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クローズド白昼夢

作者: 猫しゃんて

カップ焼きそばとお酒はよく合いますが、飲み過ぎは駄目ですよ(あらすじよりは、わずかばかり本文と関係のある文章です)


 目が覚めると、そこは俺の住んでいるアパートだった。

 仰向けになって床に寝ている俺。目前に広がっているのは面白味のない白色の天井で、俺の顔の横には大量のビール缶が転がっていた。

 あぁ、そうだ。昨晩、酔いつぶれるまで飲みたくなったから、深夜にコンビニで財布の中身を全部吐き出して買えるだけのビールを買ったんだっけか。

 それで、このザマか。

 頭に気をつかいながらゆっくりと起き上がるが、それでも頭痛は容赦なく俺を攻撃してくる。その痛みに思わず顔をしかめるが、そうしたところで痛みが和らぐわけでもない。

 うなりながらも何とか洗面台に到着する。顔を洗うために蛇口をひねるが、どうしたことか水は姿を見せてくれない。今日って断水の日だっけ?

 蛇口を三周させたところで俺は顔を洗うことをあきらめ、のろのろと部屋に戻っていく。

 座布団を丸めたものをまくらにして、俺はふたたび床に横になる。二日酔いの時は無理に座ったり立ったりしない方が楽でいい。

 ビール缶と一緒に転がっていた携帯に手を伸ばし、つかむ。この部屋には時計がないから、時刻を知りたい時は携帯を頼るしか方法はない。

 携帯を開き、画面を見る。

 画面に表示されていた時刻は深夜の十二時半。しかし、秒数の部分が動くことはなく、そのまま待っていても時計はずっと十二時半を示し続けていた。

 電源を入れ直そうとしてみるが携帯の画面はフリーズしたままで、まったくもって動く気配をみせない。

 そろそろ替え時か。

 あきらめて携帯を放り投げ、俺は身体を休めることに専念する。

 携帯といえば、こんなことがあったっけか。

 俺は思い出す。

 携帯を買ってもらったのは小学校の五年生だったと思う。俺は落ち着きがない子で休日にふらふらとひとりで行き先もつげずに散歩に行ってしまうから、それを心配した母さんが俺に携帯電話を買ってくれたんだったよな。

 あの時の携帯電話、どこに閉まったかな。こんど帰省した時にでも探してみるか。

 それにしても、頭が痛い。



 二日酔いというのは水分を取った方が早く治ると聞いたことがある。

 鉛のように重くなっている身体を無理矢理にたたき起こし、冷蔵庫の置いてあるキッチンへと向かう。

 たしか、ミネラルウォーターが残ってたはず。

 冷蔵庫を開けようとするが、どうしたことかドアが開いてくれない。まるで接着剤で固められたかのような力強さで、冷蔵庫のドアはしっかりと固着していた。

 意味がわからない。三日前に遊びに来た佐々木の野郎がイタズラでくっつけたのだろうか? いや、それはない。少なくとも昨日の時点では冷蔵庫のドアに異変は起きていなかった。

 力をこめて開けようとしてみるが、何度やってもドアはぴくりとも動いてくれなかった。

 仕方ないので生水で妥協することにしたが、蛇口をひねった時点で今日は断水の日だったことに気づく。

 狐につままれた気分のまま、俺は部屋に戻っていく。

 冷蔵庫、修理に出さないと駄目かなぁ。

 冷蔵庫といえば。

 俺は思い出す。

 中学生の時、足立と俺のふたりで電気屋に行ったんだよな。特に目的があったわけでもなく、ただ暑かったから涼を取るために入店しただけだけど。

 ふたりで店内をぶらぶらとしていて、冷蔵庫のコーナーにやってきた時に足立が、

「なぁ。冷蔵庫を万引きしたらかっこいいと思わねぇか?」

 とわけのわからないことを言い出した時は驚いた。

 万引きというシステムに定義があるとは思わないけど、しいて言うのなら万引きっていうのは安くて小さなお菓子なんかを盗っていく行為だと俺は思う。冷蔵庫を盗っていくのは万引きとは違う気がする。

 結局、足立は冷蔵庫を万引きすることなかったがもし店内にいたのが俺と足立のふたりではなく足立のみだったら結果は違っていたかもしれない。あいつは、一度口にしたことはやり遂げなければ気が済まない性分の男だったから。

 近いうちに、足立に連絡でも取ってみるか。長い間会ってないが、あいつとなら急に会っても会話が尽きることはないだろう。

 それにしても、頭が痛い。



 こんな状況のまま何もせず寝転がっているのは、健康面において多大なるダメージであることは間違いない。

 そう考えたら怖くなってきたので、俺は三年前から付き合っている彩花に連絡を取ろうと試みる。

 が、携帯の不調に気がついて断念する。

 今日はついてない日だな。やることなすことすべてが上手くいかない。

 まるで、俺だけ世界に取り残されてしまったみたいだ。

 まぁ、いい。

 彩花はちょくちょく俺の家にやってきては家事をやってくれている。だから、俺の携帯がつながらなくても待っていればそのうちやってくるだろう。それまでは寝ながら何とか耐えてみよう。

 彩花か。

 俺は思い出す。

 あいつと会ったのは大学に入った直後で、それから何となく友だちづきあいしているうちにいつの間にか付き合うことになったんだよな。

 彩花は気が強くて口やかましいが、それでも俺はこいつ以外の人と結婚するつもりはない。それほどまでに、俺は彩花のことが好きだから。

 ただ、好きすぎるってのも考え物だ。俺の愛情は子供じみているから、時に彩花を混乱させることがある。

 この前、驚かそうと思って彩花の留守中にこっそり部屋に忍び込んで、指輪を用意して待ってたんだよな。あいつがバイトから帰ってきたら暗い部屋から突然俺があらわれて、そのままプロポーズしてしまおうというサプライズ。

 いやぁ、あれは面白かった。あの時の彩花の驚いた顔といったら……。

 驚いた顔? 誰の?

 何かがおかしい。

 全身から危険信号が発されているような嫌な感覚。頭痛はどこかに消え去り、身体の重さもなくなった。今の俺に残っているのは、目が回った時のような不快感だけ。

 俺はたしかにサプライズをした。うん、それはたしかだ。

 じゃあ、その後の記憶は? どうして俺にあの時の記憶がない?

 思い出せ。俺は、あの時、たしか。

 彩花がいて、俺がいて、俺は驚かせて、その後……。


 ここで記憶は収束する。


 そうだった。あぁ、そうだったな。

 なるほど。こんな状況になるわけだ。

 俺が彩花にサプライズをしたのはこの前なんかじゃない。ついさっきのことだ。

 彩花の部屋で待ち構えていて、あいつが帰ってきたから急に電気をつけて驚かせて、でも何故か彩花の横には知らない男がいて、俺はわけのわからないまま部屋を飛びだして。

 俺の記憶は正しい形に配列されていく。それは、記憶をピースとしたジグソーパズルに似ている。

 俺は知っている。このパズルは完成させてはいけない。

 しかし、俺の思いとは関係なくパズルはクリアに向けて自動的にすすめられていく。

 俺は帰宅する前に有り金全部使ってコンビニで酒を買って、自宅に戻ってから飲んでは吐いてを繰り返して、気がついたらあの有様で……。

 身体の限界を超えた飲酒を続けた結果、俺の時間は深夜の十二時半にストップしてしまった。おそらく、度を過ぎた急性アルコール中毒ではないだろうか。

 時の止まった俺は、世界に干渉することはできない。だから携帯だって止まったままだし、冷蔵庫のドアだって動いてくれない。

 今の俺にできることは、思い出を回想することだけ。

 えぇと、こういうのをなんていうんだっけ?

 白昼夢? いや、違うな。

 たしか、走馬燈――。

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