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激情の大地 第十一話 四九八七六

「何? 知り合い?」


真ん中の紫髪の男が二人の顔を見比べながらそう聞くと、たいそう端麗な顔をした黒髪の男は鼻で笑って首を振る。


「知らないな」


でも美珠はその人の顔も声も充分知ってる。

けれど男は無情にも袖を握る美珠を振り払い、食事をもらうと紫髪を引き連れ歩いて行ってしまった。

どれだけ置き去りにされても美珠もまた彼らについてゆくことにした。

ここでなんてひどい男なのだと泣き崩れてもどうにもならない。

「この男に賭ける」今はそれしかこの環境の打開策がみつからなかったからだ。


「ついてきたよ。この女。本当にしらないの?」


四四四四四の言葉に四九八七六は長い首を振り、おいしくもない夕食をかきこんだ。

二人の間に入るのは紫髪で、彼は自分を知りたがっていた。


「だってあんた女だまして捕まったんだろ? その女の一人じゃないの?」


「さあ、どうだったかな」


いつまでもしらを切る男に美珠は口を尖らせた。

心の底から本気の怒りがこみ上げてきた。

きっとこれが運命の相手だったのなら、外見が他人であろうが気がつくもんじゃないのか。

感動の対面となるはずではないのか。

彼を一度でも運命の相手だと思った自分がバカみたいだ。

 

「本当に遊ばれてたんですね。信じられない。私だけだと思ってたのに。もう絶対に許さないんだから、あとでどれだけ謝っても、言い寄ってきても無視するわ。あなたも覚悟しておいて頂戴ね。甘い言葉にもう騙されないわよ」


強く出た美珠に四四四四四と四九八七六は視線を合わせ、結局四九八七六なだめるように美珠に問いかけてきた。


「君とどこで出会ったっていうんだい?」


「王都よ」


「へえ」


男二人の視線がすこしだけ揺れた。

この怪しい風体の女の話を少し聞いてやろうと言う顔つきになっていた。

それがわかって美珠はいますぐにでも自分の話をぶちまけたかったが、知らない男がくっついているそれが障害だった。

一体この男は誰なのだ。

こんな奇妙な男、見たこともない男だった。

この男も騎士なのか。

 

四九八七六はそれからも少し質問を続けてきた。

だから美珠も言葉を返してやることにした。

少しの棘をはらんで。


「で? それから俺と君はどうなったんだい?」


「私はあなたを好きになったわ。貴方だって私を好きなのだと思ってた。私は最愛の人にめぐり合えたんだって。でもあなたは違った、私以外の人を選んだの。突然、私の目の前にいけすかない女の人と子供をつれてきたのよ。本当にぶん殴ってやりたいくらいだった」


「それ、ひさ~ん」


割り込んでくる華奢男にも腹がたった。

だからお前はどこの誰だ。


「そうね、悲惨な日々だったわ。もう思い出したくもない。まあ、その後素敵な人にであったんだけれど」


最後の言葉は自分という存在に気がつかなかった彼へ放った口撃。

それが美珠と分かっていないこの男にどれだけの効力があるかはわからないけれど。

そんな言葉に男は黙っていた。


美珠はそれから気になっていたことを問いかけてみた。


「そうだ、あなたは見たの? 姫が皆殺しにしろって言ったところ」


「見た」


「あれは本物の姫だった?」


彼は美珠をどうみたのだろう。

探るような視線を向けると四九八七六はしっかりと首を振った。

その瞳に宿るものは強いものだった。

 

「違う、あれは偽物だ」


「そう、うん、そうね」


ちゃんとわかってもらっていたこと、どこかほっとして美珠は手に乗っていた汁を飲み込んだ。

ぬるい汁から臭みが広がった。


「どうしてこんなに匂うのかしら」


「水が悪いんだ」


分かったような口をきく華奢男の言葉に納得して汁をすすると、殴られて切れた口の中が傷んだ。


「ああ、ここにいた、兄貴」


あらわれたのは赤毛のそばかすの男で、彼は豊満な色気のある美珠の姿を見るとすこしだけ目を見開いた。

その視線に違和感を覚えて美珠は視線を送る。

どこかで見たことがある。

けれどどこだったか。


「なんすか、女、ひっかけてたんすか?」


「ひっかけてなんていねえし、付いてきたんだ」


紫髪が通訳のように怒鳴り返す。

そしてその男にさらに噛み付いた。


「大体、なんだ兄貴って。こいつそんなに慕っても何にもでてこねえよ」


そんな紫髪を制して黒髪の四九八七六が労わるような目を向けた。


「お前、けがはもういいのか?」


「ええ」


ちらちらとこっちを見る男の視線がどうしても美珠は慣れなかった。

女だからと向けられているのか、そうでないのか。

兎に角気持の悪い視線。


そして思い出した。

この男は本来の姿をした自分に飛び掛ってきた運命の男を名乗る男だ。

珠利も自分も覚えていられなかった顔。

この男は何故この四九八七六とともに行動しているのか。

本当に運命の男というのはこの男だったのか。

けれど胸は何も震えなかった。

自分の胸を震わせるのは四九八七六と番号のついた服を着る幼馴染だった。


 

夜、美珠はなんとか同じ小屋で寝る権利を得て身を横たえた。

可愛くないことをいったものの、そこに彼がいる、それだけで心が強くなる。

そしてそんな彼に早く真実を伝えなくちゃいけない。

だというのに、どんなに気が合うのか、紫頭と幼馴染みは常に一緒にいた。

いや、むしろ紫頭がおいてかれるのが嫌でくっついていると言う方が正解か。 


「いつ外にいくんだよ! 俺もつれてけよ、さっき看守がむかえにきたんじゃねえのか!」


「外にいく話は先伸ばしになった。あ~残念だな、くそ」


「なんだよ、それ……」


あからさまにしょんぼりした紫頭へ背を向けて今度は美珠に顔を向けた。


「その怪我は?」


不意に目の前の彼が訪ねた。

狭くて今にも体中がふれてしまいそうな距離にある。

その視線は完全に絡み合っていた。


「良かれと思ってやったことが迷惑だったみたい。看守に散々殴られたわ。ねえ」


「ん? どうした?」


そんな風な言葉を向けられたことが新鮮だった。

いつも自分には基本敬語であったからだ。

自分が普通の女であったなら、こんな風に返してくるのか。


「いいことしない?」


いいことがなんなのかわからないけれど、それがどうやら二人きりになる魔法の言葉なのだと美珠は気がついていた。

二人きりになってぶちまけたい。

本心はそこなのであるが、


「しねえよ!」


すかさず返した華奢男を無視して美珠はその袖を引っ張った。


「ねえ、いいでしょ?」


「今日はもう遅い、やめておこう」


やんわりと断られ美珠はやっぱり口を尖らせた。


「今度あなたから声をかけても絶対についていかないわ」


苦笑いを浮かべるだけの彼に美珠はそっぽを向きたかったが、寝て起きたらいなくなっていたら嫌で結局顔を見ながら寝ることにした。



紗伊那の姫、美珠は牢につながれていた。

両手、両足には重い鉄の枷、口には白い布が噛まされていた。

しかし、そんな屈辱的な監視下に置かれていてもそこにある姫はうなだれたりしなかった。

ただまっすぐ前を見ているだけ。


「これはどういうこと?」


動揺を隠せない相馬の言葉に冷静に魔央は首を振る。


「何かの術をかけられたのだということはわかっているが」


「偽物、じゃないんだよね」


「ええ、体は美珠様のものです」


魔央の後ろに控えていた魔希は悲しげに首を振った。


「俺がついてたのに、今度こそ、お守りできるって思ってたのに。どうして俺はこうも非力なんだ」


嘆き哀しむ魔希へと魔央は視線を送り再び姫へと視線を送った。


「光騎士を消しさり、姫の心を変える。……我々が戦うものはどれほど巨大なものなのだろうな」



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