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勇者スパイラル

作者: 人平 芥

 【新規データを作成しますか?】



 「それでは、勇者□□□よ。お主にこの剣を託すぞ! この剣とお主の腕に、この世界の全てがかかっておるからな」

 仰々しく剣を差し出す王様に俺は深々と頭を下げ、そのまま腕を伸ばしてずっしりと重たいその剣を受け取った。

 『勇者の剣』と呼ばれるその剣は、おそらくこの世で最も切れ味の鋭い刃物であり、魔王を倒す可能性を持つ唯一の業物だった。

 顔を上げ、真剣な面持ちで佇む王様を見る。その瞳に映るのは期待と信頼。全てこの俺――――勇者□□□に向けられるものだ。

 「必ずや、魔王を倒し、この世界に平和をもたらして見せましょう!」

 そこで、俺は剣を鞘から引き抜き、銀に光る刀身を頭上に掲げる。

 「この剣にかけて……!」

 魔王を倒すという決意を剣に誓う。その様子を、王様も横にいる大臣も、満足そうに見守っていた。


 俺は勇者。名前は□□□。

 魔王を倒す為にこの世界に生まれ、魔王を倒す為にその身を捧げる。

 それが俺の全て。勇者としての、俺の生き様だ。


 なのに――――。



 【パーティが全滅しました】

 【GAME OVER】


 力が入らない。視界は暗く、何も見えない。俺の身体は暗闇の中にあった。

 城を出てすぐのことだった。薬草を渋ったことがいけなかったようで、突如大量に現れたネズミ型モンスターに集中攻撃を食らわされ、旅を始めたばかりの俺の体力は瞬時に空になってしまった。

 油断禁物とはよく言ったものだ。強力な武器を持っていることが、俺の慢心を生んでしまったようだ。

 

 ……しかし『パーティ』とはね。俺はまだ誰も仲間にしていない。これだからコンピューターというものは困る。

 そう、これはゲームの世界。

 何クエストかは知らないが、全て誰かの手によって創造された架空の世界だ。

 王様も、大臣も、魔王も、『勇者の剣』も、全て作り物。所詮電子情報の一部に過ぎない。

 そして、ゲームの世界では、何もかもが許される。

 超能力も、異形の怪物も、そして死人の復活さえも。

 リトライ。

 それは、ゲーム世界の住人にのみ許された特権。物語を遂行するために、俺は何度でも復活するはずだ。

 しかし、まだだろうか。そろそろ、「おお勇者よ! 死んでしまうとは何事だ!」とかいう王様の声が聞こえてきてもおかしくないころだと思うのだが……。


 

 【ハローハロー、勇者さん! いやぁ、死んじゃったね! ドンマイドンマイ】

 

 は?

 暗黒の世界に、空気ガン無視のやたらハイテンションな声が響く。発言した人物の姿は暗闇に紛れて見えないが、何やら心に直接話しかけられたような、そんな不思議な聞こえ方だった。

 とりあえず、誰だお前は。


 【オレ? オレはまあ、このゲームの管理人というかむしろゲーム本体というか。つまりは君達キャラクターのことを管理する、一種のプログラムみたいなものだと思ってくれ】


 プログラム? どうしてプログラムが、『勇者』というキャラクターである俺に直接干渉してくるのだろうか?

 何だ? 俺の復活は王様の役目じゃないのか?


 【復活とか、何言っちゃってんの! 君は死んだんだよ、『げーむおーばー』! 君の存在はここで消滅。君の冒険はここで閉幕。チャンチャンっと】


 ――――は? いやいや、お前が何言ってんの?

 俺、勇者だよ? 主人公だよ? 俺がいなくなって、誰が魔王を倒すんだよ!


 【もちろん、『次の勇者』だよ。データの新規作成は何度でも可能だからね。次の勇者はどんな子かな? あ、でもプログラムは変えられないから、結局君と同じか】


 ふざけんな! 俺は魔王を倒す為に生まれたんだ! 創られたんだ!

 ここで終わるはずがない……俺はまだ魔王を倒してない、そうだろう!?


 【あのさぁ、いい加減理解してよ。ていうか、そろそろ消えてくんない? 君が消えないと新しい勇者が――――データが作れないんだけど】


 嫌だ! 俺が復活すれば良いんだろ? 早くリトライさせてくれよ……!


 【残念だけど、命は誰にだって平等だよ。それは、たとえゲームのキャラクターでも変わらない。君は死んだ。死ねば消えるだけ、何も残らない。死者蘇生なんて夢のまた夢だし、リトライなんて妄言にも程がある。だからさ……】


 【だから、早く消えてよ】


 そう言って、その声は聞こえなくなった。俺はただ一人、闇の中に取り残される。

 何なんだ? 俺はどうなるんだ!?

 謎の声の内容を未だに理解できない。いや、理解したくない。何で? ゲームでのリトライは当たり前じゃないのか……!?

 そして、気付く。

 

 足下の闇が広がり、俺の身体を飲み込んでいっていることに。

 

 徐々に徐々に、それでも確実に俺の身体は黒く染まって来ている。()うに見えなくなった足の感覚が、まるで感じられない。

 俺は、消えているのか?

 俺は、ここで終わるのか……?

 ……嫌だ。消えたくない。

 俺はまだ、この世界にいたい! 生まれ持った使命を果たしたい!

 既に下半身は全て闇に飲まれてしまっていた。闇は進行する速度を上げており、今にも身体全てを食い尽くしてしまいそうだ。抜け出したい、それなのに、どれだけ力を込めても身体が全く動かない。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


 「いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁああああああああぁぁぁあああ――――――――」




 【データを消去しました】


 【新規勇者を作成しますか?】

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