瀬戸と山崎と俺1
瀬戸は美人で、スタイルのいい女だ。彼女は男女関係なく友人の幅が広かったし、人が良くて後輩や先生からも頼りにされていた。でも、彼氏は最悪なやつだ。つまり俺だ。
どう最悪かっていうと、俺が今つきあってるのは瀬戸を合わせて二人だ。瀬戸より前につきあっている彼女は、瀬戸の存在を知らないが、瀬戸は俺が他の女とつきあってるのを知っているのにもかかわらず俺とつきあっている。こんな最低な男を選んだやつもおかしいけど、彼女の気持ちを知りながらダラダラと関係を続ける俺もどうかしている。
俺は平凡で、金持ちでもないし、特別人と違ったところはない。ありがたい環境で育ち、家族そろって似たり寄ったりな顔をした、どこにでもいるような男。そんな俺が初めて女の子と付き合い、今もずっと続いているのは中学の時に告白してきた、山崎加奈だった。はじめは好きではなかったが、つき合っているうちに山崎の可愛いところや、守ってあげたくなるところを見つけてしまい、離れられなくなってしまった。そして、高校に入って瀬戸に会うまでは俺は生涯、山崎しか好きにならないだろう、と思っていた。
山崎とは高校は別だが、学校は駅一個分しか離れていないし寂しいという思いはしなかった。ただ、毎日会えたら嬉しいし、できるだけ長く一緒にいたいと思いながら生活していた。そんな高校一年の夏だった。試験の結果が悪く、夏の補習に来ることになった俺が瀬戸に告白されたのは。
はじめはやっぱり山崎とつきあってる事を理由に断り続けていたが、彼女は一途で、俺に対してだけその気持ちをぶつけてくるその姿に、しだいに惹かれていった。瀬戸とつき合うと決めたとき、俺は本当にバカだと思ったが、山崎も瀬戸も二人ともを愛せる気がしていた。確かに、今は二人のことを好きでいる。だがいつかこの気持ちも、変わってしまう気がして怖かった。
山崎とつきあって三年と二か月。瀬戸と付き合いはじめて一年と五か月。
学校では瀬戸と過ごし、学校が終われば山崎に会いにいく。そうした日々が続いていたある夜に、俺の部屋で制服を着ながら彼女は俺の顔も見ずに言った。
「やっぱり、つき合うのは無理だね。あたし、もっと優しい人とつきあうよ。だから別れよっか」
衝撃的だった。彼女は俺に対してこうしてほしいなどのわがままをあまり言わなかった。彼女であるという自信がなかったのかもしれないが、俺はそれが物足りなかった。それでも瀬戸が好きな気持ちだけは注いでいたつもりだった。
でもこんな最低な男とは別れた方がいいと思う。きっと瀬戸なら俺なんか比べ物にならないようないい男ができるはずだ。俺はベットから出てズボンをはくと彼女の頭に手をおいて優しくなでた。
「わかった。きっといいやつ見つかるよ」
ほんとうは抱きしめて離したくなかったけど、俺の勝手は言えない。彼女は俺からするりと抜け出して、今まで埋まっていた瀬戸との思い出は穴になったまま、塞がる予定はなかった。
俺は彼女がかえっていくのを見送ると、急に寂しくなって山崎に電話するような最低な男だ。そして結局俺を癒すのは、山崎だけだと感じていた。