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激情の大地 第二十話 時すでに

発症から三日目の朝、美珠は扉の前から顔をあげた。

誰かの足音が聞こえたから、待ち焦がれた薬が届いたのだと思ったのだ。

けれど、


「お父様」


そこにいたのは国王その人。

王は悲しそうな眼差しで、まるで国明に触れるように鉄の扉に触れると美珠の隣に腰かけた。


一方、南方の地に散った騎士たちは特効薬を求めて灼熱の砂漠を進み続けていた。


「絶対に救ってみせる」


光東もまた竜とともに乾いた砂の上を進んでいた。

こんなに宛もなく砂漠を放浪するなんて金輪際ごめん被ると思いつつも、志は強かった。

植物を見つければ国明を救うことができる。

疫病で苦しむ人間を救うことができる。

それは国のためなのだ。

だからこそ進むだ。


どれほどさすらってからだろうか、甘い匂いを感じた。

砂漠のどこから、と視線を巡らせると少し先の崖の斜面にいくつもの花が見えた。

深紅のその花はまるで人の血でもすったかのような不吉な毒々しい花。


「団長」


ともにいた団員もまた目を輝かせた。

これで国明も、そして疫病感染者すべてを救えるかもしれないからだ。

ただ今からこの垂直ともいうべきその斜面に下りて、そしてその花を取り砦に届けるのに間に合うのか。

こんな時飛竜でもいれば話は早かった。

けれど迷ってもいられず光東は同行した部下に紐を握らせ、自分が危険を覚悟で降りることにした。


その頭上には真っ黒い雲があった。



乾いた大地に突然拳大の氷の塊が降り注いだ。

雹だ。

 

「おい、お前たちさがれ! こんな雹みたことない」


そう先輩の声が聞こえた。

国友、国緒の目の前には花畑があった。

砂漠の真ん中に小さな泉があってそこのまわりだけ緑にあふれていたのだ。

水分補給に立ち寄った彼らの瞳に映ったのは赤い花。

伝言のように伝わる赤い花だ。


団長をこれで救えると手を伸ばすと、突如として降ってきた雹が容赦なく自分たちの籠手とその花をつぶしてゆく。

雹が鎧にぶつかりとてつもない衝撃が体を襲う。


「くっそ、ここまできて! 国緒、君だけでも逃げてくれ」


「できるか! うちの団長の命がかかってるんだ!」


二人の鎧は強靭なものであっても空から降ってきたものが当たる衝撃は生半可なものではなかった。

派手な音を立てて鎧が凹む。


「絶対、団長のために!」


そんな二人は赤い花に手を伸ばした。




「また呪いか」


魔宗は舌打ちをして砦の中から外を眺めていた。

砦から南に少し行った場所には黒い雲が立ち込めて、大地を暗く染めていた。

これは人の巻き起こしたもの。

自分たちの望みを阻む人間の仕業だ。


魔宗は防護策を取ろうとしたが、彼の手元にはもう魔法を使えるものがのこっていなかった。

杖を眺めてから魔宗は踵を返した。


「おい、お前たち」


魔宗が目を付けたのは同じ年の少年三人だった。

相馬、優菜、珠乃、彼ら三人は地図を眺めていたのだが、恐ろしい人間の声にあわてて直立した。


「お前たち、いいか。仕事だ。この砦にある魔石を全部せしめとってこい」


「え? せしめ?」


言葉を理解しかねる相馬に優菜が尋ね返す。


「魔法で何かできるんですか?」


「するしかあるまい。魔石を使いまくってな。あとヒナを連れてこい。扉の前からひっぺがえして」


この男はいじわるなところもあるけれど責任感の強い男でもある。

この異常事態を打開すべく何か儀式を行うのだ。

だからこそ、優菜は美珠から恨まれそうな仕事を買って出ることにした。

一方で相馬と珠乃は倉庫にゆき、兵士が守っている魔石の箱を王の威光を着てぶんどった。

 

「ヒナ、先生が呼んでる」


「離れたくないわ」


「先生には何か考えがあるんだよ」


「いやよ、離れたくないの」


「ヒナ!」


そんな美珠の襟をつかんで引きずる。


「いや! こんな時くらいここにいさせて」


「こんな時だから必要としてるんだ! 少しは冷静になれ」


優菜に怒鳴られ、後ろ髪を引かれながら魔宗のもとまで来ると、部屋の真ん中で漆黒の魔法使いが呪文を唱えていた。

その足元にはまるで埋め込まれたタイルのように赤い魔石が光を放っていた。


「先生」


優菜が声をかけると魔宗はあらたまった顔で美珠を見据えた。


「美珠姫、今、たくさんの者がこの雹の中、解毒剤となる花を探しています。わかりますね」


美珠は窓から外を見てくらい雲を見つけると、顔を引き締めてうなづいた。

こんな中を皆があきらめず探している。

自分を救ってくれたみんなが。

自分が悲しみに埋もれて扉に張り付いて泣いている間に。


「これもまた敵の卑怯な魔法。我々はそれに打ち勝たなければならない」


そうだ、勝つのだと美珠は頬を叩く。


「はい、先生」


「先日あなたの体を戻す際、国王騎士団長が魔法剣を使ったのをみていたでしょう。彼は類稀なる力の持ち主、彼の力を借り相手の魔力に競り勝った。けれど彼が倒れた今、魔法剣を使えるのはあなただ。どうか私に力を貸していただきたい」


本当は国明のもとを離れたくはない。

けれどこんな中で頑張っている人がたくさんいる。

そして先生はそんな彼らを救おうとしている。

だったら自分ができることをするだけ。

泣いてる暇なんかないのだ。

美珠は優菜が差し出した双剣を抜いた。


「そこにおかれた鏡は相手へと術をかけるために用意した魔道具です。それに向けて力を振り絞ってください。優菜、お前もだ」


「はい。先生」


優菜はグローブをはめて美珠の隣に立った。

銀の鏡は鏡だというのに何一つ反射することなく、その鏡の中で何か黒いブヨブヨとしたものがうごめいていた。


「さて、我々が爺など倒してくれよう」


魔宗のその一言が戦況をガラリと変えた。



雹が止んで雲がきれた時、あたりの大地はまるで宝石がちりばめられたように輝いていた。

けれどそれも一瞬、灼熱の太陽に照らされて雹はすぐに消え失せる。

そして砦の窓からはポツリポツリと黒い影がみえはじめた。

刻一刻と増えてくるそれは仲間の影だ。

美珠はその影をみて涙を落とした。



花から作られた薬はすぐに美珠の元へと届けられた。

それを持って美珠は走った。


「思い切りやって!」


中から鍵がかけられていた鉄の扉を蹴破ったのは優菜だった。


「珠以!」


光のない暗く陰気な部屋に足を踏み入れると、血まみれの床の上で一人の男が横たわっていた。

こんなに血を吐いたのか。

そう思うと辛くて辛くて涙が出そうになったが、顔を引き締めもう微動だにしないその男を両手で揺り起こす。

男の人の体はとても重かった。


「珠以。お薬よ!」


何度叫んで、何度呼んでももう返事はない。

美珠は大声で名前を呼んで唇に薬の入った小瓶を押し当てて無理やり流しこんだ。

嚥下してもらえずこぼれ落ちる薬を見ても美珠はあきらめられなかった。


「珠以! 起きていいから飲みなさい!」

 

命令だったらきいてくれる人だったが、もう聞いてもくれないのか、その体はやはりまったく動くことはなかった。


「のんで! 早く! お薬なの! ねえったら、ねえ」


持ち上げあげた腕はだらりと落ちた。

力を失った体はこれほど重いものなのか。

 

「いや! ねえ、いやだ! 死なないで! 私をおいてかないで!」


「うそだろう」


珠乃の力を失った声が耳に入ってくる。


「嫌よ! 私は嫌!」


考えたくなんてない、彼のいない人生なんて。

考えられない。

父の後ろでほほ笑んでくれる人がいなくなる、そんな景色なんて。


「珠以。約束は、まだ約束を守ってもらってない」


武闘大会で優勝してないではないか。

そんな後悔を残したままでどうするのだ。


「起きろクソ兄貴!」


後ろから美珠を押しのけて、兄の腹をたたきつけたのは弟珠乃だった。

けれど痛みを訴えることもなくただ横たわるだけ。


「うそだ」


反応のない兄を見て、珠乃は顔をくしゃくしゃにして泣いた。


「兄上! 兄上! 起きて! お願いだから」


「嘘よ……、珠以」


こんな風にこの人を失うのか。

そんなことありえない。


「本当に私を一人おいていくつもり? ねえ、私に貴方なしの人生をおくらせるの! 珠以! ねえ」


「兄上!」


「こういうのは……本職の医者がやるべきだろうけど」

 

優菜が割り込んできて国明の手首に手を添えた。

脈を診ているのだと知って、二人はかたずをのんで見守った。

やたら長く感じられた。


「残念だけど……」


そんな言葉に美珠の瞳からは涙がたくさん浮かんでくる。


「珠以!」


「ほんと残念、ってなこと言ったら、姉ちゃんに思いっきり叱られるんだろうな。薬間に合ったみたいだよ」


優菜は珍しく意地の悪い顔をして誰の顔も見ずに出て行った。

美珠はぽかんとしていたが、何が起こったのかを理解した途端、


「よかった。ほんと、よかった」


美珠は涙をこらえきれず国明の顔に自分の顔をすりつけた。

そしてその隣で珠乃が兄の足に縋り付いて泣いていた。 

いつもアクセスありがとうございます。

これだけ長く付き合ってくださっている皆様には本当に感謝しかございません。


どうやら予約投稿に失敗していたようで、更新が遅れてしまいました。

本当に申し訳ございません!


あともう少し姫様にお付き合いくださいませ。

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