猫舌威さまのオーボエファイター木村
青空の下の音楽堂。
僕の独奏の最後の音が皆に届き、わっ、と拍手に包まれる。
「すばらしい演奏でしたね!皆さま、『オーボエの王子様』木村ソウタさんに、大きな拍手を!」
進行の女性が来場者にマイクを向けると、最前列の小さな子供たちも一生懸命、手を叩いてくれる。可愛いなぁ。
恥ずかしがり屋の僕だけど、野外アマチュアコンサートに思い切って応募してよかった。
(あ、彼も見てくれてるかな?)
去り際にきょろきょろ、ステージから客席を見渡すと、一番うしろで遊具にもたれ、腕組みしている赤いマフラーの彼。
僕と目が合うと、ぐっと親指を立ててくれた。
良かった、と唇が動いた。やった!
僕は早く感謝の気持ちを伝えたくて、彼の元へと向かった。
今朝、野外ステージに来る途中で、僕は楽器ケースをひったくられてしまった。
現金入りのアタッシュケースにでも見えたんだろうか。「あっ」と言って振り向いたときには、もう二人乗りバイクは遥か遠く。
せっかく、人前で演奏ができるチャンスだったのに。オーボエという楽器を、皆に知ってもらいたかったのに。
自分に自信のない僕が、迷って迷って、やっと決心したのに……。
「ここで待ってて」
絶望した僕に聴こえたのは、もう一台のバイクの音と、優しい声。
風のように僕の横を駆け抜けた彼のバイクは、ひったくりバイクにあっという間に追いつき……
「ほら、君のでしょ」
「あ、ありがとうございます……っ! 良かったあ……」
「へえ、今日はここで野外コンサートがあるんだ。君も出るの?」
「は、はいっ! このオーボエで……」
「え、俺、オーボエ奏者のオーボエ取り返したの!? うわ、いいことしたぁ」
「はい、大感謝です! ……あ、あの、もし良かったら、見ていって下さいませんか? 僕、貴方への感謝を込めて演奏します!」
「いいの? 喜んで! あ、俺は初音ムジカ。音楽関係…の仕事してるから、耳は肥えてるぜ?」
「えー、緊張してきた……」
そうして彼、ムジカは約束通り、僕の演奏を聴いてくれたんだ。
どうだったかな、僕の感謝、伝わってるかな……
「グィロロロロロ!!」
……え、何の声?
ステージ裏の機材の暗がりから、変な声がする。
僕はゾクリとした。最近の奇妙なニュースのせいだ。
有名な音楽家や歌手なんかが、変な声が聴こえたあとに行方不明になってる、ていう。
怪物を見た、とかの噂も。
でも僕は、まだ駆け出しの音楽家だ。彼らは有名人だから狙われたに違いない……と思ってた。
今日、二回目の絶望を目にするまでは。
「グィロロロロ!」
「うふふ、貴方、木村ソウタっていうの? とっても魅惑的なオーボエね。皆、貴方の音の虜になっちゃいそう」
大きな口をドラム缶のように開けた怪物と、それを従える冷たい目の黒衣の美女が、暗がりから出てきた。
僕は、一瞬で理解した。
あの噂は本当だったんだ。
こいつらが、音楽家を拐っている犯人!
「ねえ木村ソウタ。音楽は偉大よね。なんたって、言葉が分からなくても脳みそを直接刺激するんだもの。ヒトなんて、音楽で支配し放題!」
美女が叫ぶと、怪物の口がガバァと膨れ上がり、僕を……飲み込んだ。
……あ、あれ……僕はどうしたんだろう。
死んではいない。痛みは……あったような、なかったような。
……そうだ、オーボエ、大事なオーボエは……
手に持ってたはず、と右手を動かすと、銀色の硬いものがカチ、と言った。
……え?
左手も見る。同様にカチ、と音を立てた。
なにこれ、と声をあげる。
「ボエエエエエ」
なにこれ、……なにこれ!
僕の身体が! オーボエになってる!
「ボ、ボエエ、ボエエエエエ!!」
なにこれ、なにこれ!!
これは僕じゃない! こんな、怪物みたいな姿なんかしてない!
戻して! 戻してよ!!
「ボエエエ!! ボエエエエエエエ!!!!」
「あーっはっはっは! 素敵な悲鳴だわ、木村ソウタ。今から貴方の名は『オーボエファイター木村』。その美声で人間どもを殲滅してやるのよ!」
「ボエ、ボエエエ……!!」
ダメだ、鳴くと、声が衝撃波になってしまう!
ステージ上の照明が破裂して、ガラス片が降り注ぐ。ステージが割れて、人が落ちてゆく。
ダメだ、僕から離れて!
誰もケガさせたくなんかない!
こんなの嫌だ、嫌だああああ!!
「そこまでだ!」
「だ、誰っ!?」
……ああ、ムジカの声だ。
僕に「待ってて」と言ったあの声とは、同じ声だけど、怒りが込められた声。
「ボ、エ……」
きっと、僕を助けたときみたいに、会場の皆を助けようとしてくれてるんだ。
不思議と、ムジカが来てくれたから、もう大丈夫って思った。
皆を助けテ、お願イ。
僕が、僕でなクナって、シマう、マエ、ニ…………
「ああ、ソウタ。その『音』、受け取ったよ。
……俺は、残響の守護者『Harmonia』。嘆きの声を、聴き逃がしはしない!」
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特撮ギャグです。ギャグですよ!
ギャグというよりちょっといい話。よく中のソウタに気づいてくれた!(ㅅ´ ˘ `)♡




