第3章 宣戦布告(1)
複雑な思いを抱きながら俺はかえでと共に楓のアパートの前に転移して来た。
アパートを見上げる。
誠の傷も心配だが楓も心配だった。
そんな感傷に浸っていたせいか、かえでが俺を心配そうに見ていた。
「さて、二人が待ってるな」
これじゃダメだなと思いつつ、気持ちを切り替えると明るめに言う。
「あ、うん」
部屋の中に行くとリビングのソファで誠と楓が座って待っていた。
俺の顔を見るなり誠が立ち上がって尋ねてくる。
「秀二兄さん、ルークは?」
「ああ、退いた。元々あいつはあいさつで出て来たようなものだからな」
あれはあいさつ程度のやり合いでは無い。
俺もそうだが、ルークも俺を葬れたらと思っていただろう。
正直、お互い本気ならもっと大規模な戦いになっていたのは確かだ。
あのキメラの転移もの奴の仕業。
そうなれば相当な魔力を消費していたに違いない。
消費していて尚且つ、あれだけの魔法を打てるのだから尋常じゃないのだが。
どちらにせよ、俺もルークもあの場で決着を付けられるほどの力は残っていなかったのだ。
俺にしてもそうである。
レーザーショット、アトミック・バーストの連発。
あの場で決着付けろと言われれば出来なくは無いが、決して俺だって十分な余力が残ってはないのだ。
とは言えども、少しは期待したのだ。
ルークをあの場で葬れるのではないかと。
「秀君…。ごめんね。やっぱりまた役に立たなかった」
震えは止まっている楓だが、やはり心の方にはダメージを残したようだ。
自分が戦力にならない。
これはPWMMであるない関わらず、想い人と共に戦える力があるにも拘らず戦えないとなれば悔しいのは当たり前だった。
もし俺も奴に手も足も出せないで目の前で楓を殺されたり、奴の思うがままにされたなら死ぬほど悔しい。
だから俺は楓を抱きしめて言う。
「ルークの時は仕方ないさ。気にしすぎるとそれこそ奴の思う壺だ」
「そうだよ! 楓お姉ちゃんは絶対悪くない!」
かえでもそう言って励ます。
「うん、ありがとう」
楓が柔らかい声音で返事をして来た。
とりあえずは大丈夫そうだ。
楓から体を離すと、一つ忘れてたことを思い出す。
かえでの方を見ると、コートの前を押さえるのを忘れて可愛らしいブラとショーツが露になっていたのだ。
「楓、悪い。ちょっとかえでに服を貸してやってくれないか?」
「え? 服?」
「あ…!」
かえでが思い出したかのように俺のコートで前を隠すとしゃがむ。
まだ、かえではキメラに襲われたままの格好なのだ。
顔を真っ赤にしてうーっと唸っている。
誠を見るとやはり誠も真っ赤になって、でもかえでから目を離せないで居るようだ。
「おい、誠。俺と一緒に隣の部屋にいくぞ」
「え…。あ! はい!」
俺の声で弾かれたようにかえでに対して背を向けた。
隣の部屋の襖を開けて、閉める際にお約束の如くからかってやる。
「かえで、元気なのはいいが。俺達の血圧は上げなくていいからな」
「お、お、お兄ちゃんのバカぁ!」
真っ赤だった顔を更に赤くしたかえでは俺に罵声を浴びせるのを聞きながら俺は襖を閉めるのだった。。
隣の部屋に移動して俺は誠の腹の具合を確認する。
「随分と派手にやられたな。本当はすぐに“アース”に送らないとならないんだが」
「今日くらいはなんとかなります」
強がりを言うがやはり顔色は悪い。
俺が転移させてからも治療を続けたのだろうが、やっぱり応急処置に毛が生えた程度なんだろう。
決して誠も弱いわけではないのだが、今回は荷が重すぎたか。
「誠、お前の目から見てどうだ? 今回の戦いで感じたことはあるか?」
誠、自身の認識も確かめる。
「……力が足りないって思います。僕にしてもそうですが、かえでも」
やはりそう思うだろう。
俺の時は、本当に幸運だったと思う。
楓が見つけた魔法使い候補の中で、俺の魔力は尋常ではなかった。
加えて、ゲーム好きだった上に血の気が多かった俺は、魔法と言うものにすぐに慣れる事が出来て相当な戦力になっている。
楓もPWMMの人間として非常に優秀な部類になる。
楓は十二歳でPWMMの隊員としてデビューを見事に飾っている。
誠とて決して、不優秀な方ではない。
しかし、誠のデビューは今年だ。歳にしても十五歳である。
努力家だし頭もいい。
楓の弟として俺もずっと見守ってきたから分かっている。
だが、やはり今回のような場合では力不足否めなかった。
「お前は良くやっている方だ。ただ今回の場合、相手が悪すぎる。
本来の任務のままなら問題なかったんだろうがな」
イレギュラーなのだ。ルーク・レーガンと言う違法魔法使いは。
あまりに強力な魔法使いなだけに奴が絡むなら人選も変わって来ただろう。
詳しい人数は聞いていないが、俺が捕まえるまで何人ものPWMMの人間が犠牲になっていると聞いている。
しかも奴を専門に追っていた人間がだ。
楓も相当優秀な部類に入り、俺と言う候補者を見つけられたからこそ任務として成功出来たとも言っていた。
「僕は無力ですね…」
「落ち込むなバカ。優秀なPWMMの人間が何人犠牲になるくらいの相手だと思っているんだ」
「でも、出来れば自分の手でやり遂げたいと思いますよ」
男のいい目だった。
悔しさはバネになる。それは成長には絶対に欠かせないものだ。
今まで手を出さなかったからこそ、意識も高くなっていたようだ。
下手に手を出していたらはじめから俺に頼りっきりでこうは行かなかっただろう。
責任感という点では、自分がやるという思いが大切なのだ。
他の誰かではない。自分自身がと。
「悔しいならその思いを忘れないことだ。
俺でよければ訓練相手になってやるさ。
もうそこまでのレベルだ。誠は」
「あ…」
誠の肩に手を置いてやる。
ルークみたいな事を言うつもりは無いが、あの小さかった誠がここまで逞しくなっていた。
PWMMとして厳しい訓練を受けてきた証拠でもある。
だからこそ俺が相手してもいい時期になって来た。
「俺以上に成長させてやる」
「秀二兄さん以上って言うのは難しいですが、頑張ります!」
気合が入った言葉だ。
そこで部屋の襖が開けられる。
「秀君、誠も。もういいよ」
呼ばれたことで俺達はリビングへと戻ることになった。
誠は決意を固めた。
もう誠は大丈夫だろうと俺は心の中で確信していた。




