第1章・影から見守る兄(1)
すでに廃墟となって久しい病院の地下。
第二次大戦中の軍事施設になっていることもあり、ここに違法な研究をしている者たちがいることもある。
そんなところに少女が異形の化け物・キメラ(合成生物)と戦っていた。
薄茶色のセミロングの髪に白いトレーナー、青い膝丈までのスカートに同じ色のコートを着ている少女、藤堂かえでは俺の妹だ。
今年で高校一年になった妹である。
「この!」
指先をキメラに向ける。
指先からはレーザーのような光が一直線にキメラに向かって行き、キメラの体を貫く。
「ガアアアアア!」
キメラは断末魔を上げながら崩れ落ちていった。
肩で息をしながら、かえでは額の汗を拭う。
「かえで、まだ来るよ。油断しないで!」
叫びながら奥からやってくるキメラに手を突き出し、炎を打ち出す少年。
赤いシャツに、紺のジーンズに白いパーカーを着た少年は時高誠。
俺の恋人の弟だった。
二人はいわゆる魔法使い。
妹のかえでは三ヶ月前に魔法使いになったばかりの新米だった。
「少し苦戦してるね」
俺の隣にいる女の子、時高楓が小声でいった。
楓は黒いロングヘアーに黒のシャツにジーンズ、同じく黒いコートを着ていた。
背が低く一見すると中学生と間違われるようだが、これでも成人している。
見た目は中学生のくせに胸だけは平均より大きかった。
「確かにな。だけど、手を貸すほどじゃない」
俺はそういうと物陰から二人の戦いを見続ける。
おっと俺の自己紹介がまだだったな。
俺の名前は藤堂秀二。
今、キメラと戦っている魔法少女の兄だ。
もちろん魔法使いでもある。
言っておくが、俺達は特殊だ。
この世界において魔法を使える人間なんてほとんどいないんだからな。
俺とかえでは元々普通の人間で魔法使いなんてやっていなかった。
俺が十年前、まだ十二歳の頃に平行世界の”アース”からやってきた楓に頼まれて魔法使いになったのが始まりである。
その話はまた後で詳しく話すとしよう。
「そろそろ最後の一匹だね」
「みたいだな」
俺もそう言いながら最後の一匹をかえでが倒すところを見守っていた。
俺と楓は二人から見えないように様子を伺う。
なぜ隠れる必要があるか?
それは妹に俺が魔法使いであることは伝えていないことが上げられる。
やっぱり正体を明かすときには妹がピンチの時でないとな。
その時の驚く顔が実は楽しみであったりもする。
「ここも外れだな。これで二つ目か…」
「そうだね…」
外れというのはこの違法な研究所に対する評価である。
”アース”からやってくる犯罪者達が、ここ地球で違法な遺伝子操作研究や魔法の研究、テロ活動、”アース”の技術を売却するビジネスなどを行っているのだ。
それの阻止や検挙をするのが誠たちの仕事である。
「とりあえず、次を探すしかなさそうだ」
「そうだね。…かえでちゃん少し疲れ気味だ」
「ああ。だが、まだ俺達が手を貸す事態じゃない。もう少し見守ろう」
「うん、そうだね」
俺と楓は優しい視線を事後処理をする誠とかえでに注ぎながら二人が帰ってくる前に自宅へと帰るため転移魔法を発動させた。
俺が魔法使いを始めたのが十年前。
仕事で両親の帰宅が遅い我が家では魔法使いを引き受けるのにもってこいだった。
楓が担当した地域で、一番魔力が高かった俺が候補として上げられ、俺は楓に一緒に事件を解決してほしいと懇願されたのだ。
当時からゲームなどでそういうのに憧れてた俺は喜んで引き受けた。
楓は”アース”の国際組織で平行世界維持機構、PWMMと言うところに所属していて、こっちの世界へ来ている違法遺伝子操作の研究をする研究者兼魔法使いを追った。
学校が終わると楓と共に廃病院や廃工場を調査、時折、トラップでキメラと戦闘などもあったな。
犯人を追い詰めた時に、俺は右手以外の左手と両足を失った。
今は”アース”製の義足と義手により普通の人間となんら変わりない生活をしている。
ともかく強力な魔法使い相手だったのだ。
俺は左手と両足を犠牲にしながらなんとか犯人を逮捕できるまで追い詰め、気を失う。
楓がその時必死だった俺にほれたらしく、あと俺が右手以外失ったことへの後悔もあったのかその二年後に恋人になった。
「どうしたの? ぼーっとして」
転移魔法で自宅玄関まで戻ってきた俺に楓が尋ねてくる。
「ん? ちょっと昔を思い出してさ」
「そうなんだ。あの頃の秀君って可愛かったよねー」
何故か嬉しそうに言ってくる楓。
まあ、昔は小さかったからな。
今では楓を見下ろすようになったし。
「今も可愛いって言われるようだったら悲しかったよ」
「確かにねー」
この背であの顔だとアンバランスだよとおかしそうに言う。
「楓の方がアンバランスだよな?」
「…エッチ」
俺の視線を感じてか、楓が胸を隠しながら、ちょっと顔を赤くして俺を見た。
身長が百五十センチを少し上回る程度にDカップ近い胸は少々アンバランスである。
本人も「大きくても役に立たないし、肩が凝ってしょうがないんだ」と言っていた。
まあ夜の営みでは、その力を十分発揮してくれているが、その話はここでは出来ない。
そもそもジャンルが違うしな…って誰に言ってんだか。
「さて、俺はかえでの奴が帰ってくる前に寝ないと」
「そうだね。それじゃまた明日」
そういうと楓は背伸びをして俺の頬に軽いキスをすると、住んでいるアパートへと戻っていった。




