四 契約者Dragon
暗い・・・。気持ちの悪い夢。
何にもない。
どうせ夢ならもっと楽しい夢が見たかった。
いや、夢なんか見ずに何も考えずに眠りたかった。
は~。よりによってなんでこんな日にこんな夢みるのよ・・・。
「おい。」
うん?今何か聞こえたような・・・。
でも私声聞こえないし・・・。ってこれ夢だし関係ないか。
「おいってば!」
何よ、こいつ。うるさいな。
きいこえてるっつーの。
「はいはい、なあ・・・・。」
「に」と続けるはずがそこでとまってしまった。
息も声も出ないくらいに驚いたから。
声の呼ぶほうには、見ず知らずの生物がいたのだ。
それだけならともかく、そいつからは物凄い気迫が感じられた。
震え上がった。
「ぷふっ!初々しいなあ!まあ初めは皆そうだから、
おめーが珍しいわけでもねーけどな。」
驚き怯えて、しっかりと見ていなかったけど
よく見るとまったく見覚えがないわけでもない。
それは小説や絵でお目にかかったものだ。
「ドラゴン?」
私の小さすぎる声はやつには届かずに、心の中で反響した。
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・ってなんかしゃべれよ!」
「ふっ。なかなか生意気だな貴様。腰抜かして何もしゃべっていなかったのはお前だろに。」
なかなかムカつくドラゴンだ・・・。
「・・・で?」
「困ってんだ。ちょっと協力してくれねーか。 いそいでっから早めに決めてくれ。
別にただでやれとはいわねーよ。契約ってやつだ!」
なぜかドラゴンは自慢げに語る・・。なぞだ・・・。
なんにせよ怪しい・・。
怪しすぎる。
夢とはいえ面倒事にあうのは本当にゴメンだ。
「すみません。母に知らない人の話し聞いちゃいけないって・・・。」
母はいないけどここはやっぱり決まり文句。
相手が知ってるはずないし何いったって別にいーだろ♪
しかし奴は小ばかにした顔と同時に哀れむような顔で私を見る。
「そこは知らない人についてっちゃいけません!だろ。決まり文句は。
知らない人に道尋ねられてお前は逃げるのかよ!」
なかなか鋭い突っ込みありがとう!
って別に待ってたわけじゃないよ?この突っ込み。
「それにお前、母なんかとっくの昔に亡くなってるだろが。
お前が生まれたときにな。」
「!!」
知ってるはずない。はずないのに・・!!
「うそ?なんで!えっなんで??」
「なんでって。そんな驚くこたぁねえだろ。お前らとは別の生命体。
どんな能力持ってたっておかしくねーだろ。
それにお前の夢の中に入るには、必要な情報だしな」
低く太い声が暗闇に響き渡る。
ん?夢の中に入る??どういうこと??頭が破裂しそう・・・。
ていうか、自分で別の生命体って言っちゃてる。やっぱりそうなんだ。
って当たり前か。
「そうじゃなくて、契約のほうに話し戻して!
契約の内容聞かないと答えようがないよ。」
「ん?ああそうだな。すまん。」
「先に報酬が何か教えてくれる?」
図々しいやつかもしれないがこれは大事。
面倒なことに巻き込まれて報酬がしょぼかったら
最悪だもん。
それに所詮夢。現実になったとしても
面倒なこと、つまりは魔法とかそっち系の事になって
問題が起こったらもうあの忌々しい学校に行かなくてすむ。
「お前が一番望むもの、ひとつだけ叶えてやろう。さすがに何でもは無理だが
現実的にありえるものなら叶えてやれるぞ。」
私はひとつピンっときて答える。満面の笑みで。
「じゃあ殺して♪」「・・・・・・。」
無表情vs満面の笑み。そのまま暫くたった頃、
しゃべり始めたのは「別の生命体」だった。
「お前、無理すんなよ。俺にはお前が本当に叶えて欲しいことぐらいわかってるんだぞ。
かなえられるんだぞ?」
「・・・。」
「つらかっただろう。耳が聞こえねぇせえで大変だったんだな。
お前さえ望むのなら、俺はいつでも叶えてやる。頼みを聞いてくれたらだが。」
私は黙ったままうつむいた。
思い出したくない過去が涙とともにあふれ出す。
私は表情を変えてピシッと顔を上げた。
「なかなか口上手ね。いいわ。
報酬はそれ・・・私の耳が聞こえるようになることでいいわ。
でもまだ頼みごとを聞いてないから、契約するかどうかはまだ未決ということで。」
「おう!俺たちはな、とある事情でお前たちのいる世界にいるんだが、
行動するときに身を置く場所が必要になんだよ。
しかし、どうしてもこの世界に用事があってな~・・・。」
話が長いのは嫌いだ。私は腕を組み話をさえぎる。
「前置きはいいから!!単刀直入にいってくれる?」
「まったくせっかちだな~。仕方ねえ。つまりはだな。えっと、その~。
お前の背中に住まわしてほしいんだ。最初は副作用とか出たり、
すぐに報酬の結果が現れなかったりするが、お前なら大丈夫だろう。」
「・・・それだけ?」
あっけにとられた顔で聞き返す。
「たまに俺の用事に付き合ってもらうことになるが、おお。それだけだ。」
「いいわよ?」
「よっしゃ!契約成立だな。もう寝てもいいぜ。」
奴はスーッと暗闇の中に消えていった。
そういえばドラゴン一匹一匹にも名前ぐらいあるよな・・・。
あたし名前聞いてねーや!
ん?あ、そういえばこれ夢だったっけ。
夢だと気づいたが、いつになったらこの暗闇の中から抜け出しおきれるんだろう・・・。
そんなことを考え、しばらくして私は深い眠りについた。