壱拾五 13の誕生日
なんだかクウィルバーが怪しい・・・気がする。
さっきも私が背中の炎についておかしいって言ったときも話しさえぎった上に
結局何も教えてくれなかった。
考えすぎだろうか・・・。
私はベッドの上にうつ伏せになり頭を抱える。
私が気にしすぎているだけかもしれない・・・。
「・・・なんだかなぁ・・・。」
布団の上をゴロゴロする。端に行ってはまた反対の端に。
「何だ、俺を疑ってんのか?」
「んぎゃ!」
思わず変な声が出てしまった。
「いきなり人の心読まないで!」
「お前の心の中はいつも読めているんだが・・・。
ていうか、誰でもわかるだろう。いいねぇ単純馬鹿って♪」
「おい、何言ってんだ。」
ちょっと怒り口調で聞き返すときょとんとした声で
「へ?単純馬鹿でしょ?それともただの馬鹿?
やめときなって。単純馬鹿のほうが可愛げあるしさぁ?」
プッツン。あー切れちゃった。
「馬鹿って何よ馬鹿って!!
そもそも私まだまだ聞きたい事いっぱいあるんだけど?
それをさえぎった上に何にも教えてくれないってどういう事??
何様なの?」
部屋には私の怒鳴り声が響く。
「馬鹿って言葉も分からなくなったのか?
あ?教えてやろうか?頭が悪いって事だよ!」
こいつ・・・。
「私が聞きたいのはそんな事じゃないし!
何であの炎小さくなってんのよ!」
あー頭くる。ドラゴンてもっと静かで高貴な者だと思ってた!
何この下品なドラゴン!
こんな奴と契約するんじゃなかった。
「・・・たまたま小さく見えただけじゃねえの?目悪いんじゃねぇ?」
・・・・・。
んな訳ねえ!確かに見たもん!
「良いからさっさと寝ろ。明日にでも話すさ。」
「はぁ?」
私は誤魔化そうとしているクウィルバーに食いつこうとしたけど
今日はもう疲れた。いったん寝よう。
「・・・分かった。」
ちょっとシュンとなってクウィルバーに返事する。
「よし。いい子だな。ちゃんと寝るんだぞ。」
優しげな声で彼は私を眠らせる。
なんだか温かい。
クウィルバーが何か隠していたとしてもきっと悪いことじゃなくて言いづらいだけなんだろう。
私はその時直感した。
こんな暖かい声の人・・・ではないけど、ドラグルスでもきっといい奴だと思う。
私はそんなことを考えながら徐々に眠りについていった。
「だめだ・・・そいつはお前を・・・・」
!誰?そいつって何?私に何が・・・。
「お~ぃ。起きろ~。」
「父さん?あれ?誰もいない。」
私は体を起こすがそこには人が一人もいない
「悪かったな俺で。」
私にしか聞こえない声。そういえばクウィルバーの心の声って聞こえないな・・・。
ドラグルスだからかな・・・・?
「ああ。クウィルバー。今日こそ教えてよ?」
「覚えてたか・・・。」
クウィルバーはボソッと小さく呟く。
「ごめんなさいね?覚えてて。」
「ギクッ!」
クウィルバーってば・・・。声に出てるよ。
「そういえば夢見たよ。」
その言葉にクウィルバーは食いつく。
「何!どんな夢だ!何か言っていたか?」
「う~ん。なんか『だめだ・・・・そいつはお前を・・・・』って感じだったはず。
声小さくて全然聞こえないんだけどねぇ・・・。」
クウィルバーは悩むように黙り込む。顔が見れないから判断の仕様が無いけれど。
「何か分かる?」
「ん・・・いや。とにかくお前は学校行って来い。」
まだ悩んでいるようだ。
「ふ~ん。まぁいいや。学校行ってくるよ。」
「美智霞?お前最近独り言多くないか?それとも誰かいるのか?」
ドアがキィと鳴る音と共に誰かが入ってくる。
ちょうど話が終わったところでよかった。
「父さん?おはよう!いや喉が嗄れてて声で無いんじゃないかと思って発声練習的な・・・」
「それより美智霞。明日何の日か覚えてるか?」
父さんは楽しげに、しかし悲しげに私を見る。
悲しさを必死にこらえてるというほうが正しいかも。
「・・・私の誕生日・・・。母さんの・・・」
そこから言葉が出なくなった。こんな悲しい誕生日なんていやだよ。母さん。
戻ってきてよ。
私はどうしてもそう思うことしかできなかった。
「母さんのこと、ちゃんと見てやりなよ・・・。」
「・・・うん。」
小さく頷き私は朝食をとるためにリビングに向かう。
リビングの隣の隣の部屋が仏間だ。
母の遺影が掛けられている。
私を置いて去っていった母の・・・。
どうせなら生きて、私を捨ててくれたほうが良かった。
そしたら、そしたら憎むことだってできたのに。
私のこの中途半端な気持ちはどうすればいいの?何処にぶつければいいの?
「・・・・。」
「・・・・。」
父さんと無言の食事を取り、私は家を出る。
「今日は早く帰っておいでよ。」
父さんは私の方を心配げに見つめる。
これだから心配性は。
「大丈夫だって。気にしないで。じゃあ行ってきます!」
いまだに心を読める?っぽいこの能力のことが把握できない。
クラス全員の声が聞こえるわけでもなさそうだし・・・。
私はどうすりゃ良いんだ?
それと、夢のことが気になってしかたない。
もし今日見たドラグルスとこの前「忘れるな」だとか何とか言っていた
ドラグルスが同一だとするならば、悪い奴でもないだろうし、
嘘を付いているわけでもないだろう。
今日の夢で言っていた「そいつ」ってやっぱりクウィルバーしかいないよな~。
クウィルバーってば今日の朝も結局誤魔化したまんまだし・・・。
今だって心読まれているだろうけど・・・。
でも夢の中の事にだけは干渉できないようだから、そこがチャンスかもしれない。
真実を知るための。
「ただいま。」
私はそっけなく声をかけて家に入る。
どうせ父さんもまだ帰ってきていないだろうし。
「お帰り。」
「父さん?」
突然背後からかかった声に思わず吃驚してしまった。
「今日は特別休みをもらったんだ。ほら。ケーキ作るぞ。三人分。」
「うん。」
私と父さんで大きなホールケーキを徹夜で作った。
食べきれないような大きさのホールケーキを。
そして午前零時。二人で食卓を囲む。
「誕生日おめでとう。美智霞。」
「うん。」
私たちは無言でホールケーキを食べ進める。
きっと三人だったらあっという間に無くなっただろうに。
「父さん。母さん連れてきていい?」
父さんは私の問いに少し顔を険しくしたが、暫くして『いいよ』と返事をくれた。
私は仏間に掛けてある母さんの遺影をそっとはずし、私の隣のいすの上に乗せた。
「母さん。母さんがいなくなってから、私が生まれてからもう13年も経つんだよ?
母さん。戻ってきて一緒にケーキ食べようよ。ねぇ。
父さんすごく料理上手なんだよ。
私母さんに聞きたいこといっぱいあるよ・・・・。」
私は母さんの温かな表情が写った遺影を見て次から次へと思いを吐き出してしまう。
だんだんエスカレートしてしまいそうになり、父さんに戻してきてくれるように頼んだ。
「ケーキ食べるぞ。」
「うん。」
すでに半分ほど食べられたケーキを二人でさらに食べ進めた。
結局少し残ってしまった。それを仏壇に供える。
母さんは食べてくれるよね?
私は心の中でそう呟き手を合わせる。
その日、私が学校から帰ると今度はお坊さんと親戚が私の家に来て
暗い顔で、家を後にした。
「あんなにいい子だったのにねぇ・・・。」
そんな声がひそかに聞こえる。
「あらあなた、樹唯那ちゃんの娘さん?おおきくなったねぇ?」「ますます母親に似てくるねぇ。」
音が重なって聞こえた。
ああ、またか。
「そうです。お久しぶりです。」
「元気にしてたかい?」
「はい。」
ほかのおばあさん方ともそんな感じの挨拶を軽く交わし
誰もいなくなった仏間で一人母さんの顔を眺めていた。
「母さん・・・。」
その時急に背中の骨が変形するような痛みに襲われた。
「いっいっいたっ!ぐげっぐふっげホげホっぐぼぁ。」
何も無かった畳の上に血がにじむ。
「!」
痛みはますます増し、とどまることを知らない。
「とっ父さん!たったす・・・。」
私はそこで意識を失った。
ああ、よかった。気絶できて。
父さんは心配するだろうけど、あの痛みに耐えるのは無理だ。
精神が崩壊してしまう。
というか、その前にすでに私の体は崩壊しただろう。
ここで死ぬのかなあ。なんかよく分からないまま死ぬのかなぁ?
それも良いかもしれない。何も考えずにすむ。
けど、だけどやっぱり。
嫌だ!そんなのいやっ!私がいなくなったら父さんはどうなるの?
凛禰と亜貴斗クンは?
私は何もせずに死ぬの?
死んでたまるか!誰よりも長く生きてやる!誰よりも!
絶対に私は死なない!