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自分は転生者だと言い張る妹に、もうお手上げです。

作者: 有梨束
掲載日:2026/05/09

「姉さんは、どうして私をいじめてなかったの!?せっかくヒロインになれたのに、めちゃくちゃじゃないっ!」

王立学園に入学する妹を寮に案内しようと、正門まで迎えにきたのだが…。


えっと、妹の頭がおかしくなったようです。



「あのね、ジゼル。あなたの言っていることがさっぱりわからないのよ」

とりあえず、様子のおかしい妹を案内する前に、2学年の私の部屋に引っ張ってきた。

相部屋だが、ルームメイトはまだ帰省中なので問題ないだろう。


「だーかーらー!私、転生者だったの!ここに向かう途中の馬車で思い出したの!」

今までより砕けた口調に聞こえるジゼルは、外見は私の知っているジゼルのはずなのに、やっぱり変だ。


「テンセイシャって何?あなたはジゼルでしょう?」

とにかく宥めようと思って、入学祝いに用意していたジゼルの好きなお菓子を出したが、「うげえ」と言って受け取らなかった。


あからさまに表情を作るなんて、とてもショッキングな出来事に見えた。


動揺して、何も言えない。

こんな妹、小さい頃でも見たことがない。

貴族令嬢として必要なすべてを捨て去ってしまったみたいな、そんなふうに見えた。

寒気を感じたのは、この部屋が冷えているからじゃない。


「それ、ジゼルは好きだけど私には甘ったるいからいらない」

「……何を言っているの?」

「前世を思い出しちゃったから、ジゼルだけどジゼルじゃないわけよ。わかる?」


わかるわけがない。

見た目は私の可愛い妹ジゼルなのに、中身がまるで入れ替わってしまったかのような。

不気味だ、気持ちが悪いほどに何かが違うということだけがわかる。


「もう、乙女ゲームだったらよかったのに、小説のヒロインなんてつまらなくない?」

「……何の話?」

妹相手にしても、私も貴族令嬢の表情が作れていない気がする。

直せないほど、顔が引き攣ってしまう。


「私、小説の主人公なんだ。なんて言ったらいいかな、あー、この世界のお姫様なのよ」


この国の王女殿下は1人だけで、まだ6歳だ。

ジゼルなんかじゃない。

第一、自分を姫だと言うなんて異常だ。

…本当にどうしてしまったの?


「それでね、意地悪な姉にいじめられていて、姉の婚約者が助けてくれて、そのヒーローと結ばれてハッピーエンドっていうまあ王道ストーリーなのよ」

「…いじめ?」

「そーう!もうなんで、姉さん私のこといじめてないわけ?それどころか可愛がっちゃってさあ。意味わかんない。全然シナリオ通りじゃないの、困るじゃん!」


何が困ると言うのだろうか。

いじめなんてない方がいいし。

妹のことを可愛がって何が悪いかもわからない。

今、困っているのは私の方だわ。


「ゲームなら攻略者選び放題だったのに〜!誰に選ばれるかドキドキしたかったなあ、逆ハーレムエンドとかさ〜!どうせなら、大勢の男にチヤホヤされるヒロインがよかったあ」

知らない単語ばっかりだったが、最後の言葉にはゾッとした。


『大勢の男にチヤホヤされる』って何事…?

たくさんの殿方を侍らせたいという意味で言っているのよね?

娼婦にでもなるつもりなの?


「まっ、そういうわけで!私は私で好きにするから、姉さんはいじめる気がないならこれ以上邪魔しないでね!」

それだけ言い残して、ジゼルはぴゅーっと走っていってしまった。

貴族令嬢としてあるまじき走りっぷりだったが、止めるのも忘れて、ベッドに座り直して項垂れてしまう。


……どういうことなんでしょう?

ジゼルはジゼルだけど、ジゼルじゃないらしい。

それは、今ので何となく把握した気がする。

あんなの、私の可愛いジゼルじゃない。


「…ジゼルが入学してくるの、楽しみだったのに」

私の呟きは、ポロリと涙一粒とともに虚しく落ちた。


いいえ、泣いている場合ではないわ。

とりあえず、お父様に手紙を書かないと。

お医者様に診せた方がいいかもしれないし、指示を仰がなくては。

馬車の中で思い出したと言っていたから、きっとお父様たちは何もご存知ないはずだわ。


あと、お兄様にも一応手紙を出しておきましょう。

お兄様のお手を煩わすのは本意ではないが、王都にいるお兄様の方が近いし、何かあってからでは遅い。


それから…、あの子、他にはなんて言っていたかしら。

『姉の婚約者が助けてくれて』…、それってエイダン様のことよね?


エイダン様の顔を思い出した途端、胸騒ぎがした。

ザワザワと不快感が身体中を支配するようだった。

さっき、ジゼルに対して思った恐怖に似たものを感じた。


今すぐ会いに行った方がいい。

どうしてだかそう思って、私は部屋を飛び出していた。


男子寮の受付で、エイダン様を呼んでもらった。

待っている間、じっとしているのが苦痛だった。

こんな不安になったことは、今までないかもしれない。


「ラティーシャ、どうかしたの?」

駆けつけたエイダン様は、これまでと変わりないように見えてそれだけで安心してくる。

思わず泣きそうになったのをグッと我慢した。


「ごめんなさい、お休みのところお呼び立てして」

「そんなのは構わないけど、顔色が悪いよ。大丈夫?」

「…ええ、大丈夫です。それより、ご相談というか報告したいことがありまして」

「ラティーシャの相談ならいつでも聞くけど、急用みたいだね。どこか場所を移す?」

「はい、…できれば誰にも聞かれたくないです」

私が頼りなさげに俯いたからか、エイダン様はそっと背中をさすってくれた。

その手の温度がホッとして、余計に泣きそうになった。


「じゃあ、中庭に行こう。あそこなら、人もいないはず」



「それで、何かあったの?」

ベンチに並んで座るなり、エイダン様は私の手をゆっくり握った。

婚約した時から、気遣う時は彼はいつもそうしてくれていた。


「あの、妹が、ジゼルが先ほどやってきたのですが」

「うん、今日は妹君を出迎えるからと言っていたものね」

「ええ、そうなのですが…」

「ずっと楽しみにしていたのに浮かない顔をしているなんて、ラティーシャじゃないみたいだ」


私じゃないみたい。

その言葉がやけに刺さって、顔を歪めてしまう。

あの子は、『ジゼル』じゃなかった。

それをどうやって伝えていいのかわからない。


続きを喋らないからか、エイダン様は握った手に頬擦りした。

自然とエイダン様の顔に目がいく。

いつもみたいに優しく笑っていた。


「大丈夫。何でも聞くから、ラティーシャの話したいことだけ話して?」

そう言われて、私はかいつまんで話すのは難しいと思い、あったことを全部話した。



「………それは、意味がわからないな」

エイダン様は眉間を揉んで、何とも言えない顔をした。


「申し訳ありません、こんな荒唐無稽な話…。でも、本当なんです…!」

「ラティーシャが嘘をつくとは思っていないよ。でも、どうしたものかね」

「私にも、何が何だか…」

「とりあえず、話してくれてよかった」

エイダン様は変わらずに、柔らかく微笑んでいた。


「妹君の言うことが本当なら、僕が君を見限って、妹君に乗り替えるってことだろう?そんな悍ましいこと、知らせてもらっておいてよかったよ」

「どうしましょう…。あの子、好きにするって言っていたけれど」

「ひとまず様子見かな。僕も気にするようにしておくね。学年が違うから、会うことも少ないと思うけど」

「お手を煩わせて、申し訳ないです…」

「ラティーシャの困り事なら、僕の困り事だよ?」

エイダン様は繋いだ手をさらにぎゅっと握ってくれた。

私も応えるように握り返した。


1人では抱えきれないものを持ってもらった。

早く部屋に戻って、手紙を書きましょう。

この手がある限り、心強い。

そう気持ちを立て直して、私は私のやるべきことを済ませたのだった。




だが、そんなもの無駄だったのか、ジゼルはすぐにやらかしてくれた。


いくら学園内では身分が関係ないからといって、無礼を働いていいわけでない。

それなのに、公爵家のご令嬢に唐突に説教したのだという。


『身分を笠に着て、取り巻きを従わせて、恥ずかしくないの?』

『なんでそんなに偉そうなの?そうしてなきゃ、プライドが保てないの?』

『というか、身分とかくだらないものに縋って気持ち悪いよねみんな』

などと言って、近くで聞いていた先生が気を失ったとか。


すぐに謝らせに行こうと思ったが、全く捕まらずに代わりに謝りに行った。


「妹が申し訳ありませんでした」

「あなたがしでかしたことではないのですから、頭を上げてください」

「ですが…」

「それに、先輩に頭を下げさせるのは、私も注目されてしまいますから」

そう言って、気にしないでくださいと微笑んでいた。

さすがは公爵令嬢といった余裕と風格だったが、このご令嬢でなければ家の方に抗議文が送られても文句が言えないレベルだ。


急いで用意した菓子折りは受け取ってもらえて、むしろ喜んでくれた。


「私、このお菓子がとても好きなのです。ふふふ、得してしまいましたわ」

可憐に笑った令嬢が受け取ってくれたのは、ジゼルがいらないといったあのお菓子と同じだった。

それが、無性に悲しかった。


「お姉様はしっかりされているのに、妹さんは似なかったのですね」

その言葉に返す言葉がわからなくて、もう一度謝るだけにしておいた。


いいえ、ジゼルは身分をわきまえた普通の令嬢だったんです。

そんなこと言えるわけもなかった。



ジゼルの行動は、それだけでは済まなかった。


学年も違うというのに、4学年の教室に突撃して、エイダン様に親しげに近寄ったそうだ。

いきなり腕を絡まれて、数秒止まってしまったとエイダン様が言った時は、本当にどうしようかと思った。

すぐに退けたのに、ジゼルは構わず抱きついてくるらしい。

毎日エイダン様を追いかけては、追い返されているが、それも効いてはいないみたいだ。


「ごめんね、逃げてはいるんだけど、なぜかいつも見つかってしまって」

「もうなんてお詫びしていいのか…」

「ああ、そんな悲しい顔しないでラティーシャ。事前に聞いていたから、僕はわかっているし。…まあ、あんなに行動がぶっ飛んでいるとは予想外だったね」

エイダン様は微笑んではくれているけれど、迷惑をかけていることにはかわりない。

私は、制服のジャケットの裾を強く握り締めた。


逐一、お父様とお兄様に手紙を書いているけれど、まだ返事はない。

遠い領地から返事が来る前に、ジゼルの奇妙な言動が増えていく。

私だけでは、もういっぱいいっぱいだ。


「妹君は、その小説とやらと再現したいのかねえ…」

「そんなこと、可能なんでしょうか…?」

「不可能だね」

キッパリと言うので、思わずその顔を見上げた。


「僕がラティーシャ以外に心を寄せることが、まずないもの」

エイダン様は私の髪をサラッと撫でると、毛先にキスを落とした。

エイダン様が、エスコート以外でキスをするのははじめてだった。

毛先に唇が触れたまま、強く熱のある瞳で見つめられた。


「心変わりしたと思われたら困るから言うけど、僕が好きなのはラティーシャだ。それを忘れないでね」

そう言われたら、頷くしかなくて、何度も首を縦に振った。

きっと、顔は赤かったに違いない。

その様子に満足したのか、嬉しそうに私の手を握った。


「しばらく授業以外は男子寮に籠もることにするから、ラティーシャも無理はしないで」


ジゼルが変わったことで、私とエイダン様の距離も変化したように思う。

前よりもずっと近くて、ずっと恋人のようだった。




エイダン様がジゼルに近づかれるたびに男子寮に逃げるようになってからというもの、ジゼルは少し大人しくなった。

だけれど、私はとことん避けられて、無視されている。

見かけるたびに説教はするが、全く効果がない。

そのうち、『姉は言うべきことを言っているのに、何も聞かない妹』というふうに学園中で言われるようになった。


姉はまともなのに、妹は頭がおかしい。

それが他の生徒から見えている評価のようで、意外にも私へのダメージは少なかった。

クラスメイトは心配してくれるようになり、私の周りには前より親切な人が増えた。

妹が無礼を働いた公爵令嬢は、なぜか私を慕ってくれるようにもなって、後輩の知り合いがぐんと増えた。


ジゼルは、より孤立しているようだった。


そうして、お父様からの返事が届いた頃、ジゼルは取り返しのつかないことをやらかした。


「は…」

「あなたの妹は、空き教室で男子生徒と関係を持っていました」

呼び出された教師に気まずそうにそっと報告されて、言葉が届いているはずなのに、耳から全部抜け落ちていった。


「親御さんにももちろんご連絡しますが、あなたの耳にも入れておいた方がいいと思いまして…」

気遣うような優しい声に、切れそうなほどに唇を噛んだ。


さっき読んだばかりの父の手紙が脳内を駆け回る。


『そんな話は信じられないが、私からも教師に聞いてみるよ。ジゼルはそんな子だとは思えないんだが。連絡ありがとう』


「とりあえず、両生徒は謹慎ということで、別室に居させています」

「それは、会えますか…?」

「本来ならダメですが、最後になるかもしれませんし、少しだけなら構いませんよ」

最初からそのつもりで、私に教えてくださったのかもしれない。

ジゼルがいるという部屋に案内してもらった。


「ジゼル…」

「ねえ、姉さんからも言ってよ!なんで、私がこんなところにいなきゃいけないの!」

「あなた、何をしたのかわかっているの…?」

「何よ、ちょっとエッチしただけじゃない。頭が固いんだから」

「あなたは貴族子女なのよ…?」

「私がいたところでは別に普通だもん。あーあ、面倒くさいなあ」

「ここは、作り話の世界じゃないの!いい加減にして!」

私が大声を出した時、部屋のドアが開いた。


「レディーが大きい声を出すな、はしたない」

「お兄様…、なんでこちらに」

「父上から手紙が届いて様子を見にきたら、もう過ちを犯したあとだったらしい」

久しぶりに見るお兄様は、文官の制服を着たままで、忙しい中無理してきてくれたのが一目でわかった。


「ラティーシャ、すまなかった。お前にだけ任せてしまった」

普段の兄は、易々と謝罪をするような人ではない。

それだけでも、どれほど重いことか痛いほどわかる。


兄の表情からわからなかったが、静かな怒りを見た気がした。


「…力不足で、すみません」

「何よ、私、悪くないからね!大体、処女喪失くらいで大袈裟な」

ジゼルが口を尖らせるや、お兄様はその頬を叩いた。

そんなことをするところは見たことがなくて、びっくりして、何も言えなかった。


「痛いじゃない…!何?いじめる役って兄さんだったわけ?」

「お前は領地に送る。これ以上、手間をかけさせるな」

それは兄ではなく、次期当主の顔で、ひどく重たい宣言だった。


呆然とするジゼルの顔が、奇妙なほど可愛くなかった。




お兄様は仕事があるとすぐに帰ったが、最後にまた謝ってくれた。

珍しく、私の頭まで撫でていった。

兄と別れて、私はフラフラと男子寮に向かった。

すぐに、エイダン様が出てきてくれた。


「ラティーシャ、何があったんだい!?」

エイダン様は駆け寄ってきて、心配そうに顔を覗き込んだ。


「あの子はおかしくなってしまったんです…!」

「ラティーシャ…」

「あんなの、あんなのジゼルじゃない、私の妹なんかじゃないです…!」

そう言って泣いてしまった私を、エイダン様は何も言わずに抱き締めてくれた。

その温もりだけが、本物みたいだった。


ジゼルは自主退学という扱いで、兄の指示のもとすぐに領地に送られた。

私だけではできないことだったから、お兄様が手続きをしてくれて助かった。

クラスメイトは、やっぱり心配してくれて、励ましてくれた。

後輩の公爵令嬢は、あのお菓子が食べられるカフェに誘ってくれた。


しばらくして、お父様から手紙が届いた。

ジゼルは暴れて、何度も家から脱走しようとしたらしい。

お母様が直々に教育し直しても、歯向かうだけだったと。

そして、ついに使用人の子どもを孕んだらしい。

ジゼルは子どもが生まれたのちに除籍して、修道院に送ることをお父様が決定したと書いてあった。

子どもをどうするのかまでは書いていなかった。


「私は幸せになるべきなのに!こんなのおかしい!」と叫んでいたという。

我が家に妹はいなかったと思いなさい、と締め括られていた。



力を込めてぐしゃぐしゃになってしまった手紙が、涙で滲んでいく。


「ジゼルを、私の可愛い妹を、返して…」


私の独り言は、また虚しく落ちるだけだった。






お読みいただきましてありがとうございました!!  毎日投稿129日目。

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― 新着の感想 ―
これは所謂「憑依」系のお話でしょうか?元の人格の欠片もなさそうで、本来のジゼルが哀れすぎです…… ところで。 この作品だけではありませんが、なろう系の小説で「とんでもない問題を抱えた娘が毎回修道院送…
ヤバイね( ̄▽ ̄;)お花畑っていうよりただのビッチですよ( ̄▽ ̄;)こんな残念なのが中に入っちゃってお姉ちゃんが不憫過ぎる(´;ω;`)
元のジゼルちゃんに救いを……!
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