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美術室から・・・2

 俺も彼女も相変わらず、何の変化のない毎日を繰り返していた。

 俺は今でも彼女が嫌いだった。美術室に行くようになってから、何度か話をしたけど彼女はマイナス思考がひどかった。それから、相づちも打っていないのに聞きたくないような長い話をうんざりさせるほど聞かせる。おしゃべりな女は嫌いだ。そう思わせるほど、彼女との会話は一方的だった。

 俺が罰を受けていることに同情を隠せない友人たちは、会う度に笑いまじりに言葉をかける。

「いやになったっらいつでも言えよ。愚痴なら聞いてやるからさ」

 そういいながら俺のことを莫迦にするのだ。まぁ、いつものことだといえばそうだが、今は彼女の悪口というの俺の口から聞きたいだけともとれる。女子の顔にも期待の表情が伺える。虐めなんて受けてないと思うが、彼女はこのケバイ女どもに

一番酷いことをいわれている。それを聞いていても、特に何も思わないけど、同じように言う気にはなれなかった。

「そうなったら、頼むよ」

 そういうと、よけいに笑われた。


 美術部に入部してから一か月。もうすぐ文化祭が始まる。その時期になってようやく担任であり顧問である先生がやってきた。ちょうど俺は彼女に油絵の書き方を教わりながら、長い長い話を聞いてうんざりしてるところだった。

「お前、よく一か月も休まずきたな。それに免じて、文化祭の展示物ができしだい部活動の強制を取り下げてやる。そうだな、相沢と三村は仲いいみたいだし似顔絵でも描いてもらうか」

 その発言に思わず目を丸くしたのは俺だけではなかった。彼女の顔は蒼白ともとれるほど、驚いた顔をしている。俺はその反応にも驚いた。今まであんなに喋りまくっていたくせに、今更その顔はないだろうという気持ちになった。俺としては、学校の中じゃ一番彼女の似顔絵が描きやすいと思った。スッピンで同じ服で学校に来る彼女はいい被写体だ。

「わかりました。文化祭までに描きあげればいいんですか?」

 嫌々というように舌打ちをしながら、彼女が顧問に言うと顧問はにっこり笑って「もちろん」と返事をした。

 そうして俺と彼女は正面を向き合わなければならなくなってしまった。俺も嫌だったし、彼女も相当嫌そうだった。

 だがここでも指示をださければならないのは、彼女だったので彼女は疲れ果てたかのように重いため息を吐き出すと椅子に座って紙と鉛筆を取り出した。画用紙には画板をつけて、俺に手渡す。そのときの笑顔も疲れた、と書いてありそうな笑顔だった。

「まず特徴を描くの。簡単でいいから、顔の輪郭と鼻や口や目の位置をしかりと描くのよ。今日はそこまでやっちゃお。色を付けるのは明日からってことで」

 俺は流されるように頷いた。

 彼女は早速俺の顔の前に鉛筆を差し出して中心線を決めはじめた。俺の目を見ているようで、見ていないような視線を受け止めながら彼女の顔を真正面から見つめた。

 やっぱり綺麗な顔立ちをしている。それから、白い肌によく映える色付いた頬。伏せると見える長いまつげ。瞳の色は茶色。人形のようだ。薄汚れた真っ白のブラウスに、何年か前にはやった、スカート。頭は長い髪をはやしっぱなしにしてあまり清潔そうには見えないが、女共が彼女の悪口を言う理由が分かる。

 綺麗なのに、自分を飾ろうとしないところにムカつく原因があるのではないか。

 じっと見つめていると視線に気付いた彼女が眉根を寄せて俺を見た。

「ちょっと、手を動かしなさいよ」

 いつも口ばかり動かしてる彼女に、俺は何もいわずに彼女の顔を描きはじめた。


 噂は、噂でしかない。真実は噂では知ることはできないが、俺は興味を引かれた。

「三村女史って、あんな格好ばっかしてるけどすっごい金持ちらしいぞ」

 仲間のうちの一人がそういった。俺を含めるほとんどが、相手にしないように笑っていると慌ててそいつは言葉を付け足した。

「本当だって! 家はめちゃ遠いらしいんだけど、家の最寄りの駅まではリムジンで送り迎えされてるんだと」

「嘘付くなよ。だったらなんであいつ、いっつも貧乏臭い格好ばっかなんだよ」

「それは、家庭の事情ってやつだよ。あいつの家今結構大変らしい。父親が家出ていってから、母親が金使い放題で男家に連れ込んでるらしいんだよ。父親が出ていってからはあいつ結構ひどい扱い受けてるんだと。だからあの格好も母親がしむけてるんだって」

「じゃぁなんで送り迎えされるんだ?」

「使用人が同情でもしてるんじゃないのか? ま、ただの噂だろ」

「マジな話だって!」

「誰から聞いたんだよ。どうせお前もどっかの噂を信じただけなんだろ」

 そういうとみんなで笑った。うわさ話をしていた奴は真っ赤な顔をしながら、しぶしぶといった感じで笑いはじめた。噂は噂だ。真実はそこにはない。

 けど引っかかった。彼女のことを何も知らない俺は少しだけ、この噂を信じてしまいそうになっていたのだ。なぜなら、彼女の言葉を思い出せばすぐ理由になる。いつもマイナス思考で、うつむいたままの顔に、同じ服を着る彼女。

 それがどうしてなのか考えたことがなかった自分に驚いた。


 

後二つぐらい話を書いたら、「美術室から・・・」は終わる予定です。

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