秋桜星華さまのオーボエファイター木村
真っ白な氷の張ったリンクに、一人の男が佇んでいた。周りは異様な静けさに包まれている。
氷には大会のシンボルである、三角と丸を組み合わせた形が印されている。
〈さあ始まりました、音圧オリンピアード砕氷大会。最初の競技は『大声で氷を割れ!』です!〉
実況席から元気のいい声が響き渡る。
世界各地から腕に覚えのある人々が集まる音圧オリンピアード砕氷大会、略して音砕ピアード。その競技はどれも風変わりなものばかりだ。
氷の上の男が口を大きく開け、いきなり叫びだした。
「おああぁぁぁぁ!!!」
パリパリパリパリッ
〈おおっとナロウ国のエターナル選手! 開幕直後から力強い大声です! 氷が割れていく! 非常に芸術的です!〉
会場が歓声に包まれる。誤って観客の声で氷が割れてしまうと大変なので、静かにしていたのだ。
観客からの声に応えるように大きく手を振りながら、エターナルは退場していく。
そこに、氷張り係の数人が出てきて、マジックで一枚の薄い氷を張って出ていく。
〈氷が張り替えられました。続いてはエブリ国のシッピツ選手の登場です。前回大会の『大声で氷を割れ!』優勝者、今年はどんな割れをみせてくれるのでしょうか!〉
今度は長身の女性が歩み出て、同じように大きな声を上げる。
「きゃああぁぁぁ!」
〈おおっと、これは【事件性のある叫び声】!発声の芸術性を評価して、採点に大きく影響するでしょう!〉
女性の叫び声に被せるようにして、実況が盛り上がる。
女性は、割れた氷の上で三回転トリプルスピンをしながら退場していった。
それからもフツーの一般人がたくさんでてきてはそれぞれの叫び声で会場を圧倒し、退場していった。
〈さあ『大声で氷を割れ!』結果発表の時間です! 一体王冠は誰の手に渡るのでしょうか!〉
どぅるるるるるる、だん!
〈優勝は……みんなです! 素敵な芸術に順位なんてつけられません!〉
会場が、一気に白けた。
〈さあ2つ目の競技は『楽器で氷を割れ!』です! 最初の出場者は、我らが日本の木村選手ー! どんな割りを披露してくれるのでしょうか!〉
木村はオーボエを取り出し、一気に息を吹き込んで音を鳴らした。
ビイイィィィッ
鼻にかかった、濁りのある音が会場中に響き渡った。バリバリバリッと綺麗に氷が割れていく。
〈木村選手、会心の一吹きーっ! これは素晴らしいです!
さすがは我らの【オーボエファイター木村】ーっ!〉
木村は、どんな綺麗な割れ方をしても、そんな即興の二つ名で呼ばれても楽しくなかった。
目標は、大会での優勝。
そして、結果は知れているからだ。




