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願いをかけて6

 母親の再婚相手に会うことは、母親に会うことだけでも辛い彼にとってそれは、ふっ切るための道だったのかもしれない。父親とは別の人間が隣に並んで、幸せそうにする母親を見ることができたら、本当の幸せに彼が気付けるだろう。あたしは、そんな気がしていた。

 あたしが彼の母親の再婚相手と会うわけにはいかないので、亜紀ちゃんに頼んで一緒にお土産を買いに出かけた。亜紀ちゃんは何度も顔合わせをしているし、これから何度でも会うわけだから、たまにしか会えないあたしの方を選んでくれた。

「ねぇ、お土産買い終わって時間が余ったらさ、服買いにいくのついてきてよ。お母さんにお小遣いもらってるんだ」

 うれしそうに笑う顔が、本当に女の子らしくなったという感じがした。

「いいねぇ。そうしよっか」

 歯を出して笑うと冷たい風が当たって少し冷たかった。季節はもうすぐ秋だ。あたしもそろそろ秋服の買い時だな、っと思いながら亜紀ちゃんと並んで乾いた歩道を歩きはじめた。

 

 亜紀ちゃんたちの家に着いた頃には昼が過ぎてしまい、バスの時間まで後、二、三時間というところだ。玄関を開けると既に荷物をまとめた彼があたしを待っていた。おばさんも隣に立って、二人で何か話していたようだった。

「遅いよ。今から出ないと間に合わないって」

「そうだっけ?」

 あたしがいうと彼はあたしの荷物を差し出した。

「母さんが乗せていってくれるから、出ようぜ」

 彼の目が輝いてる。日の光じゃなくて、彼の心を映してる。あたしはうれしくなって彼の手から自分の鞄を奪うように受け取った。そうか、ふっきれたんだ。だからここに立って、あたしを待っていてくれたんだろうね。

 車に乗り込むとおばさんの顔がミラー越しに見えた。来たときとは違い、明るい笑顔で助手席に座る亜紀ちゃんを話をしていた。あたしと彼も時々話に混じりながら、別れのときが近付いていくのを感じはじめていた。

 あたしも彼もこれからどうなるか分からないけど、彼はまた母親の元にかえってくる日があるのだろうか。もし、彼が一緒に暮らす道を選んだとすれば、あたしとの繋がりは幼なじみで終わってしまう気がする。でももし選ばないでくれたなら、父親とやり直してくれたなら、あたし達はこれから何かが起こるかもしれない。そう信じたい。

 駅に着くとあたしと彼は急いで切符を買いにいき、あと五分で着く電車のホームに行く前に亜紀ちゃんとおばさんに挨拶をしにいった。

 あたしは亜紀ちゃんと手を取り合って、また会いにいくね。なんてことを言った。彼はおばさんと手を取り合って、笑顔になると「幸せになってよ」と真顔でいっていた。おばさんは少しだけ複雑な表情を作ったけど、笑顔になってあたしたちを見送った。

 二人になって、お互い顔を見合わせて笑いあってすぐに、亜紀ちゃんとおばさんに手を振って別れた。

 ホームに入るとすぐに放送が入り電車が到着する。乗り込んで席を見つけると、ゆっくり腰を下ろした。人はやっぱり少ない。でも便利な町に住んでいる感じがした。

 彼とは四人がけの席に向かい合わせに座り、お互い顔を見るとニヤけるように笑ってしまう。

「なんかさ、来て良かったって思った。それから、こうして帰れて良かった」

 窓の外を眺めて、安心しきった顔をしている。

「春菜のおかげだよ。俺一人だったら、このままどこか違う場所に行ってたかもしれない。春菜と一緒にかえろうと思うから、こうしていられるんだよ」

 そんなことを窓の外眺めながら、笑いもせずにいうからあたしは照れてうつむいたまま何もいえなかった。

 しばらくしてから、思いきって口を開いたが少しうわずってしまった。

「さ、再婚相手の人・・・どうだった?」

 彼はあたしの目を見た。

「いい人って感じ。話してる間中ずっと笑顔なんだよね。そんな人めったに見ないからさ、きっと幸せになれるんだろうな。って思って、母さんと亜紀をよろしくって念を押しといたよ。そしたらやっぱり笑顔で力強くうなずいてた」

 そっか、よかったね。そういうと彼は笑顔になって窓を眺めた。本当にそう思ってる。でも少しだけ切ないね。そういう人は正直、おじさんとは全く正反対。おじさんも笑顔になるけど、しかめっ面な印象があるもの。それが厳格な父親って感じで、あたしは好きだけど、複雑だね。

 でも彼はその人を選ばなかった。その人よりも厳格な人を選ぶんだね。きっとそう。だって彼はその人の血を受け継いで生まれてるんだから。


 バスに乗り込むと泥のように深い眠りに落ちて、彼に起こされて終着駅に着くと見なれた顔が二つあった。両方とも、怒った顔でこっちを見ていた。

 バスから降りると、まずあたしが父親に殴られた。それから彼が思いっきり殴られた音が聞こえた。そしてあたしは涙があふれた。痛かっただけじゃなく、彼とこの場所に立っていることが、嘘のように思えたからだ。

 帰りの車の中は静かだった。誰一人言葉を発しようとしなかったけど、あたしと彼は後部座席でこっそり手を繋ぎあっていた。心は熱くなって、気持ちは前進していた。でも言葉はなかった。ただ、そうしているだけで繋がっていることを知っていたから。


 彼とおじさんは、あれから喧嘩もなく、仲直りしたらしい。あたしは彼とはあれから会っていないので、そのことはよく知らなかったが、父さんが言っているから本当のことだろう。彼は決めたんだ。父親と家族としてやり直すことを。

 彼とあたしは結局、「幼なじみ」と言う言葉の壁から這い上がれたんだろうか。よく分からない。あたしたちは受験生ですぐに試験を控えていたから、会うこともできずに、話をする時間さえ設けなかった。それでいいと思っていたんだけど、早く彼とゆっくり過ごせる時間をつくりたいとおもった。

 今まで何度も願っていたことだけど、またあたしは星に願いをかけた。贅沢な望みだけど。

 

終わりました。次の話を書いていこうと思います。

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