激情の大地 第二十六話 話し合い
魔法騎士、国王騎士たちが見張りについた部屋に兄と妹は幽閉されていた。
妹は指を弄び、兄はただ瞳を閉じていたのだが、美珠が部屋に足を踏み入れ人払いをすると妹の方はただ静かに目をむけ首を傾げた。
少しだけ心を許してくれたのだろうかと美珠は思った。
「向こうにいる魔法使いのお爺さんのことを教えてください」
「お爺さんって、伝道師様のこと?」
妹のその顔に敵意はない。
恐らく心をさらけ出したことにより、彼女のなかでも美珠に対する気持ちが変わったのだろう。
「ええ、その人はあなた達にとって必要な人なの?」
するとリースは考えるように黙り込んだ。
暫くして言葉を出したのは兄の方だった。
「必要なのかはわからない。我々兄妹が生まれた時にはすでに村にいて、かなりの地位についていた。われらの叔母や数人の先人が伝道師に連れ帰ってもらい幸せに……きっと捕まっていたときよりは幸せに暮らせた。
だからこそ皆、伝道師様を信じていれば幸せになれると思っている。
だが、私の目から見ればあれは紗伊那の人間と何も変わらない。欲深く、執念深い。
南方の地は我々のものだ。紗伊那のものでもあの老人のものでもない」
成る程と美珠は呟き、それから尚も問いかけた。
「私はその人とも話をしなくてはなりません、彼を、彼の人格を理解する方法はありませんか?
するとカナンの族長アーシャーは静かに首をふった。
「きっと伝道師はお前たちの話など聞く気はない。伝道師は自分の意見に合わぬものは排除する」
「それでも何も聞かぬまま戦いを挑めばそれは今までとなんら変わらぬ侵略になるでしょう。どうか力を貸してください」
兄妹は何も答えなかった。
「もしそのお爺さんと分かりあえなかったとして、王はその老人に対して非常に強い怒りをお持ちです。
騎士は王の命に従うべく総掛かりで老人を倒す計画を練っています。そうなれば戦いによりいくつかの集落を犠牲にしてしまうかもしれません。それでも良いのですか?」
「お前たちを信じることはできない」
兄は頑なだった。
「信じてください。私は国王、教皇に願い出て太守にしてもらおうと考えています。貴方方と二度と会わない人間ではありません。毎日顔を突き合わして話をする人間になる予定です。だから、だからこそ信じてください」
すると立ち上がったのはリースだった。
「じゃあ、あなた達は私たちを信じられる? 丸腰で話し合える? 護衛なしで私たちのもとにこれる?」
後ろに控えていた聖斗の剣が微かに音を立てた。
剣の音が駄目だといってるようにさえ美珠には聞こえた。
聖斗の心にはまだ相手を信じきれぬものがあるのだ。
いや、信じるという方がおかしいのかもしれない。
それでも美珠の心は決まっている。
「もちろんよ。信じるわ」
言い切った美珠の顔をじっと見つけていたリースは杖を持った。
「わかったわ。私もあなたを信じる、南方の部族には私達が話をつける。伝道師と話をしてみればいい」
兄の方は美珠と後ろに控える聖斗を見てから静かに妹を守るように出て行った。
*
「今のお話、我々も信じなければならないのですか?」
二人の姿が消え、開口一番の聖斗の言葉だった。
ただ、信じられないだとか、どうかしてる、などと騒ぎ立てることもなくそう静かに聞いてくるところが彼らしいと感じ、美珠は少し口許を緩めた。
「ええ」
「そうですか」
満足そうに見える美珠を見て、説得ははじめからしないと決めたようだった。
だが言いたいことをこらえることも今日はしなかった。
「しかし、ここの太守など、心労がつのるばかりです。それに教皇様はやっとあなたと過ごすことができて喜んでおいででしたが」
「やっぱりお母様のことを考えておいでですか?」
すると至極真面目な顔で聖斗は首を振った。
「それだけではありません。貴方のことを心配しているのです。このような大事なことをどなたかと相談なさいましたか?」
「優菜に、それから相馬ちゃんにも」
「我々に話してくだされば良いのに。皆で協議した上での最善策が出せたかもしれません」
つまりはバカなことをしたといいたいのだろうかと美珠は思った。
こんなこと協議したら絶対時間だけがかかって結論なんか出ない。
横暴な太守、ことなかれ主義の太守などこられては南方の未来は何一つ前に進まないではないか。
口答えしようとしたところで聖斗は最後にポツリと呟いた。
「それに……少しさみしくもなります」
そんなこと言ってもらえるとも思ってなくて顔が赤らむ。
けれど、思い出した。
「ああ、そうでした! 珠利のこともありますね。折角出会えたのに引き離すのも……それならよく相談してみて」
「確かにそれもありますが、それだけではありません。少しわかりあえたあなたとも離れるのが惜しいのです」
そう言い捨てて男は部屋からすたすたと去ってゆく。
好意を寄せてもらっているということで良いのだろうか、とはにかみながら考えて大切なことを思い出した。
追いかけるように部屋を出て美珠はその腕をつかむ。
「あの、これについては優菜と相馬ちゃんにしか相談してなくて、折りを見てお父様とお母様には言うつもりで」
美珠に向けられていた聖斗の目が動く。
美珠が気づく間もなく頭の上から声が掛けられた。
「貴方は我々に言えない秘密をたくさんお持ちなのですね」
目の前にいたのは鎧に身を包む国明だった。
その顔が少し拗ねたようなのは見間違いではあるまい。
「あ、あの、いえ、そういうわけではないんです」
「言いたくないのなら結構です」
この前まで愛しい気持ちしかなかったはずなのに何だか心に距離が空いたようだった。
そして聞こえた声はもっと冷たいものだった。
「お探ししました。作戦会議がはじまります。お戻りください」




