本当だ。
もしかしたらリタイアする可能性もあるだろうと感じていたのが事実。
「わたしだって関わった以上は最後までやるよ! このままリタイアだなんて情けないもん」
拳を握って悔しそうに言う。
絶対に次は負けないって言う顔だ。
「それはそうだな…。
と、言うわけだ。かえでもやる気があるし誠も今よりも強くなりたいと言ったな?
だから今後のことも含めてお前がこれから指揮を取れ」
「え? 秀二兄さんがやってくれるんじゃないんですか?」
わずかに動揺する誠。
「俺はあくまで手伝うだけだ。
あとルーク絡みに関しては多少、俺の方でも動くが基本はお前の指示に従おうと思う。
でないと何のために俺が手を出さなかったのか分からないからな」
そうなのだ。
いくら俺が動くとは行ってもメインは誠とかえでである。
ルークとの戦闘となれば時はそうは行かないが、戦闘以外の情報収集や調査などをどう進めるかなどの具体的な指示に関しては誠が動いたほうがいい。
デビューした時から人にやってもらいましたでは情けないしそれでは今後が厳しいからだ。
今回ほどの事件を乗り越えれば自信にも繋がるだろう。
当然、フォローはするつもりだが。
「えーと」
少々戸惑っているようだからちょっと背中を押してやる。
「俺がいないと何もできないのか? そんな事はないだろ?」
「やれます!」
「そうだ! それでいい」
いい返事を聞けて俺は満足そうに頷いて答える。
誠の顔には強い力がみなぎっている感じである。
やってやろうじゃないかと言う気迫が感じられた。
「わたし、こういうお兄ちゃんを見るの初めてなんだけど…。
カッコいいね。楓お姉ちゃんが好きになった気持ちが分かるよ」
おいおい。ほめて貰うの嬉しいが、若干危険な意味合いを感じるぞ。
「ふふふ。でも、かえでちゃんは秀君の妹だから何だかんだ言ってもずっと一緒にいられるよ」
「おいおい、何を二人で話してるんだよ」
ちょっと気恥ずかしく思いながら二人に真面目な話だろ、と注意をするのだった。




