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激情の大地 第一話 光騎士団

「これで荷物は全部かな、なんか思ったよりも多くないか?」


光東は休みの日、実家から荷物を運び出した。

それはすべて初音のもので、「衣類」とかかれた箱だけで一部屋完全につぶしてしまっていた。

一方、白亜の宮から持ち出した自分の荷物はそれほどの量もない。

箱二つだけ。


「これでも大分あきらめたのよ、捨てたものだって多いんだし」


しばらくしたら一緒に暮らすことになる妹、いや恋人は新しい寝室の寝台に桃色の花柄シーツをかけていた。

その柄の上で寝るのか、ここにきて初めてその事実をしった光東はそれでも一生懸命働く恋人に視線を送っていた。

これから一つ南方に仕事にいって、武闘大会を終えれば夫婦になる。

夫婦といってもしばらくはお互い仕事もあり、すれ違うこともあるだろう。

それでも光東には初音の存在が必要だったし、初音にだって光東は必要だった。


「何笑ってるの? お兄様」


「お兄様って、いつまでよぶんだい?」


すると初音はほほを染めて光東の視線を避けた。


「結婚したら、ちゃんと呼ぶわ」


「なんて?」


「わ、わからないわよ。その時になって考えるわ」


その時、どんな風に呼んでくれるのかと考えてみると、こっちの顔だってゆるんでくる。

けれど一方で、突如初音の顔に不安が浮かび、悲しそうな目を向けた。


「南方へ行くってお仕事は本当に危ないお仕事じゃないの?」


「ああ、もうこの国の危機は回避されたからね。前にも言っただろ? 美珠様を守ってくれていた北晋国の若者のおかげで。あとは南方部族たちに紗伊那の力を見せつけて統制をとるだけなんだ。お飾りみたいなもんさ」


「でも、でも、不安じゃない。どんなところにいくのだって不安になるわ」


「大丈夫だよ。必ずかえってくる。初音を一人なんかにしておけないしな」


「うん、お兄様、絶対に一人なんかにしないで」


それから三日後、初音は光騎士団が南方に向けて進んでゆくのを見物する人々の中から見送った。



「そういえば、光東さん引っ越しの準備が、っておっしゃっていたものね。あとは戻られるのを待つだけですね」


兄が旅立って八日、初音は大口の顧客のもとに出向いていた。

自分が仕事を続けるのはこの人がいるからだ。

この国の姫のために、この姫の作る国の為に働きたいのだ。

今日は絵を入れるための額縁がほしいというものだった。

 

「ええ、でもこれが二人で暮らすようになった直後でなくて本当によかったと思います。兄のいない部屋で一人で暮らしていたら本当に気が滅入りそうです。今でしたらまだ両親と暮らしていますし、話相手くらいにはなりますし」


「ま、初音も姫様も嫁いでどっかにいくってわけじゃないから、親もそこは安心だよね」


護衛、珠利もまた主美珠とともに円卓を囲んで初音の持参した焼き菓子に舌鼓を打っていた。


初音はじつに上手に美珠の喜ぶお菓子を持ってきていた。

珍しいだけではなく、味も折り紙つき。

だからこそ美珠は彼女と会う時は極上の癒しの時間だと感じていた。

きれいなドレスの話に、恋の話、年頃の娘として穏やかな時間を過ごせる相手だった。


けれどそんな少女たちの時間に割り込んできた人間がいた。

姫の執事、相馬だった。


「さて、どう処理すべきかな?」


難しい顔をして何かをぶつぶつとつぶやいたり、首をひねって口をとがらせていた相馬は部屋に初音がいることに気が付くと、一瞬驚いたように体をびくつかせ、笑顔を向けた。


「そっか、額縁お願いしたんだったよね」


「こんにちは、相馬君」


「あ、うん」


相馬は挨拶もほどほどに部屋から出て行こうとする。


「どうかしたの?」


「あ、ううん。あのさ、俺ちょっと出かけてきていいかな?」


「どこへ?」


顔に困ったと書いていた。

だからこそ、報告してほしかったのだが相馬にはそんな気は無いようで、


「ちょっと。もしかしたら今日はかえらないかもしれないんだなぁ」


手帳ひとつで出て行った相馬を不審に思いながらも、女三人はそれからお菓子をつまみながら話に花を咲かせた。



「うわ、なんだ、お前」


優菜は仕事から帰ってくると勝手に人の家の炬燵の中であったまっている男を見つけ声を上げた。


「この国は寒い、寒すぎる。うちの姫様はこんな気温に適合してたなんて、馬鹿だからかな」


「何しに来たんだよ。どうやって入ったんだ? あ、ヒナに鍵渡してたんだ。でも何で相馬ちゃんが持ってんだ?」


その男の後ろにやっぱり美珠の姿がないかと確認してしまう自分に優菜は呆れながらも、自分もまた炬燵に足を突っ込んだ。

相馬は優菜と面と向かって座りながら、早速問いかけた。


「お前、何か紗伊那の南に関して情報持ってないか?」


「え? 俺が? 紗伊那の情報局の方がそりゃあ、情報はあるんじゃない? だって自分の国なんだし」


突然の言葉に優菜は驚いて至極当たり前のことしか答えられなかった。

けれどそんなことをこの男が聞いてくるということは、


「何があったっていうの?」


「光騎士団が行方不明になった」


小さな声だったがすかさず返されたその言葉に優菜は息をのんだ。

光騎士団のだれそれではなく光騎士団という団体が行方不明になったと相馬は今言った。


「八日前に南に向かったんだったよな?」


「そうだ、もちろん情報局はその情報をすぐに把握して、連絡が取れなくなったその数時間後には偵察に行かせた。でもどこにも存在しない。戦闘のあとも何もない。まるで消されたみたいな状態なんだ。それからもうすぐ一日になる」


相馬は燕尾服の内ポケットから地図を取り出し開いた。


「これはまだ騎士たちには伝わってない。情報局と国王様だけしか知らない。

明日の朝、騎士たちや教皇様には連絡がいく。混乱はさけられないよな。でもお前なら何か知ってるんじゃないかと思って。藤堂秀司は紗伊那の南の部族と連絡を取り合ってたんだろ? 紗伊那をつぶすために」


「ん~。ごめん、俺は何も。今すぐ部下だった慎一さんに聞いてみるよ。うまくすれば藤堂秀司のつかった連絡網が残ってるかもしれないな。でもこっちは時間がかかるかもしれない」


「わかってる。それでも今は何にもわからない。どんな情報でもいい、だから頼む。極秘で」


「わかった」


結局優菜は帰宅したものの束の間の休みも取れず動き出した。

けれど何かが動き出すのかと、どこか高揚している自分がいた。



光騎士団が行方を絶った。

その知らせは早朝の申し送りの時に伝えられた。

顔も知らぬ情報局の人間が突然現れ、そして突然報告した内容を聞いて、美珠は言葉の意味がまずのみこめなかった。


「行方が分からないとは、襲撃をされたわけでもないのか?」


暗守の言葉に情報局の人間は頷いた。


「襲撃の痕跡はどこにもありません。砂漠の中で忽然と姿がなくなりました」


その事態は不気味で恐ろしい話に聞こえた。

光騎士団でも二百人ほどの人間がいる。

それが全員忽然と消えたのだ。


「光東さんは今、どこに。初音ちゃんが待っているのに」


初音だけではない。

光騎士たちの家族はこの話を聞いてどう思うか。

皆、苦しむに決まっている。


「ただちに魔法騎士を派遣しましょう。魔法騎士なら何か痕跡をみつけられるかもしれない」


魔央の言葉にしっかりと頷き、教皇は暗黒騎士を束ねる暗守へと目を向けた。


「魔法騎士とともに行動を」


「はっ」


またよくないことが国で起こっている。

一体何がどうなって、光騎士団は消えてしまったのか。


「また戦いにならねばいいのですが」


美珠はただ願っていた。



初音はその日、店頭で品物の補充を行っていた。

美珠を扱った商品の売れ行きはどれも好調だった。

特に同じ年頃の少女たちからの支持は絶大で、おまけに騎士団長と絡めた商品の売れ行きも大変よくて、婚約者である兄、光東と姫が恋人同士だと勘違いされようが友としても誇りだった。

数か月前まで人前に顔を見せなかった姫の認知度も人気もこの都ではとても高いのだと初音は自慢に思っていた。


そんなとき、初音の隣に来たのはどこにでもいる平凡な少女だった。

髪をゆった丸い顔の女。


「いらっしゃいませ」


女はすすっとよると、初音の手になにかを握らせた。


「読んでください。誰かにこのことを話したらあなたの大切な人の命はありませんよ」


大切な人。

思い浮かぶのは先日見送った恋人のこと。

かえってくるのを指折りまつ恋人のことだ。

 

「四日の間に指定された倉庫に書いてあるものを用意しておいてください」


初音が聞き返そうとした時にはもう少女の姿は雑踏の中に紛れ込んでいた。

初音は走って追いかけたのだが、一体自分が誰を追いかけているのか全く分からなくなった。

今は話したばかりの少女の顔も声も服装も頭の中には何一つ印象には残らなかった。


「お兄様」


初音は首をふって店奥へと駆け込むと震える手で手紙を開いた。

紙には武器のほかに莫大な金銀が要求されていた。

これではこの店はつぶれてしまう。


それよりもこれだけの兵器を扱うとなれば戦争ということにもなりかねない。

指定されている場所は南方の倉庫であるし、その先に広がる場所はこの国の一番もろいところだ。

こんなところに武器やお金をまわせばこの国はどうなるか。

すぐに父に話をしようとしたが、一歩踏み出せば呪縛のように先ほどの女の声がよみがえってくる。


ー大切な人の命


もし軽はずみな行動をして兄を失えばどうなるか。

考えたくもないが、残された自分には壮絶な喪失感が待っている。

これから先兄を失って生きていくなんて、ありえない話だ。

自分の人生から兄をなくすことなんてあってはならない。


「どうして、こんな」


やっと心が通じ合えた恋人をなくすことを考えると、初音は敵ばかりつくるこの国を恨まざるを得なかった。



「うまく作り上げた人形よ」


「これくらい造作ありません」


感情のない二つの声が部屋に存在した。

問いかけた声はしゃがれた声で、もう一つはまだ若い女の声だった。

女の手には丸い髪をゆった女が墨で描かれた紙がある。


「この国は自らの業で消えるしかあるまい。我々はその手助けをするだけだ。消えろ、紗伊那」


「我々の地を解放するために」


若い女はそう囁くと、水にうつされた初音の顔を手でかき回した。



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