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壱拾参 絆の糸なんて無かった。最初から。

 「先生どうかしたんですか。」


「ん?ああ。ちょっとな。」


私は下駄箱の前に立っていた先生に挨拶をする。


「どっからどうみてもちょとの事には見えないんですけど。」


「そうだお前、神前見てないか?」


「!みっみてないですけど。」


私は思いっきりおろおろしてしまった。だって・・・。


「そうか・・・。それならいいんだ。まあ神前と仲言いわけでもないからな。

 じゃあな。」


「・・・。」


小学校の先生はきっと私と亜莉奈をこんな風に仲良くないなんていわないだろう。


しかし今は違う。全く逆だ。


仲が良いの逆・・・なんだと思う?


仲が悪いことだと本当に思う?


仲が悪いのも関わっていたことがあったからそうなった。


だから逆はきっと互いに無関心で、関わることがないことだと思う。私的に。


私と亜莉奈は逆なのだ。そう。私的に。


喋る事もなければ、関わることもなく、まるで今までもこれからもずっと他人のような・・・。


「全くどこ行ったんだあいつ。これから委員会あるっていうのに・・。」


「先生大丈夫?委員会あるなら私探してきましょうか??」


「!桜夢お前!・・・。いやいい。先生は大丈夫だ。」


ああ、しまった今のは私にしか聞こえないものだったのだろうか。


ん~~~~もう面倒くさい!


けどこれこそ、あの時のは勘違いだったが、もし世間に知れれば大変なことになる。


いや。そもそも誰も自分に分からないことなんて信じるはずがない。


所詮他人なんだから。


「それじゃあ先生さようなら。」


私はさっと挨拶をすると走って学校の植物が丁寧に手入れされた中庭へと向かった。


何かが私を待っている気がした。不安に駆られた気持ちで。


たくさんの綺麗な花が私を見上げる。私はそれに見向きもせずに走り続ける。


中庭に唯一ある階段を駆け上ると、そこには見覚えのある人影があった。


それは私の親友だったもの。


「あっ亜莉奈、やっぱり・・・。」


私は久しぶりに見た友の顔に思わず微笑みかけてしまう。


「っじゃなくて何か用があったんでしょ?」


私は先ほど自然に出た微笑とは別の裏表のある笑みを浮かべた。


「美智霞?耳聞こえるようになったの?」「怖い!なんで?」


「・・・。」


口の動きに合わない声がもう一つはっきりと耳の中に入ってくる。


「うん。そうなの。でも用はそんなことじゃないでしょ。」


「えっと、あの・・・・えっあっと。」


「なに?」


「その・・・。」


「何って聞いてるの!」


「だから私が中学校に入って喋らなくなったから怒ってるんじゃいかと思って・・・。」


彼女は深々と頭を下げる。十分の顔を隠すためだ。決して謝るためとかそんなものではない。


「うん。それで?」


「それでって・・・・。」

「小学校六年のとき、クラスに友達いなかったから、

一年の間だけと思って付き合ってたのに何で今さらこんな面倒なことに・・・。

耳が聞こえるようになるなんって異常でしょ!!」


彼女がちゃんと喋った言葉と比べて随分と長々しいことを思っているんだな。


「そうだね。異常だね。私の耳が聞こえるようになるなんてね。」


「!」


「そんなに驚かなくてもいいでしょ?

一年一緒にいただけでも、何考えてるかぐらい分かるよ。ね。」


「えぇっえっとへ?」


彼女は顔を上げたが私とはちゃんと顔を合わせずにおどおどしている。


「それより・・・何が言いたかったの?」


「だからごめんって言いたかったの・・。」「くそっ」


「何で今さら、そんなこと言うの?いつだっていおうと思えばいえたでしょ?」


「それは・・・。」


「別に私の耳が聞こえるようになったからって答えても良いんだよ?

 今さらどうだっていいし。」


「いまさらって・・・。」


「今さらでしょ?だって亜莉奈だってもう、私と友達になろうなんて思ってないでしょ・・・?」


彼女は追い詰められたように不安を顔に丸出しにした。


「だって・・・。」


「だって?」


しかしその後、きりっと表情を変えて私に叫んだ。


「だって、私、あんたの事なんか一度も親友だなんて、いや友達とさえ思ったことないのに

何でこんなことしなくちゃいけないの!!」


「!」


本音だ。直感的に察した。


それにもうあの気持ちの悪い、口の動きとずれた声は聞こえなくなったし。


「わたしただ、クラスに友達いなかったからあんたと居ただけなのに何なの?ねぇ!」


「・・・。」


唖然とした。開いた口がふさがらなかった。


「初めてできた友達」そう思っていたのは私だけだった。


優しくしてくれたのも、何もかも全て、トモダチガイナカッタカラ。


「ていうか何?一人ぼっちだったあんたに私散々優しくしてあげたのに、感謝の言葉の一つもないの?」


「えっ・・・・。」


形勢逆転された。今度は私が黙り込む側に・・・。


彼女がそんな風に思っていたなんて。私に知ることができるはずもなかったのだけれど。


それでも・・・。ショックだった。


私は思わずその場で立ちすくんだ。


彼女は楽しげに私を見下す。


・・・・・。


でももうここまで言われたらむしろ未練なんかない。


「ふぅー。うん。分かった。そっちがその気ならもうそれでいいのよ。

 私がもともと聞きたかったのもこのことだし。

 じゃあ、さよなら。

 もう二度と話しかけてこないで。約束。最後くらい守ってよ。」


「でもっ!」「生活に支障が出るじゃん。」


再び彼女の口の動きと合わない声が私の心を突き刺す。


「いい?これが最後だからね。もし次、あんたが私に何か話しかけてきたりしたら

 何か危害を加える可能性が高いから、気をつけてよ。

 委員会早く行ったほうがいいよ?先生探してた。」


「・・・。」


彼女は口をパクパクさせている。


無理なんだよ。私に話しかけないなんて。


だって聞こえるんだもん。声が。聞きたくなくても。


まあそれでも便利な機能だ。当然何かしら代償があるのだろうけれど、


こんな力、夢にも見たことない。


それより事情はクウィルバーにちゃっちゃときかなくては。


「あんたも準備しておいてよ。この声のこと。良い?」


私は背中に向かってぼそっと呟く。


背後には呆然と私を見ている亜莉奈が居る。


私は足早に中庭から出て行く。


道の横にきちんと咲いている小さな花々は


まるで私たちの別れを喜ぶかのように美しく咲いていた。


「くそっ」


私は苛立ちのあまり、その花の中でも一番真っ赤に、綺麗に咲いていた大きな花を


無理やり摘み取り、花びらをびりびりに破き続けた。

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