壱拾八 大事なのは。
こ・・これは・・・。一体どうすればいいのだろう。というか、とりあえず・・・
「表でろーーー!」
「?」
「『?』じゃねえよ!ちょっと!我が家がミシミシ言ってるじゃんかよ!家壊れるから!
とりあえず外出てよ!!」
「美智霞~?どうかしたか?ゴキブリでもいたか?いきなり叫ぶなんて。」
料理していた父さんが、
私の叫び声に疑問を抱いたらしく(というか、誰でも叫び声聞こえたらそうだろうけど)、
二階に上がってきた。
「あっあわわっ・・・え・・ちょ・・・父さん何にも無いよ?」
「叫んでおいて何にも無いわけないだろ?」
「何にもな・・なな・・ないんだから!」
父さんの足音がどんどん近づいてくる。っていうか走ってる?
え?ちょっちょっと、何で走ってるのよ!
「入るぞ?」
「もうだめだあぁぁぁーーー!!!」
ドアがゆっくりと開かれる。ああ、もう終わった。もう・・・もう駄目だ・・・。
「美智霞?何がもう駄目なんだ?」
ドアを開いた父さんはまるで何も見えていないかのように入ってきた。
「ゴキちゃんどこいったんだあぁぁ?」
父さんはクウィルバーに近づくクウィルバーの目の前に立つ。
「・・・・あれ?」
「美智霞?ゴキブリいないじゃないか。父さんもう下行くぞ?火点けたまんまだから。」
「あ・・・ああ、うん。」
よっぽど急いでいたのか、父さんはドアも閉めずに降りていった。
そのドアを閉めて一息。
「はあぁぁ・・・・。」
「というわけです。」
「『というわけです』でもないから!はいはい。見えないんだね契約者以外には。」
「これはこれは、ご理解が早くて助かります。珍しい・・・。」
「・・・・。」
クウィルバーはさんざんにけなされている私を哀れんだような目で見ている。
今度ばかりはちゃんと目が見えてるから、ますます苦しい。
「あと、もう一つ聞きたかったんだけどさ。」
「姿現す必要って・・・・。」
「・・・・窮屈だったもので。それに大きいほうが楽しいので。」
「そうだ。そんな理由だ!」
クウィルバーもスキルクも今ばかりは意見が合致している。
いやいや、困るよ君たち。私の部屋<二匹のドラグルス=家崩壊。ボーン。
ボーンという音だけですめばいいんだけど。
っじゃなくて家壊されてる時点で困るよ。
「とりあえず、お願いだから外でて?ね?私のけな気な願いくらい聞いてくれてもいいでしょ?」
「しゃーねーな。」
というわけで、夜の学校の校庭。
広くなったため、ドラグルスたちは元のサイズにまで大きくなり、
結局密度はさっきと変わらない感じだ。
「本題に入ってもよろしいですか?・・・いえ、
あなたが許可できる立場でないことは私も重々承知していますので、この言い方はおかしいですね。
本題に入らせていただきます。」
「・・・。」
「貴方が喋らなくとも私はおおよその事は把握しているつもりです。」
「嘘つけ。」
「・・・教えていただけると有難いのですが。」
「やめてくれ。頼む。見逃してくれよ・・。」
「知りません。」
クウィルバーは長い首をゆっくりと下げていった。
「頼む。もうコイツにはつかねえからよ・・。」
「これは我が国の王が望むこと。見逃すことはわが国を捨てたも同じことです。
私にはそのような行為は出来ません。むしろこちらから頼みたいものです。
今なら、教えてくれれば見逃さないこともないかもしれません。」
それから、何分の沈黙が続いたか。どちらもずっと黙ったままだ。
いや、私には分からないが、沈黙しているのではなく、威嚇しているのかもしれないが。
そしてその沈黙を破ったのは容疑者だった。
「ちょっとでいいなら。」
「それだけでも十分です。」
「・・・・。仕方ねえ。お前に見逃してもらうか、ここから逃げるか。
どちらを選んでも殺されそうだ。お前から逃げようとすれば、まずお前に殺されるだろうしな。
あのお方の耳にさえ入らなければ、おれの生きる可能性はでてきそうだ。
多分お前の考えてる通りであってるぜ?俺たちゃ、雇われてんだよ。
さっき言った『あるお方』にな。
下級の奴らは金が全てだ。金がありゃあ、なんでもするさ。金がないせいで困ってんだからよ。
いい職にもつけやしねえ。だからこうやって金を集めてるんだ。」
吹っ切れたように話すクウィルバーの心境がいまいち分からず、少し首をかしげた。
でも、もうこれでなんだか丸くおさまる気がしてほっとした。
「私から一個質問しても良い?」
「なんだ。」
大きな鋭い角が生えた顔がが私に近づいてくる。迫力のあまり私はコテンとしりもちをついてしまった。
「はははっ。ずいぶんと生意気な口利いてたくせに、何だ、その様は。」
「いいからっ!質問するからね!」
「おう。」馬鹿にしてやがるコイツ・・・。
「何であたしに憑いたの!?」
苛立ちを抑えて必死になって聞くが、彼は少し優しそうに悲しそうに微笑んだ。
「さあな。お前に惹かれたのかもしんねえな。お前の魂に・・・。」
なんだか喜んでいいのかよく分からないが、
クウィルバーは結局何かもう一言言いたかったかのような顔をしていた。
そしてそのまま、何も言わずに白い炎となり小さく飛んでいった。
「・・・それでは、私は一度国へ戻ります。申し訳ございません。」
「は?なんで?」
「?先程あんな有力な情報を手にしたのですよ?報告せずにどうすると言うのです?」
「だ・・だって、・・・だってさっき聞いたでしょ?
クウィルバーが殺されちゃうかもしれないじゃん!」
私は大きくなったスキルクにしがみつき、怒りをぶつけた。
が、彼は私を小馬鹿にした様に言った。
「貴方様が何をおっしゃっているのか私には理解しかねます。
彼を見逃せば、貴方様の仲間である人類がまた被害に遭う事は目に見えている事ではありませんか。
それを見逃せというとは、貴方様は人が嫌いでいらっしゃるように見えます。」
小馬鹿にしているように見えた顔はよく見るといつになく真剣だった。
「き・・嫌いだけど。でもそんなことは思ってないし。」
「ならば、一番何方も苦しまずに済むのは、速やかに国王に報告し、策を練る事だと思いませんか?
それとも貴方様に他にもっと有力な策があるというのであれば、少し待たないこともありません。
ただ、その間に被害が出た場合は少し今後の行動に注意を払っていただきたく存じます。」
「・・・じゃ・・じゃあ、今週一週間時間くれるかな・・・。」
「もちろんですとも。貴方様が望むなら。
ただ、時間が長ければ長いほど、被害は拡大していくと思われますが。」
嫌味ったらしい口調は私の心の中の不安を容赦掻き出してくる。
クウィルバーが悪い奴でないことは私だけでなく、スキルクも承知の上だろう。
クウィルバーが何かのために必死にお金を稼いでいる事だって、聞かなくても分かる。
でも、クウィルバーにこれ以上罪を重ねて欲しくない気持ちもあるし、人が死ぬのも勘弁だ。
死んだ人の周りの人も悲しい気持ちになる。
クウィルバーといたのは、たったの一ヶ月程度だったけど、
クウィルバーを知れば知るほど、見捨てたくなくなる。
でも、だからこそ、罪を暴き、ちゃんと生きて欲しいとも思うし、殺されて欲しくもない。
「・・じゃ・・じゃ・・・じゃあ、5日間。お願い。」
「私はべつに構いません。」
「・・・とりあえず一旦家帰ろう。」
「分かりました。」
私がこんなに落ち込んでいても、クウィルバーが殺されるかもしれないと聞いても
どうしてコイツはこんなに平然としているのだろう。
所詮他人だからか?他人だったら何でもいいのか?
そんな疑問を抱きながら、大きな足音を立てて歩く奴の横をとぼとぼ歩きながら家に帰っていった。
そして家の前についてもう一つ結構重要な疑問を抱いた。
「どうやって入ろう。」
さっき部屋から抜けたときは、窓から出てきたけど・・・・。
・・・数分後。
私は一つの結論に至った。駄目元だが。
私は隣で我が家を眺めていた奴のほうへ首をくるっと回転させる。
「スキルク。頼んだ。」
「????」
「屋根まで飛んでくれ!」
「そのような事をしたら家が壊れるとおっしゃったのはどちらでしたか?」
そう来ると思ったぜ!
最終的に私は自力で家の壁を登っていった。
今考えると周囲から見れば、泥棒以外の何者でもなかった気がするが、今さらどうにもできない。
家の壁はなかなか掴みづらく、ロッククライミングには向いていなかった。
手はおかげさまでボロボロ・・・・。
ああ、何でこんな役に立たないドラグルスなんかと母さんは契約したんだ・・・。
「何かおっしゃいましたか?」
「うっ・・・うう・・な・・何も。」
無駄に頭がいいだけのドラグルスとなんで契約なんか・・・。