七 奴の正体?
教室は大騒ぎだった。
どうやら、先ほど挨拶を交わした田名部が広めて回っているらしい。
「・・・え!うそ!」
「信じられない!!」
「今まで聞こえないとかいって、シカトしてただけじゃないの??」
「いやでも、それは違うよ!だって黒板のキイーって音立てても平然としてたもん!」
「その音平気な人ぐらいいるよ!」
たくさん声が聞こえる。
ああ、皆の声ってこんな声してたんだ・・・。
楽しい。今までこんなに学校にいるのが楽しいと思えたの初めて!
亜莉奈といたときもずっと本当は不信感にかられてたもん。
亜莉奈が友達に何を言ってるのか、
私の悪口言ってるんじゃないかとかそんな事ばかり考えてた。
亜莉奈が私から離れたのは、裏切ったからじゃないのかもしれない。
私が亜莉奈に抱いていた不信感が嫌だったからじゃないか。
自分なりに思考をめぐらせて見る。
「ねえ、桜夢さん!私の声聞こえるの?ほんとに!」
クラスの女子が私を見つけて、走ってくる。
「うん。聞こえるよ。私皆の声聞こえるようになって幸せだよ!」
本当に幸せだった。
今まで話さなかった子とも仲良くなれた気がした。
授業も先生の話がたくさん聞けて、皆と一緒に笑うことが出来た。
楽しかった。
「ご馳走様でした!」
皆で挨拶をして、昼休みにはいる。
給食当番は食器などがのったワゴンを2階の給食室まで運ぶ。
私にも一応用事がある。
奴・・・ドラゴンにいろいろ聞かせてもらうのだ。
私はすっと立ち上がり、走って屋上へ向かう。
普段は屋上は人が少しいるのだが、今日は3年生が球技大会。
ほとんど人がいない。
良かった。今日、三年生が球技大会で。
息を少し切らせながら、思い切り屋上のドアを開ける。
良かった誰もいない。
ドアから少し離れ見晴らしのいい位置に座る。
「聞こえてるわよねえ?ドラゴン?まず私あんたの名前知らないんだけど・・・。」
『・・・・・。』
「おい!聞こえてんだろ!!」
『・・・・。』
「私ここから飛び降りるから。もともと捨てたような命だし。」
屋上の柵に足をかける。
下を見ると外で男子がサッカーをしている。
高い。怖い。
『はあ~もう分かった、分かった!話すから。』
「それならよろしい。」
『俺はクウィルバー・ジバルトン。クウィルバーでいい。』
「そう。じゃあクウィルバー。何であんた私が病室で話しかけたとき返事しなかったの?」
『ん、だってお前の背中おかしいんだよ!巣になる素質は十分あるのに
入りずらくてさ・・・。』
「もしかしてそれで、副作用が起きたの??おきないだろうとか言ってたのに。」
『しゃーねーだろお?今はまあぴったりおさまってっからOKだけどよう。』
「それとクウィルバー、あんた何者??
ある事情があってこの世界にいる、見たいなこと言ってたけど、事情って何??」
『ホントは人間どもにあまり知られたくないんだが、まあじゃねえと話が進まねえ。
俺の用事もできねえからな。』
「・・・。分かった。秘密にする。これで良いでしょ?
私もあなたの事誰にも知られたくないし、知られたら何されるかわかんない。
私にはあなたのこと周りに言うことはできないのよ。」
『俺はまあお前らが察するように、ドラゴンとかそんな類だ。
正確には、Dragonと英語にして欲しいが、ドラグルス、それが俺たち
ドラゴンの名称。ドラゴンは世界の名前なんだ。国はいくつもに分かれていて
インドリブス、キラグラブス、ミリノリアス、タヅロイクス、ハニギシアス
でかい国はこのくらい。全部語尾に「ス」がついている。
ほかにもちっさい国はいくつかあるんだがそれはおいといて。』
「あんたはどこの国なの??」
『あ!俺?俺はミノリアスだ。
ってそうじゃなくて、ほかに説明しときたいことがあるんだ。
語尾に「グス」がつく国が二つあるだろ?ほかにも「アス」がつく国も二つ。
そいつらは、建国当時から仲が良くて、同名結んでんだ。
「クス」がつく国がひとつある。
そこはどことも同盟組まずに繁栄したんだ。
平和主義でな、緑のきれいな国だ。
・・・。ていうかホントは昔は同盟を結んでた国はあったらしいんだ。
だけど、滅びちまって・・・。』
「あ~もう無理。異世界だとか国だとかもう訳わかんない!!
ていうか、説明下手だよ。クウィルバー。
ドラゴンって頭悪いの!?」
『・・・。教えろっていったのお前じゃねえか。
しかもドラゴンじゃなくてドラグルスだし。
それにドラゴン人間どもに比べたら、ず~っと頭いいし。』
クウィルバーはぼそぼそとつぶやく。
私は背中に向けて鋭いまなざしを向ける。
「なんか言った?」
『いや?空耳じゃないか?』
「まあいいよ。それより用事聞かないと。」
『ああ、それでだ。お前らの言う海みたいなものが俺らの世界にもあるんだ。
俺らはそこ、シーマリズに入ると毒されるから今まで誰も入れなかったんだが
この間、誰かが魔法で強力なバリアー張って潜ってみたらしいんだ。
そしたら・・・。』
「そしたら?」
『そしたら、別の世界とつながってたんだ。』
「それってこの世界のこと?」
『いや違う。この世界と俺らの世界は空でつながってんだ。
まあ、俺らの魔法がないと通れないがな。
それで偵察にいったやつらは戻ってこなかった。
次の日見に行くとそいつらの首が浮かんでた・・・。』
「っ!」
『それでまあ全面戦争になりそうなんだ。
ただ世界が違うといろいろ違ってな。
あいつら魔法に対する耐性が以上なんだよ!』
「それで、私たちに何かしろと。」
『いや。違う。お前ら弱いから。』
私は眉間にしわを寄せるが言い返さない。
正確に言うと言い返せないんだ。
『俺らはこの世界の海の向こうにある世界、その世界からあいつらの耐性が弱い
物を取ってこなくちゃいけないんだ。いやもって帰るんだ。必ず。』
どうやらドラグルスは相当異世界について知っているみたいだ。
私たち人間はこの狭い世界のことしか知らないのに・・・。
「・・・?ならひとりでいけばいいじゃない。」
『そうはいかねーんだ。ドラグルスと人間がいないととうれないらしい。
というか一回試したが海の底があるだけだったんだ。』
「はあ、それで私に手伝えと。」
『お願いします。』
「まあ契約だから、仕方ないし。」
私はよっこらしょと立ち上がる。柵に手をかけて空を見る。
「ドラゴンの世界か・・・行ってみたいな。」
『いいぜ。お前が手伝ってくれたらな。皆歓迎するだろう。』
「本当!私やる!頑張る!」
その時屋上のドアが開いた。キイっと嫌な音が鳴り、
私に近寄ってくる。
「美智霞、あんた誰と話してんの?」
どうやら、奴と話すにはそれなりのリスクがあるらしい。
変人扱いされてしまう。
・・・。変人かもしれないが。