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激情の大地 第二十七話 問答

国明に呼び戻され、美珠達は王の部屋へと向かった。

この前まではただの南国の開放的な部屋だったというのに今は武人たちが整然と並ぶ紗伊那の重要な本陣と様変わりしていた。

騎士団長、南方将軍、そしてその配下たち多くの軍人を集めた王は簡素な机の上で難しい顔で何かを思案していた。


「お父様、相馬ちゃんからお耳に入ったとは思うのだけれど」


王は頷くこともせず、目すら合わせようとはしなかった。


「私は本気です。この地を治める太守に任命してください」


場がどよめく。

この不毛な地、反乱の種火のくすぶる地にこんな痩身の年端もいかない姫を据えるのかと誰もが顔を険しくして、父と娘を見ていた。

そんな視線に応えるように、声を出せない父王は国明へと目を向けた。

この瞬間から彼が王の代弁者となった。


「自分にこの紗伊那の地が治められるとお思いですか? 政治経験のない貴方に」


意地悪だけれど核心をつくその質問をする国明に浮かぶのは心配と姫と離れることを厭う悲しさの入り交じった顔。

ただ他人にはそれが分かっても当の本人にその意識はなく、美珠も質問に必死で気がつかなかった。


「やるしかありません。この国をよい方向に持っていくためには国を治めることとなる私がこの地をまず統治して」


「今の貴方にそれだけの技量がありますか?」


「だから優菜にはついていてもらうんです。彼なら北晋での実績もありますし、それにもちろん皆さんのお力だって」


「優菜君、それに相馬がいたとして、若い人材だけで何ができますか 」


最後に優菜がなんぼのものだと言葉に出しそうになったがそこは踏みとどまり、次に光東が引き取った。


「今回のことも彼には相談し、我々には何のご相談もなかった訳ですか。以前も申し上げましたが、彼の意見にだけ偏るのはいささか危険だと私は考えます、この地を治めるとおっしゃるのならなおさら」


この人も王の忠臣、彼の言葉に父王はただ頷いていた。


「美珠様、我々には信頼関係があると思っておりましたが、それは我々の思い込みですか?」


そんな風に問われ美珠は慌てて首をふった。


「そんなこと、そんなことはありません! でも、皆さんが快く送り出して下さるとは思えません」


切羽詰まる美珠の手を国明がそっと握った。

籠手のない掌のの優しい温もりに美珠は口をつぐむ。


「快くなんて送り出せるわけない。貴方と離れることなんて考えたくもない」


それは個人的な意見だろうと美珠は思ったが、そう言ってもらえることも嬉しかった。


「皆、貴方を想って心配もするんです。貴方の思うことに反対しても、貴方という人間が好きだから、貴方に危険なことをしてほしくない、その一心なんです。それをわかってください」


「わかっています。それは充分すぎるくらい」


反対ばかりされると、結局煮詰まって最後に無鉄砲に飛び出すのが自分の常だ。


ー信じているし、信じてもらっている、それは分かる。

だから言い出せなかった。

皆が反対するのが分かるから。


「いつも心配ばかりかけてごめんなさい」


それでもいつも皆がついていてくれた。

飛び出しても迎えに来てくれた。


「信じて下さい。我々はどんな状況になろうと貴方のゆく道を守ります」


暗守の言葉に美珠は頷く。


幾度となく戦い続けてきたけれど、その都度いつも彼らがいてくれた。

その度に仲間も増えた。

信頼できる人たちに囲まれてきた。


「皆さんありがとう」


美珠が頭を下げると、相馬が少し満足げな表情を浮かべ王へと向いた。

そして王は美珠の姿を見てあきらめたように何かに署名して相馬に紙を手渡した。


「王からのお言葉でございます」


恭しい相馬の態度に美珠は王の前に跪いた。


「本日をもって紗伊那国王女美珠をこの地の臨時太守として任命する」


「拝命いたします」


頭を垂れて王からの任命書を受け取ると立ち上がった。


「王様ずいぶん渋ってらしたけど、臨時ってところで妥協してくださったんだ。でね、俺、太守補佐だから。初めての官位だね、お互い


「私、頑張る。だからいつもみたいに助けてね」


「当たり前だろ!」


たった一枚の紙、それはとてつもなく重いものだ。

国の要所を守り、そしてこれからの紗伊那を作るための礎。

それでもやっぱりたくさんの人が支えてくれる、それは自信に繋がった。


「さあ、やりましょう、私たちの国造り」


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