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無謀! 瞬発力企画2 会場  作者: しいな ここみ
第四回目 『オーボエファイター木村』
94/102

歌池 聡さまのオーボエファイター木村


『伝説のオーボエ・プレイヤー』






 ワシが初めてそいつの音を聞いたのは、もう何十年前になるかのう……。






 この街は、昔から若いジャズメンたちの吹き溜まりみたいなものでな。あちこちの店で、激しくセッションで競い合っていたものさ。


 大物ミュージシャンを呼ぶような高級店は別だがな、ほとんどの店が飛び込みOK。曲の切れ目になると、腕に覚えのある若者が名乗り出てくるわけだ。

『オレにも吹かせてくれ、楽器はアルトサックスだ』──みたいにな。


 だが、古株連中は新入りに合わせてやるほどお人好しじゃない。あえて難しい曲や珍しい曲を提案したり、難しいプレイを要求するのさ。『よし、〇〇という曲でどうだい? ただし5/4拍子で、な?』ってな具合だ。

 そうやって、ほとんどの新参が鼻っ柱を折られて帰っていく中、たまにそれでもついてくるヤツや、古株の予想をはるかに超えてくるヤツが現れる。そういうヤツだけが生き残っていけるのさ。






 その晩のセッションは盛り上がっていた。4人目の挑戦者がなかなかのもので、3曲ほどプレイして観客たちを熱狂させていた。

 ──そこに、ヤツが現れたのさ。


 ほっそりとした楽器ケースを抱えた、ティーンエイジャーのような男がステージの真ん前に歩いてきた。

「お、なんだ兄ちゃん、演るのか? 楽器は何だ、ずいぶんケースが小さいが?」

「こいつは『オーボエ』さ」


 一瞬沈黙が流れたあと、店内が爆笑に包まれた。

 

 ジャズを演るのに、どの楽器を使っちゃいけないなんてルールはない。だが、自在にアドリブを組み立て、パワフルな音を出せる楽器となるとサックスやトランペットなど、ある程度限られてくる。

 昔はクラリネットやフルート奏者も少しもいたが、最近はほとんど見なくなった。

 それが、『オーボエ』だと?

 そんなのはこれまで見たことも聞いたこともない。だいたい、オーボエっていうのは地味な割には演奏がやたらと難しいらしい。

 そんな楽器でジャム・セッションに飛び入りするなんて、正気か!?


 皆の困惑やバカにするような視線も気にせず、男はオーボエを組み立て、軽く音を出す。

 ふくよかで繊細で、およそジャズには向いてなさそうな美しい音色だ。

 ピアノの音でチューニングを確認した彼は、他のメンバーをぐるっと見回して頷いた。


「準備はいいかい、オーボエ・ボーイ。じゃ、軽ーく『Giant Steps』なんてなぁどうだい?」


 こりゃまた、最大級のイヤガラセだ。この曲は転調に次ぐ転調の繰り返しで、かなりの難曲なのだ。


「それでいいよ。キーはそのままで」


 そう言って、彼はカウントを刻んで、おもむろに吹き始めた。

 美しい音色、そして圧倒的な技術に裏打ちされた独創的なソロ・フレーズ。


 ──それが『伝説』の始まりだったのさ。





 彼は、『オーボエなんてジャズに向いているハズがない』という皆の思い込みを、木っ端みじんに打ち砕いた。

 そしてごく短い期間で、この街の誰もが認めるトップ・プレイヤーのひとりとなり、特別な名前で呼ばれることになったのさ。


 ──極めて優れたジャズ・マンは、周りから愛称や異名で呼ばれることがある。『(バード)』のように歌うチャーリー・パーカーとかな。

 中には『公爵(デューク)』エリントンや『伯爵(カウント)』ベイシーのように、異名をそのまま芸名にするケースも多い。

 異名で呼ばれるのって、すごく名誉なことなんだぜ? 


 だが、やがて彼がこの街を去ると、その名はまったく聞かれなくなってしまった。あれほどのプレイヤーが埋もれてしまったとは思えないんだがな。






 ──何、あいつが今でも第一線で活躍してる!? しかも本名で活動してるだと!?


 せっかく俺たちが付けてやった『オーボエファイター木村』という異名を名乗らないなんて──あんたたち日本人ってのはずいぶん謙虚なんだな。


 ん? 何だいその複雑そうな顔は。


 ──あ、そうだ。日本人なら他の日本人ジャズマンの消息も知ってるんじゃないか?

 他にも何人か、異名をとるほどのすごいやつがいたんだぜ。

 あんた、『タコヤキ加藤』や『ハラキリ柴田』がその後どうなったか、知らないか?

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― 新着の感想 ―
それは名乗りたくはない!( ̄^ ̄)! タコヤキ加藤やハラキリ柴田も気持ちは一緒に違いない!
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