表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

六 たくさんの声に囲まれて

  父さんが私を見つけてくれたらしい。

 

 医者は心配そうに私を見つめ、


 「本当に退院するのかい?」

 

 としつこく聞いてくる。

 

 別に本当はただ吃驚びっくりしすぎただけだから

 健康に以上はないのだけれど。

 

 「はい!私元気ですから!大丈夫です。」

 

 にっこりと私は医者に微笑んだ。

 

 この医者には何かと心配をかけてしまった。


 なんだか上から目線になってしまっているが仕方ない。


 真実を知っているのは私だけだもの。

 

 病院の自動ドアが『ウィーン』と音を立てて開いた。

 

 変な音・・・。機械音て奴かな?

 

 初めて聞くその聞きなれない音に私は驚きつつも喜んだ。

 

 ドアを抜けて外に出ると、すごく強い風で私の髪がバサバサとなびいた。

 

 さらに、風はヒューと耳元で音を立てて私の横をすり抜けていく。

 

 とても心地よい音だ。きれい。

 

 私が歩く音、父さんが歩く音、父さんの声、私の声、気がガサガサ揺れ動く音

 

 こんなに身の回りには音があふれていたんだ!

 

 私はつい楽しくなり、ヒューと風の声を真似しながらスキップを始めてしまった。

 

 中学生にもなってと思うかもしれないが

 私にとってはそのくらい嬉しかった。

 

 「父さん!風ってきれいな声してるね!!」

 

 私は微笑んでいる父さんに向かって叫んだ。

 

 すると私が風の音を声といったことにちょっと驚いたようだったが

 すぐに微笑み返し、スキップしていた私を呼び止め、手招きした。

 

 「母さんの声も風の声みたいに透き通っていてきれいな声だったよ」

 

 「!」

 

 私は母を憎んでいた。

 

 なぜ私なんかを生んだのか。生まなきゃ良かったのにと。

 

 しかしそれと以上に母に会いたいという気持ちもあった。

 

 思わずなきそうになった。

 

 父は心配性だから、父さんの前で泣くと

 

 迷惑がかかる。

 

 「うっ、なっなんで?何で母さんは私なんか生んだの?

  何で私なんか生んで死んじゃったの?」

 

 「・・・。」

 

 父さんは薄く微笑むが答えない。

 

 「ねえ!なんで?」

 

 「父さんはね、母さんは十分幸せだったと思うよ」

 

 「?」

 

 父さんは不思議すな顔をする私を見つめていった。


 「いずれ分かるさ。母さんが残した娘なら。いずれ・・・いずれね。

  だからまだ知らなくていい。大丈夫だから。」

 

 少し悲しげに笑う父さんの顔を見て私に「うん」以外いえるはずもなく

 こくっと軽くうなずく。

 

 そうして私たちはゆっくりと家路を歩き続けた。 

 

  

  次の日学校に行くことになった。 

 

 前まで行きたいなんて微塵も思わなかったが、音が聞こえるようになったのだ。

 

 一番楽しみなのは走るときの風を掻き分ける音。

 

 この前父さんと聞いた風の音とは別物らしい。

 

  「おはよう!桜夢!」

 

 クラスの男子だ。馬鹿にしたように私に挨拶をする。

 

 私はさわやかに、しかし嫌味をたっぷりこめて挨拶を返す。

 

  「おはよう。田名部さん」

 

 彼は目を丸くし、怯えるように教室に向かった。

 

 『意外だな。いじめてきてた奴だろうが。もっと嫌な事言ってやりゃーいーじゃねえか。』

 

 !!!

 「誰!」

 

 生きよい良く振り返るけど私の後ろには誰もおらずただ長々と廊下が続いているだけだ。

 

 そこで私は忘れていたあることを思い出す。

 

 「ドラゴン・・!?」

 

 『そうだよ!忘れるとかひでーよ!!願い叶えてやったの俺だろー??』

 

 「・・・。私あんたに聞きたいこと山ほどあるんだけど。」

 

 『ぎくっ!おっ俺はないんだが・・・。』

 

 「昼休み、屋上でたぁ~ぷり聞かせてもらうからねぇ~?」


 『・・・・・・。』

 

 『美智霞?誰と話してんの??』

 

 「あ!」

 私に文字の書かれた紙を見せてきたのはクラスで最近筆談するようになった

 佐井籐 愛海梨 。

 

 休み時間とかたまにはなしかけてくれてた子。

  

 「!美智霞!耳聞こえるの!?えっ嘘!」

  

 私は照れくさそうに笑う。 

  

 「昨日朝起きたらまあよく分かんないことになってて・・・。

  うん。まあそれで昨日は休んだの。」

  

 「そっか~・・・。そんな、奇跡みたいだよ~!!

  もうテレビとか出ちゃうんじゃない?

  『耳を手に入れた女』的な感じでさあ!」

 

 「もう!そんなわけないじゃない!」

 

 「ていうか、美智霞って声きれいなんだね!」

 

 「へ?」

 

 私はその時昨日父さんが行っていたことを思い出してしまった。

 

 「私ちょっと先行くね。」


 「え?あっうん」

 

 私は小走りで教室へ向かった。

 父さんの言葉が頭の中で何度も響く。

 『母さんの声も風の声みたいにきれいだったよ』

 

 教室では気持ちの沈んでいる私とは裏腹に

 皆が私の耳が聞こえるようになったことを知り、とても騒いでいた。

 

  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ